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.社会  投稿日:2020/1/15

「ピラミッドは宇宙人が作った」 笑うに笑えぬ都市伝説 その1


林信吾(作家・ジャーナリスト)

 林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・古代史や古代文明に関する都市伝説には、非合理的な話が多い。

・理解が及ばない文化や文明は、その存在自体が怪しげに映る。

・宇宙空間を自在に飛び回る時代には世界は破滅に進む。 

 

1970年代前半、誰もが知っているハンバーガー・ショップが、本格的に日本でチェーン展開を開始した。

前後して、こんな噂が広まったことを、年配の読者はご記憶ではないだろうか。

「あの店のハンバーガーには、実は猫の肉が使われている

当時まだ小学生だった私の妹などは、

「気持ち悪ーい」

などと言っていたが、すでに中学生になっていた私は、

「そんなバカな話があるか」

と一笑に付したものだ。

理由は簡単で、猫一匹からハンバーガー何個分の肉が取れるのか、と考えれば、かえって採算が合わなくなるに違いない、と容易に推測できるではないか。なにごとも合理的に解釈すべきであるという、ジャーナリストの資質の片鱗がすでにあったのかも知れぬ(笑)。

そのあたりの判断は読者諸賢にお任せしようと思うが、人の噂とか都市伝説といったものを、当時からあまり信用しなかったことは確かである。特に古代史や古代文明について語られる都市伝説には、あまりにも非合理的な話が多い。

その眉唾なところがよいのだと言われれば、まあ物事は好き好きだから、と引き下がる他はないのだが、そうした都市伝説が生み出され、しかも一定の割合で信じる人がなぜいるのか、その背景については一考に値すると思う。

「エジプトのピラミッドは、実は宇宙人が作った」

という都市伝説がある。

学術としての建築法も、その基礎となる数学さえも未発達だった時代に、どうしてあのように巨大かつ壮麗な建造物が作れたのか。現代の土木建築技術でも、ちょっと無理ではないか、というあたりが、どうやら話の出所らしいのだが……

そういった都市伝説を検証するという趣旨のTV番組を見ていて、本当に飲みかけのコーヒーを吹いてしまったことがある。ピラミッドの四隅が、正確に東西南北を指しているのだが、

「一辺約330メートルに対して、3センチメートル程度の誤差しかない」

というのを聞いた瞬間だ。

▲写真 ピラミッド 出典:Pixabay;lappin

330メートル進む間に3センチメートルずれてしまう程度のナビゲーション能力であったとしたら、地球から月までおよそ38万キロメートルあるわけだから、金輪際たどり着けないのではないか。

「そんな宇宙人がいてたまるか」

で、この話は終わらせてもよいのだが、前にも述べたように、問題はどうしてこんな荒唐無稽な話が広まったか、という点だ。私は、こんなことを言い出したのは「欧米列強」の白人に違いないと考えている。

彼ら(全ての欧米人がそうだと決めつけてはいけないが)にとって、ギリシャ・ローマに端を発した西洋文明と、その後の産業革命を経て確立した近代科学こそが人類にとって唯一普遍的な文明なので、理解が及ばない文化や文明は、その存在自体が怪しげに映るのだろう。とどのつまりは、古代ギリシャの壮麗な神殿が作られるより数千年も早く、砂漠の中にあのような巨大建造物を作る文明が存在したということを、心のどこかで認めたくないのではないか。

実は日本の古代史に関わる都市伝説にも、同様の問題が見られるのだが、これについては次回あらためて見る。

その話はさておいて、私は宇宙人の存在そのものまで否定できるとは思っていない。

個人的な話をすると、小学生の時に数人の友人とともにUFO(当時はもっぱら〈空飛ぶ円盤〉と呼んでいた)を目撃した経験があるのだが、成長してからも、この大宇宙において、高度な科学文明に到達した生命体が我ら地球の人類を置いて他にないというのは、確率論的に無理があるだろう、と考えていたのだ。

▲写真 UFOイメージ 出典:Pixabay;Peter Lomas

しかしそれでは、いつかは『未知との遭遇』という映画のように、地球を訪れた宇宙人と交流できる日が来るのだろうか。あるいは、宇宙からの侵略者と戦うとか。

これもまあ、絶対にない、と決めつける根拠もないわけだが、20世紀の終わり頃、UFOやいわゆる超自然現象の研究家として、そこそこ有名だった人から聞かされた話が、今も忘れられない。

その当時(今にして思えば、一種の終末論だったのかも知れないが)、UFO研究家の間でトレンドになっていたのは、

「人類は結局、宇宙人と出会うことはないのではないか」

という考えなのだそうだ。

どういうことかと言うと、宇宙空間を自在に飛び回れるほどの科学技術を手に入れた生命体は、その反動と言うべきか、環境を破壊してしまったり、超近代的な兵器を用いての破滅的な大戦争を引き起こして、結局は滅びてしまうだろう、という世界観であるらしい。

なるほどそう言われてみれば、この地球上にも、自然環境の変化などによって滅びてしまった文明の痕跡がいくつもあるわけだし、無事に21世紀を迎えた今も、世界は相変わらずきな臭い。

人類が宇宙空間を自在に飛び回れる、言い換えれば特別なスキルのない一般人が宇宙旅行を楽しめるようになるまでに、あと何年かかるか分からない一方で、核弾頭を搭載してマッハ10で超低空(レーダーで捉えがたい)を飛び、しかも射程距離がシベリアからワシントンDCまで達するという、とんでもない巡航ミサイルは、すでにいつでも実戦配備できる段階に入っていると聞く。

一方では、新年特別号でも触れたことだが、原発事故の後始末や、首都直下型地震の脅威に備えての高速道路や病院・学校などの耐震化工事が遅れている一方で、周辺諸国の脅威を理由に、巨費を投じて空母を建造したりする国もある

核戦争が起きる蓋然性は、また別の議論になるけれども、どうも今の人類は「技術の力」を過信するあまり、自分で自分の首を絞めつつあるのではないか、と思えてならない。

ピラミッドを具体的にどうやって建造したのかという研究は、もちろんそれもそれで興味深いけれども、数千年も昔の話より、現在直下の戦争の危機や地球環境の問題に、もう少し敏感になった方がよいのではないだろうか。

(その2に続く。全4回)

トップ写真:ピラミッド 出典:Pixabay;Pete Linforth


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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