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.社会  投稿日:2024/4/22

LGBTQ+の旅行者が旅を楽しめるためにBooking.comが日本初「Travel Proudプログラム」を発表


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・Booking.comが、LGBTQ+の旅行者が安心して旅を楽しめるためのプログラムを発表。

・「Travel Proudプログラム」日本語版を日本で初めて導入した。

・今後多くの国内施設が認証を受ける見込み。

 

世界最大級の宿泊予約サイトBooking.comは、4月19日東京都・渋谷にて、LGBTQ+の旅行者が安心して旅を楽しめるための、「Travel Proudプログラム日本語版を日本で初めて導入すると発表した。

Booking.comは去年、日本を含む世界27か国、11,555人のLGBTQ+の旅行者を対象に調査を実施、日本版の結果が7月6日に発表された。

それによると、日本人のLGBTQ+旅行者の60%、世界のLGBTQ旅行者の80%が安全やウェルビーイングを考慮しなければならないと回答し、前年の調査から約10%上昇した。

また、日本人のLGBTQ+旅行者の43%(世界:71%)が、LGBTQへの差別や暴力のニュースが旅行先の選択に大きな影響を与えると答えた。

世界には同性愛の性行為を違法と認める国が64か国あり、なかには死刑に課される場合もある。日本人のLGBTQ+旅行者の25%(世界58%)は旅行中に差別を受けたことがあると回答する。さらに、日本4%(世界13%)のLGBTQ旅行者が現地の公的機関に脅迫されたり威圧的な態度を取られたりしたという。

このように、LGBTQ旅行者は旅行中に様々な不安を感じており、それはLGBTQの権利を法が保障する国でも変わらない。例えば、法制度が整っている国でも、イベントでIDを提示する際に16%(世界12%)が不快な思いをしている。

一方、日本15%(世界42%)の旅行者が到着前の宿泊施設の対応がフレンドリーだったと答えるように、ポジティブな旅行体験も増加している。日本人のLGBTQ旅行者63%(世界78%)が、旅行業界がLGBTQにフレンドリーになることで、旅行に行きやすくなったと述べている。

■ 「Travel Proud」とは

こうした状況を変えるため、Booking.comは「Travel Proud」というプログラムを2021年から提供している。LGBTQ+の旅行者が直面する特有の課題に関する新たな視点を宿泊施設に提供することで、LGBTQ+の旅行者の旅をさらにインクルーシブなものにすることを目的としたものだ。

施設は、Booking.comが無償で提供する「Proud Hospitalityトレーニング」を受講・修了し、実践すると、Booking.comのプラットフォーム上に、「Proud Certified」の認証を受けた宿として表示される。

▲図 「Travel Proud」のロゴ 提供:Booking.com

LGBTQ+の人々が宿を予約するときに事前に、どの施設が「Proud Certified」の施設かわかれば、大きな安心感が得られるだろう。宿泊施設にとって、LGBTQ+の人々の間で評価が上がれば、ビジネス面でプラスになる。双方にとってWin-Winの関係を築くことができるはずだ。

Booking.comは、すでに日本で「Proud Hospitalityトレーニング」の日本語版を契約施設に案内し、希望する施設に開始していることを明らかにした。

Booking.com 北アジア地区統括リージョナル・ディレクター 竹村章美氏は、「我々の理念は、『全ての人に、世界をより身近に体験できる自由を』というものであり、ダイバーシティー、そしてインクルージョンが大きな重要なテーマでもあります」と述べるとともに、「Travel Proudプログラム」を大きな柱として発信していく考えを示した。

▲写真 Booking.com 北アジア地区統括リージョナル・ディレクター 竹村章美氏 ⒸJapan In-depth編集部

Booking.comのローラ・ホールズワース氏は、「アジアにおいて初めてこのTravelProudプログラムを日本語でおこなうことを大変誇りに思っています」と話した。そして、「あらゆる人たちが世界を同じように体験できるようにすることができると信じています」と結んだ。

▲写真 Booking.comアジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター兼副社長 ローラ・ホールズワース氏 ⒸJapan In-depth編集部

また、ホールズワース氏は、「Travel Proudプログラム」の背景にある同社の姿勢を現すコピー、”We Filter Places, Not People”.をあげた。すべての人がありのままでいられるようなサービスを提供する宿を増やしていこうという同社の覚悟を示した。

▲写真 Travel Proudの精神を現すコピー“We filter Places, Not People” ⒸJapan In-depth編集部

 当事者たちの声

パネルディスカッションには、以下の6人が登壇した。

Booking.com 北アジア地区統括リージョナル・ディレクター 竹村章美氏

Booking.com アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター 兼 副社長 ローラ・ホールズワース氏

Booking.com 東日本地区エリアマネージャー オリビア・ジョン氏

all day place shibuya 支配人 飯島亮氏

ドラァグクィーン、歌手、俳優 ドリアン・ロロブリジーダ氏

作家、トラベルライター、クリエイター カラム・マクスウィガン氏

ドラァグクィーン、歌手、俳優のドリアン・ロロブリジーダ氏は、自身の経験を元に実際に旅行中に感じたエピソードを紹介した。

例えば、海外旅行だと、パートナーがトランスジェンダー男性なため、パスポートに書かれている性別と見た目が違うため、入国審査の時にひっかかることがあったそうだ。

▲写真 ドリアン・ロロブリジーダ氏 ⒸJapan In-depth編集部

また国内旅行で温泉などに行く場合だと、人の目が気になることもあり、大浴場ではなく、家族風呂や貸し切り風呂がある宿を探すという。

そして男性2人でキングベッドやダブルベッドの部屋を予約した場合、フロントが何事もなく受け入れてくれればいいのだが、宿によっては「あら、お仕事ですか?出張ですか?」などと声をかけられることがあるという。ちょっとしたコミュニケーションのつもりかもしれないが、答えに窮してしまう。「いいえ、恋人との旅行なんです」というか、「ええ、出張なんです」と嘘をつくのか、選択を迫られることになる。

「ある意味、自分のセクシュアリティやジェンダーをカミングアウトしなければいけない状況、もしくは嘘をつかなきゃいけない状況に直面することがあったりして、そういう本当に些細なストレスが積み重なっていくと、宿での体験や旅自体の思い出がどうしても楽しくないものになってしまいます」。

そうドリアン氏は、日常的に直面する問題について語った。

逆にLGBTQ+当事者に対して、「スマートな対応をしてくれたホテルの株はものすごい上がる」ことになるとも話す。そこに「Travel Proudプログラム」の意義がある。

作家、トラベルライター、クリエイターのカラム・マクスウィガン氏は、「温泉についてトランスジェンダーの友人らによく聞かれるけど、今、ドリアンさんの話を聞いて解決策がわかりました」と述べるとともに、施設側にそういう知識を持つ人がいることが望ましい、との考えを示した。

また、「Proud Certified」マークがついている施設に泊まるときには、ボーイフレンドとのベッドの共有を拒否されることもないし、それどころか、LGBTQ+関連の本やレインボーケーキなどが部屋に置いてあった、というエピソードを紹介した。

▲写真 カラム・マクスウィガン氏(右)とドリアン・ロロブリジーダ氏(左)ⒸJapan In-depth編集部

また、おもてなしの文化を持つ日本がさらに旅したい国になる可能性について聞かれると、「Travel Proudプログラム」を1年以上前に受講し、認定を受けている東京・渋谷のホテル、all day place shibuya 支配人飯島亮氏は、「(可能性は)もちろんあると思っています。おもてなしを通して日本の魅力を感じてほしいですし、そのために継続していくことが非常に大切だと思っています」と述べた。そして、今年6月のプライド月間にむけ、「自分らしさ」をテーマにイベントの準備をしていることを明かした。

そして、「少しずつ私たちを知ってもらうきっかけを作っていけたらなと思っています。私たちもホテルとして選んでもらえるような魅力的な施設となれるように日々努力していきたいです」と決意を語った。

最後に、Booking.comが「Travel Proudプログラム」の認証施設を増やしていくに当たり、目標があるのか質問した。

それに対し、ホールズワース氏は、「インクルージョンを促進することが私たちの目標です。特に数値目標は持っていませんが、啓発活動やエンパワーメントをしっかりと促進していきます。そのためにもいろいろな形で地元の施設とコミュニケーションをしたり、知識や知見を提供したりしていきます」と述べた。

 日本の「Travel Proudプログラム」認証状況

Booking.com東日本地区エリアマネージャーのオリビア・ジョン氏によると、4月12日時点で、「Travel Proudプログラム」に登録した施設数は約600、そのうち約130施設が「Proud Hospitalityトレーニング」を受講済みだという。4月25日と30日の枠と、5月、6月までに残りの施設も同トレーニングを受ける予定だ。さらに希望が多い場合は、その先も検討する可能性があるという。

▲写真 Booking.com 東日本地区エリアマネージャー オリビア・ジョン氏ⒸJapan In-depth編集部

トレーニングを受けただけでは、Proud Certifiedという認証バッジは得られない。Bookin.comから「受講が終了したので、認証登録をします」というメールが施設に届き、それに返信して、施設IDと紐付くとようやく認証バッジが取得できる仕組みだ。

さらには、各施設の全従業員に同プログラムの中身を徹底するため、マニュアルを送るだけでなく、営業担当が定期的に声をかけていくという。

「施設ごとに認証を受けた方に、いわゆるアンバサダー的な形で、自分たちの施設の中で社員教育を徹底してくださいとお願いをしています」とジョン氏は語る。

インバウンドが年々増えている状況で、日本の多くの施設が「Travel Proudプログラム」に関心を持ち、認証を受けようとしていることは評価できる。

一方で最近は、オーバーツーリズムの問題などが多くのメディアで取り沙汰されていることから、一般市民の間にインバウンドに対するネガティブな感情が醸成されることが懸念される。

またLGBTQ+に対する日本社会の理解はまだ十分とはいえず、一般市民もみずから多様性、インクルーシブな社会のあり方について学ぶ姿勢が重要だと感じる。

Booking.comのような外資プラットフォーマーの取り組みもさることながら、日本資本の大手ホテルチェーンの積極的な取り組みはあまり見えてこない。今後の情報発信を期待したい。

(了)

トップ写真:左からBooking.com 東日本地区エリアマネージャー オリビア・ジョン氏、all day place shibuya 支配人 飯島亮氏、ドラァグクィーン 歌手 俳優 ドリアン・ロロブリジーダ氏、作家 トラベルライター クリエイター カラム・マクスウィガン氏、Booking.com アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター兼副社長 ローラ・ホールズワース氏 ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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