[Japan In-depthチャンネルニコ生公式放送リポート]【認知症になっても大丈夫な社会を作ろう】〜ジャーナリスト古川雅子氏に聞く〜
2015年10月28日放送
Japan In-depth 編集部(Sana)
今週の放送は、介護問題や認知症について取材を続けるライターの古川雅子氏と、AERAの古田真梨子記者をゲストに、AERAでも特集された「認知症」について議論された。アルツハイマー型が一番多く知られているだろうが、認知症には多くの種類があり、一括りにはできない。罹患している方々が共通して抱える問題はなんだろうか。古川氏は認知症当事者への取材を数多く重ねてきた。ここにきて「映画『アリスのままで』などの認知症を取り扱う映画が放映されるなど、身近なテーマになりつつある。さらに日本でも、認知症を患う当事者の体験談を聞くことができる機会が以前より増えた。
古川氏が、以前来日した、オーストラリアのクリスティン・ブライデン氏(認知症当事者)の講演を聞いて一番印象に残っているのは『思考の風船が頭の中で引っかかってしまっている』という言葉だという。「内面の葛藤やもどかしさを垣間見た気がした」と述べ、認知症を抱える人自身が、世界をどう受け止め、どんな困難を感じているのかを知ることが重要だと指摘した。また、「認知症の症状はゆっくりと進行し、物忘れのように断片的に情報が欠落するのではなく、外出した事実すら忘れ、エピソードまるごとの記憶が抜け落ちるといった特長がある」とし、その症状を解説した。
国際アルツハイマー病協会の発表によると、全世界における認知症の患者数は、2030年には7600万人、2050人には1億3500万人に及ぶという。厚生労働省の統計では、2025年には国内の患者数は700万人を超え、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患すると言われている。
「高齢化と関係があるだろう」という安倍編集長の指摘に古川氏は賛同し、「日本はそもそも超高齢社会。『誰かが認知症になる』というよりは、『誰もがなる可能性がある』と考えたほうがいい」と述べた。「昨今は、『健康寿命を延ばす』ことがブームになっている。健康にいいことをすると、症状を遅らせることができるのか」と安倍編集長の質問に対し、「科学的に証明された対症法はわかっていない。厚労省によると、65-69歳の方が認知症になる確率は1.5%に対し、70-74歳になると3.6%、75-79歳になると7.1%、85歳以上になると27.3%と、年齢に比例して出現率が上がると報告されている」と古川氏は述べた。古田記者が「認知症は完治しないのか」と質問すると、古川氏は「現時点では治癒は見込めないが、初期対策として、伝言ゲームなど脳を活性化させること、閉じこもらず外出することなど、脳を活性化させ、症状を進ませないための取り組みもある」と述べた。
最近では64歳以下の認知症患者も増加し、所謂「若年性認知症」として注目されている。「若い頃に罹患すると、本来仕事のできる年齢であるにも関わらず職を失うことになりかねない」と古川氏は若年性認知症特有の問題を指摘した。安倍編集長が「若年性認知症を罹患したことで、リストラにあったり、正社員になれなかったりという問題に直面し、精神的に病んでしまう人も多いのでは」と指摘すると、古川氏は「もちろん精神面での負担も大きい。そのうえ、収入を失うことで生活ができなくなるという経済的な損失が見逃せない。通常の認知症の解決のための対策として『医療』・『介護』がクローズアップされがちだが、『職』・『生きがい』・『家のローン』など、従来の手段では解決しようのない課題が現実的な問題としては大きい」と答えた。
「シニア層の雇用に取り組む企業もあるが、受け入れ環境が十分な企業は多いとは思えない」という古田記者の意見に対しては、「シニア層、あるいは認知症当事者の雇用や仕事への起用に戸惑いを感じている企業も多いだろう。町田市のデイサービス“Days BLG!”の例を取り上げると、社会貢献活動として認知症当事者が洗車のアルバイトをする機会を作っているのだが、この雇用を生みだすために彼らは1年半もの間、HondaCars東京中央町田東店を説得しなければならなかった」と自身がルポした現場の様子を伝え、認知症当事者の雇用の受け入れには、そうした当事者の存在がもっと身近になる必要があることを指摘した。
もし自分が認知症になったとき、周囲の人は今までどおり自分と接してくれるだろうか。「認知症の罹患者の言動を特別に意識しすぎるのもよくない。『認知症』についての知識をあまり持たない子供達の方が、自然と罹患者と接することができる」と古川氏が述べると、安倍編集長も「地域一体となって支えること、罹患しても生き場所があることは欠かせないポイントだ。その意味で、共助の意識を持つことが大事だ。」と賛同した。
古川氏は「罹患した人による情報発信が増え、『認知症になったら何もできない』という固定観念は払拭されつつある。進行を遅らせる薬も増えているが、社会的なつながりをもつこと、工夫しながら普通の暮らしを楽しむことが、認知症の進行を遅らせることに役立つはずだ。そのための社会的なサポートが欠かせない」と述べた。
「社会とつながりを持てない人は、認知症にかかったことにすら気づかないのではないか。行政や地方自治体がサポートできることはないのか」と安倍編集長が質問すると、「企業、民間、NPO、どこでもキーとなることができる。静岡県富士宮市のケースでは、認知症当事者が全国から集まるソフトボール大会を開くなど、町中でイベントが開かれていて、イベントを通して仲良くなった住民が、相互に助け合う仕組みが出来つつある」と古川氏は述べ、公的なサポートのみに頼ることなく、地域で支えあう大切さを説明した。
最後に古川氏は、「認知症になっても大丈夫という考え方を広めたい」と述べ、今後認知症を患う人々が生き生きと活躍できる社会を目指すべきであることを強調した。
(この記事は2015年10月28日放送 を要約したものです。ニコ生【Japan In-depthチャンネル】)
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