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.社会  投稿日:2025/4/9

PFASのための全国血液調査こそ必要だ〜日本経済をターンアラウンドする30~


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)により兵庫県明石市の飲み水が汚染されている。

・定期的な水質検査及びPFAS濃度「水質基準」への引き上げが2026年4月より施行予定。

・社会問題化、健康被害のリスクを考え全国的に血液検査を促すべき。

 

 

発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)によって、飲み水が汚染されていることが全国的に問題になっている。政府も、その声の高まりを受けて対応。自治体や水道事業者が定期的な水質検査の実施、PFASの濃度を水道法上の「水質基準」に引きあげることが2026年4月から施行されることになった。

 

PFASは、一説には一万種類以上もの有機フッ素化合物の総称で、その代表的なものがPFOS、PFOAだ。PFOSはペルフルオロオクタンスルホン酸(Per Fluoro Octane Sulfonicacid)の略称、PFOAは、ペルフルオロオクタン酸(Per Fluoro Octanoic Acid)の略称である。テフロン加工という言葉を聞いたことがあると思うが、このお陰で、フライパンでこびりついても直ぐ洗えるようになるなど絶大な効果をもたらす。焦げ付き防止加工のフライパンやハンバーガーなどの包装紙、化粧品、レインコート、カーペット、半導体など、様々な生活用品に含まれていて、水も油もはじく便利な物質である。我々の消費生活を支えてくれたと言ってもいい。

しかし、「永遠の化学物質」とも言われている。健康上の影響で、PFOSとPFOAの製造・使用・輸入が国際条約で禁止されていて、日本でもPFOS、PFOAは特定の用途を除き製造・輸入・使用等が禁止された。2020年には、厚生労働省が水道水の暫定目標値として、PFOS・PFOAの合計値を「1リットルあたり50ナノグラム以下」(1ナノグラムは1グラムの10億分の一)とした。この値は「体重50kgの人が毎日2リットルの水を一生涯飲み続けても、健康に悪影響を及ぼさない濃度」となる。しかし、まだ米国や欧州より規制は甘い。

 

 

◆以前から問題に

全国で暫定目標値を大幅に超えるPFASが検出されている。飲料水の原水となる河川水、井戸水、地下水、水路、雨水ポンプ場の排水、農産物などから高濃度で検出。過去にPFASを製造・使用した工場、米軍基地、空港の周辺、産業廃棄物の放置場が汚染源と考えられている。

図)水道水のPFAS検出状況マップ

出典)NHK「水道水のPFAS検出状況マップ」

 

環境省は、現在のところ暫定目標値を超えた全国の地域における健康被害はないとしているが、まだまだわからない。

政府もスピードは遅いが、それなりに対応してきた。東京都は2019年の段階で、多摩地区にある3つの浄水場で地下水源からの取水を止めた。

 厚生労働省は「健康影響がわからない」として静観していたものの、2020年春に暫定の目標値を設けた。環境省と国土交通省は、2024年に水道事業者に水道施設におけるPFOS、PFOAの検査を要請し、結果発表。2020~2023年度は14事業で暫定目標値を超えたが、2024年度に目標値を超えていなかった。

 

 

◆明石の渋谷氏は言う「健康調査を実施すべき!」

しかし、健康へのリスクはどうなのか。

中でも兵庫県明石市、神戸市が全国的にも注目を浴びている。明石市東部で水道水として使われている明石川の取水口付近での水質検査で目標値の3倍近くの数値が出たことを受けて、「明石川流域のPFAS汚染を考える会」は33名を対象に血液検査を行った。ほぼ半数の人が健康へのリスクがあるとする基準を上回った。

そこで、「明石川流域の PFAS 汚染を考える会」の代表である渋谷進さんに取材した。

写真)渋谷進さん(筆者撮影)

 

渋谷さんは、自分の地元でPFASの問題に気づき、活動を先導している。渋谷さんが政策で言うのは「早く調査をすべき。問題を特定し、処置する、そのスピードが問われているはず」と。流出源を特定することの必要性を問う。さらに渋谷さんは血液検査の必要性を主張している。彼は言う「血液検査はお金がかかる。しかし、必要だと思う。現状がわからなくては意味がない。しかし、『寝た子を起こすな!』という人もいる」と。その方法もそんなに難しいものではないらしい。「単純なんですよ。市の健診項目にいれればいい」ということだそうだ。

写真)水道施設(筆者撮影)

 

健康への影響としては、疫学研究によると、腎臓がんや精巣がん、高血圧、妊娠高血圧、免疫系の影響、さらには出生体重の低下やホルモン異常などのリスクが指摘されている。また、PFASは体内に蓄積しやすく、長期間にわたる曝露が問題視される国際がん研究機関(IARC)は、PFASの一部を「発がん性がある」と評価されている。日本では健康被害の証拠は限定的であり、さらなる研究が必要とされている。厚生労働省もまだわからないというスタンスでもある。

 

 

◆社会問題化している、血液検査を全国に

岡山県吉備中央町では、「2020年800ng/L、2021年1200ng/L。2022年1400ng/Lという暫定目標値の16~28倍の数値が検出」(幸田泉さん記事によると)された。発生源はなんと浄水場近くに置かれていた使用済みの活性炭である可能性が高いとされている。工場で使われたPFAS除去剤が資材置き場に置かれ、そのずさんな管理でPFASが土壌から漏れ、水源に達したと考えられている。

さらに、住民の血液検査では、PFASの濃度がアメリカの指針で示される健康リスクの基準値を大きく超えた。この吉備中央町は、税金で実施した初めての自治体でもある。

それまでの発生源としては、泡消火剤を使う米軍基地、化学工場が考えられていた。しかし、今回はそうした施設が近くにある自治体ではなかったので、このニュースは私も衝撃的だった。これだけ健康被害のリスクがある中、全国的にも社会問題化しているし、人によっては「公害」と評価する人もいる。

今こそ、石破総理は全国の自治体への血液検査を指示してほしい。健康リスクが高まっている今、「楽しい日本」の基盤を作る活動を期待したい。

 

 

トップ写真)明石川下流(筆者撮影)




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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