高コスト・低品質な国産戦闘服:自衛隊装備調達の問題と改革の必要性
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・中谷元防衛大臣は自民党の佐藤正久氏から自衛隊員に貸与する衣服についての改善を求められ、「改善していく」と述べた。
・多くの被服は性能や機能に問題があり、しかも調達単価が高い。
・必要なことは隊員が必要な被服や装備をリーズナブルな価格で調達するシステムを構築すること。
3月5日の参院予算委員会で、中谷元防衛大臣は元陸上自衛官幹部の自民党の佐藤正久氏から自衛隊員に貸与する衣服についての改善を求められ、「改善していく」と述べた。だがその「改善」は単なる税金のムダ遣いになる。
佐藤議員の主張は以下の二点である。まず、陸海空自衛隊で衣服の貸与枚数や貸与年数が異なること、そして下着を国産にしろというものだ。「民主党政権時の事業仕分けで『中国製の下着に変えろ』という話があり、自衛隊はものすごく抵抗した。いざというときに隊員の血が付くものだから絶対認められない、と防衛省が抵抗した。殉職隊員が裸で死ぬわけがないからだ。だから私物を買わせるのではなく、しっかりとした作業服や制服を着ることにこだわっている。私物を買うと(大量に輸入されている)メイド・イン・チャイナになってしまうので、しっかりお願いしたい」と強調した。
これに対して中谷大臣は「例えば下着については陸上自衛隊が2枚、海上自衛隊2枚、航空自衛隊1枚というふうに、陸海空の補給本部が定める規則によって規定されている。以前からそうしたルールがあり、改善に向けて検討している」と説明した。(3/6 (木) 産経新聞「民主党政権で『中国製の下着に変えろ』という話」自民・佐藤氏が自衛隊員の衣服改善要求 – 産経ニュース)
率直に申し上げてこれは単なる既存の納入業者の利権拡大にしかならず、隊員に対するベネフィットは少ない。単に税金のムダ遣いに終わるだろう。また中国製下着に抵抗があったという自衛官は筆者の知る限り存在しない。
無論本当に必要であり支給数を増やすべき被服は存在する。ただ多くの被服は性能や機能に問題があり、しかも調達単価が高いという問題がある。それが長年改善されていない。このため一回も官給品を使わずに返納する隊員も少なくない。特に下着や靴下などはその好例だ。
陸自の戦闘服は国産の難燃性ビニロン生地を使用しているが、これは色落ちが激しく、破損しやすく耐久性が低い。しかも国産にこだわり、ユニチカ(株)及びクラレ(株)の二社寡占状態が続いているので調達単価も極めて高い。難燃性ビニロンを戦闘服に使用しているのは筆者の知る限り自衛隊だけだ。
対してアメリカ軍はオランダの防弾素材大手のテンカーテ社の開発した難燃繊維、ディフェンダーMを採用しているが、帝人はディフェンダーM原料の1つであるアラミド繊維を供給している。また帝人は同様の耐火繊維、コーネックスを開発、販売している。
諸外国に比べて劣った戦闘服を使用していれば、戦時に隊員の死傷率は高まる。2016年、防衛省は公正取引委員会からこの戦闘服の独占禁止法違反行為を指摘された。だが防衛省は本件に関して外部委託調査を行い、「現行素材である難燃ビニロンが、繊維技術の進展を踏まえても依然、難燃性、コスト、風合い等において総合的に優位であることを確認し、現在も当該素材を戦闘服等で使用しています」と強弁している。この外部調査もはじめに結論ありきではないか。自衛隊だけが難燃性ビニロンを選択することを正当化することには無理がある。難燃性ビニロンの使用を仕様に明記していることは、現在寡占している二社の利権確保のためではないか。筆者はかつて帝人の担当者に取材したが、帝人ですら市場に参入できず、弊社は海外市場で稼ぐと明言していた。競争を排除して、高価格で低性能、低品質の被服の調達を増やすことが隊員のため、あるいは防衛産業の振興、防衛費の効率的執行になるわけがない。
下着は中国製では許せない、国産支給を増やせというのは「お気持ち国粋主義」、感情論である。中国製反対というのは「仮想敵国」たる中国製は許せないということだろう。
そもそも我が国の洋服や下着などアパレル製品の98パーセントは輸入である。そもそも現在、アパレルでは中国の人件費高騰もありメイド・イン・チャイナからベトナムやバングラデシュなどに移行している。当の中国企業ですらこれらの国に生産をシフトしている。
そもそも国産とは何なのか。実は佐藤議員は深く考えていないのではないか。例えば「国産下着」の素材であるコットンやゴムなどは全部輸入品である。化繊にしても輸入が大半だ。国内メーカーのYKKのジッパーなどしても外国で生産しているものが多い。これらは「国産」なのだろうか。「国産」でないと隊員の誇りと士気が保てないというのは歪んだ感情論に過ぎない。その伝であれば、米国製戦闘機やフィンランド製装甲車では命を掛けられないということになるだろう。国産でないと命を掛けられないというのは旧軍同様の精神主義であるとしか思えない。もしそのような隊員がいるのであれば自前で揃えるべきだろう。佐藤議員の政務についているときに着ている背広やネクタイ、下着は「国産」なのだろうか。
実は現在多くの国では被服や個人装備の国産にこだわっていない。品質がよく、コストが安ければ外国製を使用するケースは少なくない。海外の軍事見本市にいけば多くの企業が輸出用の被服を展示しているのがその証左である。
そもそも自衛隊の支給している「国産下着」は低品質で機能性や使用感が悪いのに値段だけは高い。そして、隊員の多くはそれ故に支給した下着などを一度も使わずに返納することも少なくない。つまり税金のムダ遣いになっている。
自衛隊の下着は高機能素材を使っていない。天然素材ならばメリノウールは難燃性で、着心地や吸湿性もよく、匂いもつきにくい。戦闘用の下着には適した素材だ。だが値段は相当に高い。このような被服を自衛隊は支給していない。率直に申し上げて自衛隊にまともな被服を開発、調達する当事者能力はない。戦闘で勝つことよりも前例踏襲と、既存業者の利益の保全が第一だ。
一方で、安易な民生品使用にも難燃性問題がある。例えばクールマックスやヒートテックなどのハイテク素材には問題がある。これらはやけどを負った際に溶けて皮膚に溶着して呼吸を阻害するので危険だ。これらを安くて快適だからと安易に使用するのは有事や事故の際に大変危険だ。
筆者は最低限の下着は支給し、後は隊員一人当たり例えば5万円という上限を決めて隊員に自分の欲しいものを選ばせて領収書を提出させて支払うというようなシステムを導入すべきだと思う。それをデータベース化して官給品と性能やコストを比較し、官給品の改善に繋げればよい。
戦闘服やバックパックなどの個人装備などもユニクロやしまむらに委託してベトナムやバングラデシュなどで生産してコストを下げるべきだ。おそらく現在の数分の一のコストで済むはずだ。例えばベトナムからの輸入は特恵関税が適応されているので、輸入に際の税金も安い。コストを下げることによって、予備備蓄用の被服を例えば3割増、4割増しで調達すれば有事に困ることもない。国内生産でないと有事に増産できないというのはイリュージョンである。国内の向上に大量増産する生産の余裕はないし、ボタンやジッパーなども輸入が多く国内調達はできない。国産品といっても国内で自己完結しているわけではない。
必要なことは現在の旧態然の既存企業の利益確保を廃して、本当に隊員が必要な被服や装備をリーズナブルな価格で調達するシステムを構築することだ。故安倍晋三元首相は国債を刷ればいくらでも防衛費を増やせるといっていたが、事実ではない。国家財政がGDPの2.6倍という巨額の赤字を抱えて無制限に国債を刷れば円の信用は既存され極端な円安になって国民経済も産業も破壊される。防衛費にも上限があり、その中で優先順を決めて、コストの削減に努めるべきだ。
トップ写真)リシ・スナック英国首相、広島で開催されるG7サミットを視察 横須賀海軍基地(日本)-2023年5月18日
出典)Stefan Rousseau – WPA Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。
2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェン
東洋経済オンライン
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