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.政治  投稿日:2023/1/18

失敗作、P-1哨戒機の調達は中止すべきだ ①


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・P-1哨戒機は高コストで低性能であり、完全な失敗作である。

・P-1は旧式の他国のP-3Cにも及ばず、米海軍のP-8が示した敵役の米原潜の場所すら探知できなかった。

・P-1は機体もエンジンも、システムも専用だから、生産・維持整備費コストは極めて高い。

 

失敗作、P-1哨戒機の調達は中止すべきだ。

海上自衛隊の哨戒機、P-1は完全な失敗作である。低性能で信頼性も低い上に。元々高い調達コストや維持費は跳ね上がっている。調達は停止すべきだ。

先ごろ防衛省が発表した防衛力整備計画では5年間で海自のP-1哨戒機19機を調達することになっている。P-1の調達価格は取得初年度の2012年度は157億円だった。来年度の防衛予算案ではP-1は3機、914億円、1機あたり304.7億円で要求されている。P-1の機体単価にこれまでの初度費を合わせて機数で割ると1機辺り約20億円となる。であれば実質的な来年度要求の調達単価は324.7億円、当初の2倍に高騰している。(表参照)

▲表 P-1の調達について(提供:防衛装備庁)

※1- 平成28年~平成30年度予算額及び契約額は、平成27年度20機の搭載電子機器等の一部を調達、※2- 機体単価は、契約額を記載。ただし、令和3年度補正の機体単価については、令和3年度補正契約額及び令和4年度予算額から算出

米海軍のP-8ポセイドン哨戒機の米海軍向け最終ロットが約200億円なので1.5倍も高い。因みに米海軍は2012年から調達を開始し、2021年までの9年間で128機を調達し、調達を達成している。対してP-1は2008年から調達が開始されて、防衛省は最終的な調達数を明らかにしてはいないが、恐らくは2027年まで61機を調達して終わるだろう。だが更に電子戦機などの派生型が調達される可能性が高い。

P-1の能力は高くない。2021年、グアムで行われた米海軍主催の固定翼哨戒機の多国間共同演習「シードラゴン2021」で、成績はP-8がトップ、次いでP-3Cだった。P-1は旧式の他国のP-3Cにも及ばず、米海軍のP-8が示した敵役の米原潜の場所すら探知でなかった。この話は武居智久元海幕長が自民党の国防部会で明らかにしている。自民党国防部会はこのようなシビアな現実を知らされても、高コストで低性能なP-1の調達にブレーキを掛けなかった

P-1は機体、エンジン、システム全部専用で国産新規開発だ。これが高コスト主たる原因だ。普通の国は哨戒機には機体やエンジンは実績のある旅客機や輸送機を使う。それはまた機体やエンジンをできるだけ安価に調達して、維持費を抑えるためだ。世界中で多く使用されている旅客機や輸送機であれば、コンポーネントも量産されて安く、整備できる工場も多い。実際に米海軍が採用したP-8も737の機体とエンジンを利用している。海自が運用しているP-3Cにしても元は旅客機のエレクトラだ。

だが海自はこのクラスの機体で4発の機体は存在しない。それが是非とも必要だと主張して開発を断行した。4発機は冗長性があり、またジェットエンジンを採用することで進出速度が高くなる、という理屈だ。だが、世界に無いということは、逆にいえばどこの国でも必要しない、あるいは現実的ではないということだ

かつてP-1がPX(次期哨戒機)と呼ばれて計画されていた当時、石破茂防衛大臣(当時)はそのプロジェクトに反対していた。ところが内局、海幕の包囲網にあって認めざるをえず、自分が反対した旨だけは記録するように命じた。それが精一杯できる抵抗だった。大臣と言えども、組織に反対できないのが実態だった。石破氏はこのことを振り返って「現場の搭乗員は怪しげな4発機よりも信頼性の高い双発機の方がいいです、というんだよ」と筆者に語っている。

英国では既存の新型哨戒機として既存のニムロッドMR2を改良してMR4とする案があり、開発も進んでいた。ニムロッドは初期ジェット旅客機であるコメットを流用して開発された機体だ。ニムロットの主翼は後退角が少なく、4発のジェットエンジンを搭載しているのは設計が古かったからだ。当時のジェット旅客機は速度も遅く、現在の高高度を高速で飛ぶ旅客機と比べて、速度も遅く、主翼の後退角度もすくなかったので、低空での運動性は良好だった。また4発だったのは、当時は高い推力と信頼性のあるエンジンが存在しなかったからだ。だがニムロッドMR4はあまりの開発・調達コストの高騰によって開発はキャンセルされた。無理な調達を無理やりしなかった英国の政府と国防省の決断だった

1990年代までは大西洋や太平洋を横断する旅客機は3発あるいは4発機であることを求められた。その後エンジンの信頼性が上がって双発でも大丈夫となっている。4発機でなれば安全性を保てないと海幕の主張は、P-8を採用した同盟国の米海軍は人命軽視をしているというのだろうか。海幕の主張が正しいならば米海軍も同様な4発機を新たに開発していたはずだ。

P-1は機体もエンジンも、システムも専用だから、生産・維持整備費コストは極め高い。P-8の元となったボーイング737とは生産数が3桁も違う。維持整備費が大きく違うのは当然だ。P-8にしても豪州海軍、インド海軍、英空軍、ノルウェー空軍、ニュージーランド空軍の6カ国へ150機以上を納入している。更に今年は韓国、2024年にはドイツへの初納入予定である。維持整備コストは更に安くなっているだろう。P-8は成功機体であり、どこの海軍も低空を飛ぶ4発の哨戒機を欲していないことは明らかだ。「低高度での運動性が低い、双発では哨戒機に適さない」という海幕の主張は破綻していることが証明されたといってよい。

そもそもP-1の開発が始まる前の時代からP-3Cですら共食い整備をしていた。2008年、国際航空宇宙展で海上自衛隊幕僚監部、防衛部装備体系課長 内嶋治1等海佐(当時)が明言していた。全部専用のP-1の整備費が足りずに稼働率が低くなるのは当たり前の話だ。海幕は維持整備費用の確保を考えずにP-1の開発を決定したといってよい。

防衛省はP-1とC-2の開発にあたって、2機種を同時に開発することによって、コンポーネントの共用化して調達・運用コストを下げると説明していた。だがこれも画餅に過ぎなかった。両機種はサイズも違い、低翼機、高翼機と機体構造も違う。カヤバが担当していた油圧系コンポーネントも当初は両機共用とされていたが、実際には別々に開発されてコスト増の一因となっている。また当時P-1、C-2、US-2と大型機が同時開発となって、層の薄い我が国の航空産業界は過度な人で不足となっていた。

P-1、C-2ともに不具合で大幅に完成が遅れたが、これまた開発高騰の一因となったが、これは防衛省の采配の不備によるものだ。

(②に続く)

トップ写真:第52回パリ航空ショーでのP-1海上哨戒機(2017年6月22日 フランス・パリ)出典:Photo by Yuriko Nakao/Getty Images




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

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その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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