日本で急増する中国人留学生

福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)
【まとめ】
・高田馬場はかつて日本人浪人生の街だったが、中国人留学生向けの予備校が増加。
・中国国内の厳しい受験競争や欧米留学の難しさから、日本の大学が選ばれやすくなっている。
・手厚い留学生支援がある一方で、卒業後の進路や日本社会への貢献の枠組みが課題。
かつて高田馬場と言えば、その付近には日本人の高校生、浪人生のための予備校が隣立していたが、最近は様子が変わってきた。今や、この地域は中国人の子弟が日本の大学へ進学する為の予備校だらけ、駅のホームから眺めるとそれらの予備校の看板ばかりだ。
写真) 高田馬場駅ホーム
出典) 筆者撮影
中国では、すさまじい受験競争を突破して、北京大学や精華大学など39校の有名難関大学のどこかに入れるかどうかで、その学生の一生がほぼ決まってしまう。その為、受験生は朝から晩まで勉強に追いまくられる。難関大学に入れない学生は、レベルを一段下げるか、浪人するか、或いは海外へ活路を求める。
米国国際教育研究所(Institute of International Education)によれば、中国から米国への留学生数は2002-03には63,000人だったが、2019-20には372,532人と増え、そこをピークにパンデミックが発生し、2023-24には277,398人と減少し、インド人の留学生数に抜かれた。中国経済の減速、米中関係、治安の悪化、そして学費の値上がりで、今後、中国人の留学生はかつてほどは増えそうもないと見られている。因みに、南カリフォルニア大学(USC)の2024-25の年間授業料は、66,904ドル(約1,000万円相当)で対前年比4%の増加だ。早稲田大学政経学部の2025年度の授業料128万円と比べると、米国の大学の授業料の高さがわかる。
最近、海外の大学と提携を結んで、留学させる制度を設けている日本の大学が多い。中には海外で取得した単位を日本の大学でも認めるダブルディグリー制度を設けている場合もある。しかしながら、ほとんどが海外での留学体験、語学留学に過ぎない。中国人留学生が求めるのは、学位取得レベルの留学だ。日本の留学生も学位を得るくらいの意気込みで留学に臨んでもらいたいものだ。
しかしながら、米国留学が減った分が日本へ、という話にはなっていない。やはり、従来通り、海外へ出ていく学生の中でトップクラスは英国、カナダなどの欧米の大学へ向かっている。それに準じて、英語が不得手な学生は、欧米の大学ほど厳しくなく、場合によっては容易に奨学金も得られる日本の大学へということなのだろう。しかも、日本の大学は、入学は難しいが、よほどのことが無い限り卒業できるという、欧米とは違った緩い教育機関だ。
日本では、大学院に対する評価は欧米ほど高くはなく、学部を卒業して大学院へ進む人は少ない。東大の留学生総数は5,231名だが、そのうち67.8%(3,545名)が中国人留学生で、そのほとんどが大学院だ。(2024年11月1日現在)中国の有名難関大学に入れず、格下の大学を卒業した学生で、大学院を目指す学生にとって、国内で上をめざすのは難しい。彼らにとって、ネームバリューもある東京大学はベストチョイスなのだ。東京大学の大学院は学部と比べて、はるかに入りやすいというのが留学生の間では定評になっている。
私が昨年まで教壇に立っていた早稲田のキャンパスにも中国人の留学生が非常に多かった。私のクラスでは、2016年あたりから中国人の留学生が増えてきた。英語が不得手の学生も多かったが、日本人学生の平均的な英語のレベルより上だった。彼らの中には、学問に対する意欲が高く、プレゼンテーションもかなりうまく、グループでのプレゼンで日本人学生をリードする学生もいた。この意味で、中国人留学生のおかげでクラスのレベルが上がった年もあった。
日本政府による国費外国人留学生試験に合格すれば、往復航空券、学費、毎月14万円の支給を受けられる。留学生に対する日本政府の援助も手厚い。文部科学省によれば、博士課程を対象にした最大290万円の助成金支給プログラムにおいて、2024年度の受給者1万564人のうち4,125人が外国人留学生で、そのうち2,904人が中国人留学生だった。この支給金は返済不要だ。因みに米国に留学する外国人留学生は民間の健康保険への加入が義務付けられているが、日本の大学の場合、在留期間が3か月以上の留学生には国民健康保険への加入が義務付けられており、日本人と同様の恩恵を受けることが出来る。保険料は居住する地域にもよるが、2~4万円で、所得の無い学生には減免制度がある。医療費の個人負担は3割だが、自治体による減免制度もある。もちろん高額医療補助制度も受けられる。
これほど外国人留学生を優遇している国は他に無い。しかも、日本の大学教育は緩い。
中国人留学生の中には、卒業後、就職難の中国へは戻らず、日本での職を求める学生も多い。しかし、かつてとは違い、企業の中国熱は冷めており、日本での就職も難しくなっている。とはいえ、人口減少の日本では働き手が益々減っている。仕事次第では、彼らが日本で働く機会はあるはずだ。日本政府は、このような中国人留学生を始めとした外国人留学生に対する過剰な優遇措置を見直し、卒業後の彼らに、どうしたら日本に貢献してもらえるのかを十分考慮した上で、今後の留学生政策を決定する必要がある。今のままだと中国人留学生がただ増えるばかりで、日本の為にも、中国人留学生のためにもならない。
写真)日本で過ごす留学生グループ(画像はイメージ)
出典)Photo by GCShutter – Getty Images