灼熱地獄のソウル、庶民激怒 電気料金法外な累進性
李受玟(イ・スミン/韓国大手経済誌記者)
今夏、韓国は熱かった。
首都ソウルの8月の平均気温(1~25日)はソウルで気象観測が始まって以来、109年ぶりに最も高い34.3℃を記録し、昼夜を問わず蒸し暑い天気が続いた。歴代最悪の猛暑として記録された1994年の同期間の平均気温(32.6℃)より、およそ1.74℃高かった。
人々は耐え難い猛暑に対抗するためエアコンや扇風機に頼った。冷房機器をつけなければ息も出来ないという苦痛を訴える人も増え、夜も気温が25℃以下に下がらない熱帯夜が続いていた。苦しいほどの暑さが続き、熱中症などで病院に運ばれた人も1,878人を超えた。
「歴代最悪の猛暑」と呼ばれた8月、韓国では新たな論争でさらに暑くなった。それは「エネルギーの二極化」という電気料金に関する論争であった。暑さで家庭のエアコンの使用量が急増し、激増する電気料金を恐れる人々が増えたからだ。韓国は「家庭向け電気料金の累進制」を適用しているために一般の家庭である程度の電気を使用すれば、累進率が適用され、莫大な電気料金を支払わなければならないシステムだ。その為、家庭では耐えられないほど暑い日にもエアコンを稼動しようとしなかった。しかし、今年は我慢することができなかったのだ。
韓国のマスコミでは「電気料金が怖くてエアコンをつけない」庶民の怒りを報じ、電気料金を気にせずに冷房機器を24時間使える家庭とそれができない家庭を比較しながら『エネルギーの二極化』という単語を新しく作った。また電気料金が合理的ではない累進制になっていることも指摘した。
現在、韓国で家庭向けの電気は使用量によって6つの区間に分けて価格が決まるが、使用量が少ない1区間(100kWh未満)では1kWhの電気料金は60.7ウォンだが、使用量が500kWhを超過する6区間に入ると、1kWhの電気料金が709.5ウォンと11.7倍も高くなる。しかし、自営業者らが使っている一般用(1kWh当たり105.7ウォン)と企業が使用する産業用(1kWh81ウォン)の電気料金は累進制が適用されていない。他国の例をみても、11.7倍の累進制は問題があるというのが学界とマスコミの指摘だった。 (米国は2~4倍、オーストラリアは1.3倍、日本は1.4倍、中国は1.5倍、と比較的単純な累進制を適用している。)
この累進制のスタートは1970年代のオイル・ショックに遡る。当時、速い経済発展を図った政府は1974年3段階、1.7倍としてスタートした累進制を1979年20倍にまで押し上げて、家庭で電気を節約するようにした。しかし一般家庭でもエアコンや洗濯機、コンピューターなどを使用するようになった現在は「古い政策」という意見が噴出しており、結局2007年に累進率の調整は行われたが、その後さらに引き下げられることなく今まで来ていた。それで今年の猛暑は9年間節約し続け耐え忍んでいた庶民たちが憤怒する起爆剤となった。
憤怒の矛先は、電気システムを管理する政府系企業、韓国電力(株式持ち分の半数が民間会社)を超えて、政府と与党(セヌリ党)、また大統領にまで向けられた。政府は対案を急いで出した。最も暑い時期である7~9月、一時的に家庭向けの電気料金の累進制を緩和する案を打ち出した。与党セヌリ党も「家庭用電気料金の累進倍率がとても高いということに共感した。最高11.7倍に達する累進倍率を1.4倍へと引き下げる法案を提出する予定だ」と約束したが、両案も怒った人たちを慰めるには足りなかった。
そうした中、2001年9月から電気料金の累進制に対する議論を進めたが、冬が始まった後、知らん振りをした国会議員らの過去の行動がマスコミから報道され、今の約束も「無駄な約束」になる可能性が高いという見通しが強まっている。世論には 1)夏に猛暑が訪れる→ 2)累進制で莫大な電気料金が家庭に賦課される→ 3)世論が悪化する→ 4)国会で政府に累進制の改善を要求する→ 5)政府は「検討する」と答弁→ 6)冬になる、国会は忘れる→ 7)また夏が訪れるという魔の循環が持続してしまう、という笑い話が受けているほどだ。
果たして2017年夏、ソウルではこの輪を絶ち切って今年と同じように訪れるであろう猛暑の中で、人々は思い通りにエアコンをつけることができるだろうか?
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この記事を書いた人
イ・スミン韓国大手経済誌記者
2008年11月~ 2009年8月 一般企業(商社)勤務2009年2月 延世大学卒業2010年~ 大手経済紙 記者