[宮家邦彦]外交・安保カレンダー(2014年2月17日-23日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週は非常に重要だが、恐らく、あまり注目されないサウジアラビア皇太子の訪日を取り上げる。2月18日から21日まで、サルマン・ビン・アブドルアジーズ・アール・サウード・サウジアラビア王国皇太子が公賓として訪日する。これって実は凄い事だと思うのだが、どうも日本のマスコミでは大きく報じられていないようだ。
筆者には、サウジ皇太子の訪日、しかも公賓という接遇についてあまり記憶がない。以前からサウジ有力王族の訪日は実現が難しかったからだろう。リヤド州知事だったサルマン王子の訪日は1998年4月だった。当時筆者は中近東第二課から第一課に異動していたので、同知事の訪日について直接関わったこともない。
しかし、この皇太子の重要さは、その長ったらしい名前を聞けば分かる人には直ぐ分かる。英語では冒頭にH.R.H.(His Royal Highness)が付くから、これは殿下。Prince Salman とはサルマン王子の意味だが、その後に続く名前の後半の意味するところが凄いのだ。
Bin Abdulaziz Al Saud これはサウード家のアブドルアジーズの息子、すなわちサウジアラビアを建国した初代国王の息子という意味だ。しかも、同国王が寵愛したスデイリ族の母を持つ、いわゆるスデイリ・セブンの一人。この皇太子がようやく訪日するのだ。長年日サウジ関係に携わってきた人々には感慨深いのではなかろうか。
1935年生まれの同皇太子は既に79歳。兄であるスルタン、ナーイフ両皇太子の相次ぐ死去により皇太子に昇格し国防相も兼務しているが、それまでは約50年間、首都リヤド州知事を務めていた。毎年のように首相が替わっていた日本では考えられない人事である。この王朝は国際情勢など全く眼中にないかのようだ。
今回の皇太子訪日で大きな成果が出ることを祈っている。申し訳ないが、他の国の皇太子と違い、サウジの皇太子は高齢だ。いずれサウジアラビアはスデイリ・セブンの次の世代、すなわち初代国王の「孫」の世代が引き継ぐことになるのか。果たしてそうした世代交代をサウジアラビアは今後も続けられるのだろうか。
サウジアラビアの周辺では毎週のように大事件が起きている。これまでのように安定王朝が長期間続く保証など全くないとも思うのだが・・・。さて、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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