[古森義久]どうも気になるオバマ政権の対日防衛政策〜いつまでもアメリカが守ってくれると思うな
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
アメリカのオバマ政権の日米同盟への姿勢にどうも懸念を抱かされる。日本が万が一、第三国から攻撃を受けた場合にアメリカが日本側と共同で防衛にあたるというのが、日米同盟のエッセンスである。米側のその防衛責務は日米安保条約の第5条に明記されている。
だが尖閣諸島に対する中国の軍事がらみの攻勢へのオバマ政権の態度は、日本をきちんと同盟国とみなし、有事には日本防衛の誓いを実行するのかどうか、つい疑いを感じさせるのだ。
私は最初は毎日新聞記者として、さらに産経新聞記者として、あるいは研究者として日米関係のとくに安全保障の領域をもう30年以上も観察してきたが、こんな不安は初めてである。アメリカの歴代政権では党派の別なく、日本への防衛誓約とその実行の姿勢というのは一貫した不動かつ明確な政策だったのだ。
その不安の理由は二つある。いずれも尖閣諸島をめぐる日中両国の対立に関連して、である。第一は、オバマ政権のだれもが尖閣有事に関して「日本を防衛する」という言葉を決して口にしないことだ。そのかわりに同政権のケリー国務長官やヘーゲル国防長官から出てくるのは「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲にある」という言明である。
第5条は日本の施政権下にある領域が第三国から武力攻撃を受けた場合のアメリカの日本防衛行動をうたっているのだから、その適用範囲を述べることは日本防衛の誓約と同じだとする解釈もあろう。だが実際に「日本を防衛する」という表現とは異なるのだ。「適用」という言葉だけでは、どうしても消極性がにじむのである。
第二の不安の理由は、オバマ政権が日本領海への中国の武装艦艇の頻繁な侵入を決して非難しないことである。同政権は尖閣をめぐる日中対立に対し「平和的、外交的な解決への努力を」とか「非平和的な方法での現状変更をしない」と求める。だが中国は明らかに力による現状変更に努めている。武装された「海警」艦艇を連日のように尖閣周辺の日本領海へと送りこんでいるのだ。オバマ政権は明らかに中国に遠慮をして、その実力行使をまったく非難も阻止もしないという態度なのである。
だからオバマ政権は日米同盟の堅持という基本姿勢に歴代のアメリカ政権とは異なる空洞や陥没を感じさせるのである。この点を私は『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(幻冬舎新書)という書で詳述したのだった。
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