都議選千代田区 ドン後継vs小池氏の愛弟子
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
東京都議選まで一ヶ月を切り、最大の注目区と呼び名の高いのが千代田選挙区だ。何しろ今期で引退する都議会のドン、内田茂都議のお膝元であり、区長選に引き続き、小池都知事との代理戦争の場となっているからだ。
ドン後継は27歳の中村彩候補、自民党の公認を得ての出馬である。対する都民ファースト会公認候補は、元警視総監・現駐ミャンマー日本大使の樋口建史氏の長男、樋口高顕(たかあき)氏34歳。第3の候補は、無所属候補の須賀かずお氏。三つ巴の戦いとなる。
樋口候補に話を聞いた。
Q今回立候補に至った経緯は?
A18歳~19歳の時、小池氏の元でインターンを4年間経験しました。2005年の郵政選挙でもお手伝いさせて頂き、全然分からない練馬と豊島区でしたね。昨年の都議選の時も、1ヶ月ほどボランティアでお手伝いをしていました。今年の1月2月の区長選挙の時にも1週間ほどお手伝いをして、見ていて思ったのは、郵政選挙の時と都知事選の時は雰囲気が非常に似ていたんです。区長選は地元密着で地元の中での動き、でも都知事選の時は大きな選挙区じゃないですか。区長選の時は郵政や都知事選の時ほどの風はなかったですね。
小池氏をずっとそばで見てきた樋口氏、小池哲学を知らず知らずに身につけているとも言える。
Q自民党陣営はまだまだ小池氏の風は吹いている、と言ってましたよ?
Aまぁ、みんなそう言いますよね(笑)私は風は感じていないのですが、街頭で、「がんばれ!」とチラシを受け取ってもらう率が高いんです。自分がかつて選挙ボランティアをやっていたときも、こんな声のかけられ方はなかったし、郵政や都知事選の時ほど大きな風というよりは、(住民のみなさんの)たまっている静かな不満や鬱憤みたいなものを感じるんです。
Q皆さん、政治に何を求めていると感じますか?
Aそれは子育てでも高齢者対策でもなく、「クリーンな政治」なんです。クリーンな政治をしてほしい、という有権者の皆さんの声を体で感じますね。
Q今回の選挙で一番訴えたいことは何ですか?
A切り口としては「居ずまいを正しましょう」、ということです。それは24年前に小池も言っていた、古い政治体質を変えましょう、ということに繋がるんですよね。古い政治を変えよう。まずは、姿勢を正す。そのあと政策がついてくると思っています。
千代田区は神田など伝統的な街と秋葉原のようなサブカルの街、さらには霞ヶ関の官公庁までをカバーするユニークな地域だ。昔ながらの地縁血縁を大事にする層(旧住民)に対し、近年のタワーマンション増加で、若い層、核家族のような、いわゆる新住民も増えてきている。彼らのような浮動票の獲得が課題だ。
Q新しく千代田区に流入してきた若い層の票をどう獲得するかが課題ですね。
Aそれなんですよ。どう彼らに声を届けるかが課題なんです。スーパーとか幼稚園とかに行ってますが、いろんな人に声かけてもらうんです。あんまりこういうことは今までの選挙ではなかったなと。手ごたえは感じてます。ただ、この近くでも応援してくださる経営者の方もいるんですが、古くから内田さんを応援している方もいらっしゃる。なかなか難しいんです。
近所の千代田区に、孫の代で五代続けての千代田区民だという珈琲店の主人は、自民党支持者は今回割れるだろうけど自民と都民ファースト、半々になると予測する。区長選の時は自民支持層のうち6割が小池氏が応援した石川氏に流れたが、今回は若干の揺り戻しがあると言うことか。小池氏が豊洲市場の問題になかなか結論を出さないことが響いているのだろうか。一方で樋口氏は少し空気が変わってきたと感じていると言う。
Qさっき手ごたえというか、空気が変わってきたとおっしゃいましたが?
Aやはり最近の一連の加計学園の問題、官房長官の会見の発言などの影響なんだと思います。都議選は国政とは違うけど、やはり自民党のことを批判する声が出てきていますね。
Q千代田区は待機児童ゼロということで、子育て問題では何を住民に訴えますか?
A待機児童ゼロとは言っても、近くの保育園に入れず遠くの園に通わざるを得ないという、いわゆる、隠れ待機児童の問題もあります。そういう人たちのニーズをなんとかしたいと思っています。また、専業主婦で保育園や幼稚園に子供を預けないで子育てしているママ達は、ママ友がいないし、コミュニティーがないんですよね。そこを行政がどうやってママ達のコミュニティーを作っていくかが課題だと思っています。新住民と旧住民を融和させることは非常に興味深い課題です。
Q都議になることの意味とは何でしょう?
Aやはりこれまでお話したいろいろな政策を実践していくためには、区長との連携が重要だと思います。千代田区長からもご指導頂いて政治活動をしていますし、小池氏とも15年の仲で密接なので、都と区の橋渡しができるというのは大きなポイントですね。今までの8年間は内田さんがいらっしゃって石川区長と対立していたわけですが、それが変わるんだと。
Q強く住民に訴えたいことは?
Aパンフレットには「ちよだに寄りそい、共に歩む」をキャッチフレーズとして載せています。今まで政治は、本当に街のみなさんの暮らしや生活と寄りそってきたのか?区民のみなさんの声を聞いていると違うんじゃないか、と。再開発や小学校をつぶして統廃合してきましたが、その過程がよく分からなかったり、どうしてそこに建てたの?など不安に思ってたりすることが聞けば聞くほどある。一部の企業や団体の意見を聞きすぎていたのではないか、と。都民の生活のことをほんとに考えていたの?と問いかけているのが都民ファーストであって。このキャッチフレーズは支援いただいている町の人から出た言葉なんです。
Q言ってみれば都と区の間に“緑の架け橋”を作るってことですね?(緑は都民ファーストの会のシンボルカラー)
Aそうですね。(選挙の争点は)生活をよくするかしないかで、イデオロギーの戦いじゃないんです。古い考えに縛られるのではなく、地方政治のポイントは限られた予算をどこに配分するかじゃないですか、どこに困っている人がいるか、そこに重点をおくかなんですよね。都政のポイントはイデオロギーや政党に関係なく、政策勝負でいいと思うんです。
不透明な政治プロセスを変える、と熱く語った樋口氏。小池チルドレンたちが都議会に乗り込み、議会で存在感を示して過去の都政と決別する大改革を進めることができるのか、その答えは7月2日に、出る。
【千代田選挙区候補者】(1人区)
中村彩 (27)新 自由民主党公認
樋口高顕 (34)新 都民ファーストの会の公認
須賀かずお (61)新 無所属
*写真©Japan In-depth 編集部