トランプ陣営が中国を非難して高市首相を支援

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・トランプ陣営に近い米学者、高市首相を全面的に擁護。
・中国共産党の「威圧的な体質」と「高市政権を揺さぶる狙い」。
・台湾有事は日本の存立に直結し、高市首相の発言は従の方針の確認に過ぎない。
台湾有事への日本の対応をめぐる中国政府の対日糾弾に対してアメリカのトランプ政権に近いハドソン研究所の国際政治学者が11月17日、高市早苗首相の立場を全面的に支援する論文を発表した。同論文は高市首相の台湾有事での日本の国家存立危機の言明はまったく正当だと主張し、中国側の一連の脅しの言動を不当だと批判して、高市首相への強固な対応を推奨した。
ハドソン研究所の特別研究員で国際政治・戦略の著名な学者として知られるウォルター・ラッセル・ミード氏は17日、大手紙のウォールストリート・ジャーナルに「なぜ中国は日本との戦いを始めたのか」と題する論文を発表して、高市首相の立場を全面的に擁護する主張を明示した。
ミード氏もハドソン研究所もアメリカの国政の場では保守主義志向を明確とし、トランプ政権と緊密な関係にある。だからこの論文もいまの中国の日本攻撃の激化に対するトランプ陣営の日本支援の意向の反映と解釈できる。
ミード氏の論文はまず中国政府側が一時、後退していた「戦狼外交」の戦士たちを復活させ、日本を標的とし、「低級な言語」で、「高市首相の首を斬って、ロバに蹴とばさせる」などという攻撃を始めた、と指摘していた。この攻撃は単に言葉の範囲に留まらず、中国側の観光客やビジネスマンの訪日を止め、在日中国人留学生への安全への警告や日本側領海への実際の侵入の増加へと広がった、とも述べていた。
同論文は中国側の激しい対日攻撃の原因について「高市首相の国会での質問への正直で率直な答え」だと強調し、日本の国会で立憲民主党の岡田克也議員が中国が台湾に武力攻撃をかけた事態が日本の安全保障関連法が規定する「国家存立危機事態」に当たるか否かと質問したのに対して高市首相が肯定した経過を説明していた。
そのうえでミード氏の論文は高市首相の言明について「高市首相の答えは明白であり、日本政府のこれまでの立場からの変化ではない」と明言していた。
同論文はさらに中国の台湾攻撃が始まった場合の日本の立場に関連して、以下のような主張を記していた。
「中国の台湾への軍事攻撃が日本の存立にかかわる危機を引き起こすのは明白である。まず日本へのエネルギーや食糧の供給が止まり、日本の存立への危機が生まれる」
「台湾在住の数万以上の日本人ビジネスマン、留学生、旅行滞在者らの生命の危険が生じる」
「日本はアメリカとの同盟関係の絆によっても台湾有事ではアメリカと台湾の側への支援に回ることは、アメリカ政府側ではすでに了解済みという実態がある」
さらに同論文はアメリカが台湾に武器を輸出する際にも、中国政府は必ず抗議をするが、ある程度以上には強硬措置をとらないと述べて、今回の高市首相の言明も従来の政策の繰り返し表明にすぎないのに、中国側は新たな一大危機であるかのように反応して、日本との「主要な対決」の構えを打ち出した、と指摘した。
ミード論文は今回の日中間の紛争が本来は「ささやかな騒ぎ」なのに、中国側があえてそれを「主要な対決」にまで、エスカレートさせたのは少なくとも二つの理由があるとして、以下の骨子をあげていた。
「まず第一に、中国共産党は国内でも国外でも言うことを聞かない相手にはまず威圧し、脅迫し、屈服させようとする本能的な体質がある。屈服できないとわかると、より柔軟な姿勢に切り替える」
「第二には中国は高市政権の基盤がまだ堅固ではないとみて、日本側の反高市の政治勢力や対中ビジネスをする日本企業を煽ろうと意図している。その扇動の成功の可能性を期待している」
しかしミード論文は結論として、高市首相が「鉄の女」と称されたイギリスのマーガレット・サッチャー首相を尊敬すると述べていることに触れて、「この日本の’”鉄の女“も(サッチャー氏と同様に)強固かつ臨機の才に富むことを期待する」と述べ、高市首相が中国の攻撃を跳ね返すことを求めていた。
台湾有事に関しては中国にとって最も懸念や脅威の相手となるアメリカの政権支持層からこうした日本への檄が出たことは日本の対中外交にとっても大きな支えとなるだろう。
#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文の転載です。
写真:高市早苗首相 日本・東京 – 2025年11月7日
出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

執筆記事一覧






























