中国の激高が続くなかで見える日本外交の選択肢

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025 #45
2025年11月17-23日
【まとめ】
・日中は本質的合意に至らず、中国は面子と台湾問題で強硬姿勢が続く見通し
・中国側の激高は日本の支持率上昇・日米協力強化など自国不利益を招き得る
・中東では米サウジ会談が焦点、F-35供与と対イスラエル外交が重要な不確定要素
先週、内外メディアなど各方面から「日中関係は一体どうなってしまうのか?」といった類の質問が舞い込み、結構往生した。何で内外、特に日本のマスコミは大騒ぎするのだろう?勿論、懸念がないとは言わないが、日本のマスコミや評論家が騒いだところで、問題の解決に資するどころか、逆効果にもなりかねないというのに・・・。
筆者の答えは単純明快、「そもそも21世紀に入り、日中間で合意らしい合意を結んだことはない」「安倍政権時代の『戦略的互恵関係』合意(2006年)や『4項目合意』(2014年)でも実質的な合意はなかった」、されば「心配ご無用、日中は一年もすれば『合意しないことで合意』するだろう」と答えている。
本問題については今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書いた。木曜日掲載だが、お題は「中国共産党のトリセツ」、すなわち、中国側は①「台湾、抗日」につき安易に妥協しない、②面子が潰れれば論理は通用しない、③我に返るまでには時間がかかる、④中国側の不利益を自覚させる、⑤面子が立たないと妥協しない、ということだ。
「存立危機事態」に関する高市答弁は従来の「曖昧戦略」の枠内であり、基本政策に一切変更はない。法律上日本は、中国が米国を攻撃した場合、同盟国・米国を支援し得るということ。嫌なら米国を「攻撃しなければ良い」だけの話だろう。えっ、それとも中国は、まさか、対米攻撃を本気で考えているのかね?それなら話は別だろう。
それはともかく、過去の2回の「合意」に至る過程で、中国側は安倍首相に「靖国参拝断念」と「尖閣をめぐる領土問題の存在」を認めるよう求めた。この二点に加え、今回中国側は「台湾有事への非介入」を求めてくるだろう。となれば、前回と同様、出口は「合意しないことに合意」する決着しかないが、それにはかなり時間がかかるはずだ。
筆者の「トリセツ」が正しければ、中国側の激高は当分続き、その間、中国側に自らの不利益を考えさせる必要がある。具体的には、今回の中国側「大騒ぎ」が続けば、高市政権の支持率は高止まり、日米軍事協力の絆は強まり、中国進出日本企業が動揺する恐れがあるということだ。
当面はプロの外交当局間の水面下の努力を気長に見守るしかないだろう。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
11月18日 火曜日 サウジ皇太子訪米、米大統領と会談
NATO事務局長、スロヴァキア訪問
モルドバ首相、欧州委員会委員長と会談
11月19日 水曜日 スウェーデン首相訪独、独首相と会談
11月20日 木曜日 トンガで総選挙
11月21日 金曜日 国連COP30閉幕(ブラジル)
11月22日 土曜日 G20首脳会議(南アフリカ、2日間)
11月23日 日曜日 ギニアビサウで総選挙
スルプスカ共和国(ボスニアヘルツェゴビナ連邦の共和国)で前倒し大統領選
11月24日 月曜日 EU・米貿易大臣会合(ブラッセル)
EU・アフリカ連合首脳会議(アンゴラ)
最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザでは引き続き「停戦」でも「戦闘」でもない、つまり戦争でも平和でもない状態が続いている。そんな中、今週サウジ皇太子が米大統領と会談する。下馬評では、サウジは①F-35を含む米国製武器の購入と、②米国からの安全保障の確約を、米側は③サウジがイスラエルとの関係正常化に踏み切ることを、それぞれ求めているらしい。
しかし、ガザを含むパレスチナ問題でイスラエルが妥協しない中、サウジがイスラエルと関係改善に踏み切ることは難しいだろう。サウジがハマースやパレスチナ自治政府を信用しているとは思えない。だが、今パレスチナを見捨てれば、サウジの「アラブの盟主」としての名声が傷付いてしまうからだ。
一方、米側にとってF-35をサウジに売るか否かは微妙な判断だろう。F-22を除けば、世界最高峰にあるステルス戦闘機の技術情報がサウジから中国へ流れることを米国関係者は懸念しているらしい。勿論、実に真っ当な懸念だろう。それだけ米国はサウジを信用していないということか・・・。米・サウジ首脳会談の結果は要注意である。
今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:予算委員会に出席する高市早苗氏
出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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