海外メディアの批判は「日本製」高市政権をめぐる国際報道の偏向を読み解く

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・高市首相は、日本初の女性総理として国際会議で歓迎される一方、台湾に関する発言で中国から強く反発を受けた。
・米国の政府・議会などの主流派は、日米同盟強化と地域安全保障への貢献を期待し、高市政権を大歓迎している。
・ニューヨーク・タイムズなどのリベラル系大手メディアによる批判は、民主党寄りの体質や反トランプの傾向に基づくもので、米側全体の意見としてはあくまで少数派である。
高市早苗氏が日本の政治史上、初の総理大臣になってから11月末で40日となった。ではこの時点までの高市氏の首相としての登場を海外の諸国はどうみているのか。このあたりで一歩、立ち止まって、改めて眺めてみよう。
高市首相の登場への国際的な反応は全体として前向きな歓迎だといえる。そんな総括が世界の多くの国での反応だといえよう。その一端は高市首相が最初に国際的なデビューを果たした10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議の場で証明された。
いずれの国際会議でも日本で初めての女性総理としての高市氏は異例なほどの歓迎を受けた。各国の首脳が笑顔で接近し、祝賀の言葉とともに高市氏への温かい態度をみせた。高市氏もまた積極的に各国首脳に話しかけ、友好の挨拶を熱心に交わした。国際会議ではぽつんと座ったままという前任の石破茂氏とはまったく対照的だった。
もっともこの種の国際的な反応は皮相ではある。表面だけの光景では真の実態はわからない。だがそれでも国際舞台での目にみえる情景は重要である。長年、男性優位の伝統が語られてきた日本にいかにも女性らしいイメージの新首相が登場したことのビジュアルの象徴的な意味は巨大だといえる。
では実態としての高市早苗評はどうなのか。
まず日本にとっては最重要な絆を持つアメリカの反応を点検してみよう。
アメリカの主流は大歓迎だといえる。主流というのは米側の政府や議会、外交研究者である。国政の多数派と呼べる。
トランプ大統領の言葉がその代表だった。
「高市早苗氏は偉大な知恵と強さを持つ非常に高く尊敬される人物だ。私は彼女について安倍晋三氏からもかねがね高い評価を聞いていた」
トランプ政権で外交を担うマルコ・ルビオ国務長官も歩調を合わせていた。
「高市政権は日米同盟を増強し、経済的な繁栄を築き、地域の安全保障を強化するだろう」
議会でも共和党の重鎮のウィリアム・ハガティ上院議員は「高市氏はトランプ大統領とでは保守主義の信奉という点でも緊密な信頼関係を築くだろう」と述べた。野党の民主党議員側でも高市首相を批判するコメントが出ないのが印象的だった。
トランプ氏自身の高市評ではとくに注視されたのは日米首脳会談での次の言葉だった。
「高市首相に伝えたい。もしあなたがいかなる疑問、要請などがあれば、知らせてほしい。日本を支援するためにはなんでも実行する」
そして両首脳は現在の日米関係を「黄金時代」と呼び、「いまが最高の同盟関係」と賞讃したのだった。
だが対照的な反応をみせたのが中国だった。
高市首相が台湾有事で中国軍の戦艦による武力行使があった場合、日本側にとって平和安保法制の規定する「存立危機事態」にあたると述べたことに、中国の大阪総領事が「汚い首を斬ってやる」という暴言を吐いた。高市首相の言は日本の自衛権の行使の権利であり、これまでの日本政府の政策範囲内の言明だった。
だが中国政府はその高市発言の撤回までも求めた。この中国の反応はむしろ高市政権の安全保障面の健全さを証したといえる。現にトランプ政権はこの高市発言への支持と中国への非難を表明した。トランプ政権は台湾有事ではまさに日本が中国の軍事侵攻を自国の存立危機とみなし、アメリカや台湾への軍事支援を鮮明にすることを当然視しているからだ。トランプ政権の駐日大使ジョージ・グラス氏の一連の発言がその趣旨を代弁していた。
だから日中のこのやりとりは高市政権の対中抑止や台湾支援、さらには日米同盟堅持の基本姿勢を明確にしたといえる。米側では保守派の論客ウォルター・ラッセル・ミード氏は「高市首相は中国や北朝鮮に対しこれまでの政権よりも断固たる抑止の政策をとり、トランプ陣営が望む現在の国際秩序の保持や強化に貴重な貢献をするだろう」と述べた。高市氏がトランプ氏の信奉する「力による平和」策に同調しているという認識だった。
一方、アメリカ側では大手メディアのニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなどが高市氏に対する批判や攻撃をも掲載あるいは放映した。これらは民主党びいき、トランプ叩きで知られるメディアである。
ニューヨーク・タイムズはまず高市首相を「右翼」と呼び、「歴史問題で修正主義の傾向をみせる」と断じていた。いずれも中国側の主張を根拠とする断定だった。同紙は「今回の首脳会談は日米同盟の保持をうたっただけで、関税問題など経済領域の課題はなにも解決しなかった」とも報じていた。トランプ大統領が東京で日本の財界首脳を招き、アメリカへの巨大な投資計画の言質を確認したことなど、無視なのだ。
ワシントン・ポストも二本の記事で「高市氏は極右」、「超保守主義者」、「扇動的な政治家」、「歴史修正主義者」、「女性の社会進出を阻んできた」 などとネガティブな記述を満載していた。日本国内でも、自民党内で高市氏の支援者が多く、政策面でも実績を重ねてきたという側面はほとんど無視だった。とくに「歴史修正主義」とか「女性の進出阻止」という非難は具体的な根拠をあげず、「専門家がそう述べている」という曖昧の記述だった。
この主要メディアの偏向と呼べるゆがめ報道の理由は第一に民主党リベラル派支持の体質として高市氏が保守というだけで、「極右」というようなレッテルを貼る傾向だといえる。ニューヨーク・タイムズはとくに安倍晋三氏への糾弾が激しかった。
第二の理由は民主党支持メディアのトランプ攻撃の基調である。ニューヨーク・タイムズなどはトランプ政権の政策にはほぼすべて激しい反対の意見を表明する。トランプ糾弾の民主党リベラル派の主張を一貫して優先報道する。宿敵のトランプ氏が緊密さを誇示する高市首相にも似たような批判の矛先を向けるわけだ。
だが肝心なのはこれら民主党傾斜メディアの主張はアメリカ側全体としてはあくまで一部の少数派の反応だという点である。単にメディアの次元であって、国政の場ではあくまで高市首相礼賛なのだ。
保守派からのこの種の大手メディアへの批判も辛辣である。共和党主流のフロリダ州知事、ロン・デサンティス氏の論評を紹介しておこう。
「CNNが日本の高市早苗新首相を『強硬保守』と呼んだ。リベラル派の視聴者に彼女を嫌わせるためのレッテル貼りだろう。だが現実にはCNNに嫌われる人物は好ましい人に決まっている」
さらに注意すべき点がある。アメリカ側のメディアに載る高市氏批判は実は日本製が多いという点である。
前述のワシントン・ポストの2本の記事は実はアメリカのAP通信の東京発の報道だった。そのままワシントン・ポストに掲載されたのだ。元の記事はAP通信東京支局員の山口真理記者の署名で書かれていた。
山口記者はアメリカ留学経験はあるが、日本人で1988年から東京のAP通信で働いてきた。
前記の記事では高市氏について「歴史修正主義者」などという批判も、根拠はあげていなかった。ごく少数の引用発言も日本国内で反保守の立場が明確な人物による高市氏攻撃だった。だからその記事の内容はアメリカの見方ではなく、すべて日本製なのだった。その他の米側メディアの日本報道にも同じ傾向があることは留意しておくべきである。
トップ写真:東京の参議院で野党党首討論に出席する高市首相(2025年11月26日)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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