アメリカが指摘する中国の「抗日勝利」の大ウソ

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」1004回
【まとめ】
・中国は「抗日戦争勝利記念」式典で、共産党軍が日本軍を破ったと主張。
・米国識者からは、歴史の捏造との批判が絶えない。
・この虚構の歴史は、中国共産党が自らの正当性を高めるための政治宣伝。
中国共産党政権が、また9月3日に「抗日戦争勝利記念」の式典を北京で実施する。
第二次世界大戦で中国の共産党軍が日本軍を打ち破り、世界のファシズム勢力を打破したと自賛する儀式である。今年はとくに終戦から80年とあって中国政府は事前から大々的な宣伝を展開してきた。
だがアメリカからは、この中国の「抗日勝利」が虚構であり、歴史の捏造だとする指摘が絶えない。実績のある中国研究者たちから中国の宣伝をそもそもウソだとする強烈な批判が表明されるのだ。日本側としても、この中国の歴史捏造の反日キャンペーンに厳しい態度をとることが欠かせまい。
中国政府は第二次世界大戦で日本が降伏文書に署名した1945年9月2日の翌日の3日に毎年、「抗日勝利」の大式典を天安門広場で開いてきた。今年はとくに戦後、80年として宣伝を広め、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記が参加すると発表した。その前提は中国大陸で中国共産党の八路軍が日本軍と戦い、打ち破って、日本の侵略を止め、第二次大戦での勝利をもたらしたとする主張である。
この主張に対して当事国の日本よりも、むしろアメリカの識者たちから、最も直接で鋭利な非難がぶつけられてきた。まず過去にさかのぼり、ちょうど10年前の2015年9月の戦後70周年のこの「抗日勝利」式典へのアメリカ側からの批判をみよう。
アメリカの、それまでの歴代政権の国防省や国務省で中国問題担当の高官を務めてきたランディ・シュライバー氏が、この中国の式典を「歴史の極端なねじ曲げと日本への不当な糾弾であり、アメリカなどの諸国はその不公正に抗議すべきだ」という骨子の論文を発表した。2015年8月末に発行された米側の外交問題雑誌への寄稿だった。ちなみにそのシュライバー氏は10年後の現在のワシントンでも自ら中国問題専門の研究機関を主宰して活発に動いている。同氏の当時の主張は以下の概略だった。
▽中国共産党軍(八路軍、後の人民解放軍)は日本軍とはほとんど戦闘はしなかった。戦時中の日本軍との戦闘での中国側の死傷者の90数パーセントは中華民国側だった。私たちアメリカの友邦であり安保上のパートナーの台湾は戦争での実際の役割への評価を中国共産党政権にすべて奪われている。
▽アメリカの政府や関係者は中国政府の虚構に基づくこの式典やパレードを単なる見世物として放置せず、アメリカの同盟国、友邦、そしてアメリカ自体に対する政治戦争として位置づけ、注意を喚起すべきだ。同盟国の日本は、はるか昔に起きた出来事をねじ曲げられ、標的とされ、近年70年の前向きな国際貢献への評価を完全に否定されているのだ。
▽中国は歴史認識について日本の態度だけを糾弾するが、政治目的のために歴史を歪曲し、修正し、抹殺までしてしまう点での最悪の犯罪者は中国自身である。中国共産党は1931年から45年までの歴史を語るのは熱心だが、1949年から現在までの歴史はまず率直には語らない。
▽戦後のこの期間に大躍進、文化大革命、天安門事件など中国共産党の独裁の専横から不必要に命を奪われた中国人の数は太平洋戦争中に日本側に殺された数よりもずっと多いのだ。だが北京の中国国家博物館は大躍進などの人民の悲劇をまったく表示していない。
以上が10年前のアメリカ側からの評論だった。
さてその後の2025年8月、まったく同趣旨の、しかもより手厳しい非難が、アメリカの研究機関からまた発信されたのである。
ワシントンの大手研究機関のハドソン研究所は「中国の第二次大戦での勝利パレードは究極のフィクション」と題する報告書を発表した。その論評の対象は中国政府による日本への勝利記念の80年目の祝賀式典である。トランプ政権にも近い同研究所の報告書は中国共産党の軍隊が日本と戦って勝利したことは皆無に近く、その「抗日勝利」の主張は「ウソに基づく虚偽」だとまで断じていた。
同報告書は同研究所中国部のマイルズ・ユー部長が中心となって作成されたという。
ユー氏はカリフォルニア大学で博士号を取得したベテランの中国研究者で、第一期トランプ政権ではポンペオ国務長官の中国問題顧問を務めた。現在も米海軍士官学校の教授をも兼ねる。
ハドソン研究所の報告書は以下の骨子を指摘した。
▽中国共産党軍が日本軍の主敵として日本の侵略と戦い、勝ったとする主張は共産党を虚構に美化する厚顔なウソだ。
▽1937年から45年まで日本軍と戦ったのは蒋介石麾下の国民党軍で総計350万人の死傷者を出したが、共産党軍は延安地区に引きこもり日本軍とはほとんど戦わなかった。
▽共産党が日本軍との戦闘として宣伝する「百団大戦」も実際の日本側の死傷者は500人ほどで、共産党の発表の4万6千人殲滅は根拠がない。
▽共産党の八路軍は日本軍との戦闘が少ないため被害もきわめて少なく、戦死した軍幹部は王権将軍一人しか記録されていない。
▽共産党は戦時中に米軍と協力した抗日軍事活動も強調するが、中国での米軍の戦略情報局(OSS)は国民党軍との協力が主体で、むしろ共産側に米軍工作員が殺された事件もあった。
同報告書は以上のような記録をあげて、いまの中国共産党の「われわれが日本軍を破り、反ファシズムの抗日戦争、そして第二次世界大戦に勝利した」という主張はまったくの虚構だと断定していた。
報告書はその背景についてはさらに2点をあげていた。その第一はソ連の共産党政権が当時、日本との間で結んでいた日ソ不可侵条約のために中国共産党に日本軍への直接の攻撃を避けるよう圧力をかけていたことだった。第二は中国共産党の毛沢東主席がその後の国民党軍との戦闘に備え、八路軍への損害を最小限にするため、日本軍との戦闘を制限していたこと、だった。
こうした指摘がいまのアメリカ側のトランプ政権に近い陣営から出てくることは日本側にとっても中国への反論の有力な材料となるだろう。しかもアメリカ側でのこうした中国非難が10年も前から現在にいたるまで一貫して、まったく揺らいでいないことも、日本側では前向きに認識しておくべきである。
#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の寄稿の転載です。
トップ写真)中国、第二次世界大戦終結および日本の降伏から80周年の記念式典を準備
中国-北京 2025年8月20日
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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