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スポーツ  投稿日:2019/9/13

私のパフォーマンス理論 vol.35 -マネジメント会社について-


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

 

 

【まとめ】

・マネジメント会社を決めることで、社会にどのような存在として価値を提供していくかが決まる。

・事務所を選ぶ時は、バックグラウンドチェックを徹底するべき。

・自分の成長にコミットしてくれる事務所が一番良い。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47864でお読みください。】

 

現在トップ選手は広告やイベントなど肖像を使った仕事も多くなり収入も増えたので、マネジメント会社に所属することが増えている。一方で、マネジメント会社も各種あり、またどのように関係するかもいろいろなので、選手が描くキャリア次第で合うところと合わないところが出てくる。

 

マネジメント会社とは何かを整理すると、役割は大きく三つに分けられる。

①選手の代わりに外部と交渉をし売り上げを立てる

②長期的に選手のブランドを作る

③選手の競技と人生をサポートする

マネジメント事務所のビジネスは、①で選手に売り上げが発生した時に一定の割合をもらうというモデルになっている。だいたい15%から30%強、芸能関係だと50%近くになるものもある。多いように思えるが例えば売り上げ3000万でフィー30%の場合、900万が利益、マネージャーが一人ベタ付きすると400万かかる。500万の粗利のうちバックオフィス代などを引くとそれほど利益は残らない。

 

③と②は短期的には利益にならない。②は選手が長期的に事務所と契約してくれれば双方にとって理想の形だが、もしブランドを高めるだけ高めていざ稼ぐ段階で独立されたら意味がなくなる。だから②を行うことと長期で事務所と選手と契約することは繋がっていて、これが昨今の移籍制限問題の背景にある。

 

③の業務内容はようは日常の面倒を見る秘書やアシスタント的業務が多い。③はマネジメント会社にとっては単純にコストなのでなるべく減らしたいが、この役割を期待している選手は案外と多い。私は選手が③に定額で毎月幾らかの対価を払うモデルの方がフェアではないかと思っているが、そうなっていないので、マネジメント事務所は③でサービスをしながら①で稼ぐということになる。余談だが、この機能に慣れてしまった選手はセカンドキャリアで苦労するので、私がもし事務所をやるなら制限をかけたい。

 

選手がまずやらなければならないのは、自分がどのような人生を生きていきたいか、社会にどのような存在として価値を提供していきたいかを決めることだ。これによって組むべき相手が随分変わってくる。一度組んだ後に変更するのはとてもコストがかかるので、誰と組むかをかなり考えた方がいい。今の時代であればフェイスブックでバックグラウンドチェックでも、その所属選手に直接連絡をして評判を聞くなりなんでもできる。スポーツ選手でありがちなのは、仲がいいからとか、知り合いだからという理由で始めてしまうことだが、選手にとってはとても大きな決断なのでビジネスと割り切って決めた方がいい。

 

例えば、現役時代の収益を最大化したい場合は大きなクライアントでしっかりとお金を取ってくれる事務所がいい。選手はあまり稼働できないので、基本的にはスポンサーで大きく稼ぐモデルになる。ただ、今を最大化するということは未来のブランディングをある程度犠牲にすることでもあり、もし将来長くブランドを作っていきたいのであればこのような事務所と組むのはお勧めできない。

 

人生を長期で安定させたいというのであれば、企業に所属し企業と関係を作った上でそことうまくやっていける所属事務所を選ぶのがいい。解説や、広告などで華やかに見える引退後の世界だが、実際に仕事でやっていけるのは五輪選手の上位数パーセントもない。これは多くの選手はタレントとしてはやっていけなくなることを意味している。もし所属企業に理解があり許すのであれば、企業に所属しながらできる範囲で自分の露出を高めブランドを作るというのが一番いい。

 

よく選手が企業の広報にマネジメント的な役割を期待するが、私の知る限り攻めでこれがうまくいった例はない。企業の広報は、どちらかというと選手を使って攻めてブランドを作るというよりは、選手を守ったり企業に悪いイメージがつかないようにする方向に向かう。だから、選手が有名になりたい場合や発信したい場合、企業の広報に対し強い不満を抱く。特にスポーツ選手が所属する企業は、比較的レガシー企業が多いので、より保守的な運用をすることが多い。所属企業の企業文化ぐらいは事前に調べておいた方がいい。

 

長期的に何かやりたいことがある場合は、それをしっかり伝えるべきだ。この場合は事務所は現役をサポートしても長期では稼げないので、選手が一定額を負担するモデルの方がフェアだと私は思っている。例えば自分が何か会社や公益活動をしたい場合、マネジメント事務所との利害がコンフリクトする。タレントにならない場合にマネタイズをすることが難しいからだ。これもちゃんと話し合って整理した方がいいが、選手にはやや難易度は高い。

 

選手が知っておかなければならないのは、たとえ有名な事務所に入っても魔法のように自分を有名にすることはできないことだ。特にアスリートはタレントと違い根底となる価値を自分の競技で高めることができる。そういう点で事務所の貢献度もそれほど大きくない。特にこれからの時代は事務所の力を使うということはどんどんやりにくくなり、結局のところ自分の能力に左右されるようになる。

 

マネジメント事務所は、競技者の経済的な成功および良い競技環境を作るう上でとても重要だ。いい事務所と組めれば、本当に力を発揮できるが、そうでなければブランドは低下するか搾取される。事務所を見分けたければその事務所に長期間所属している選手、またはやめた選手がどのような感想を抱いているかを調べればいい。新規の事務所はその点不利だが、実際に2020が終わったらいなくなる事務所も多いだろうから、長くやっている事務所にはそれなりの信用を持っていい。繰り返しになるが、友達だからとか、たまたま声をかけられたからという理由で選ぶのではなく、利用者の声、バックグランドチェック(反社チェックも)を嫌という程やった方がいい。自分のブランドを預けるというのはそこまでやってもやり足りないほどだ。

 

個人的に強く勧めるのは、自分の機嫌をとってくれるところではなく、自分の成長にコミットしてくれる事務所だ。自分自身が成長することほど本質的なブランディングはない。

トップ画像:ACphoto by oldtakasu


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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