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.国際  投稿日:2020/9/29

仁義なき米大統領選と台湾問題


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#40

9月28日-10月4日

 

【まとめ】

・米最高裁判事に保守派指名。大統領選結果が長期確定しない恐れも。

・米論文で「台湾防衛の意図明確化を」「米軍の台湾駐留検討を」。

・中国側は猛反発。この時機の米台関係見直し論争の意味は?

 

遂に米国大統領選挙が最終段階に入った。先週はルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の死去が「オクトーバーサプライズ」になるかもしれないと書いた。予想通り、トランプ政権は保守派女性判事を後任に指名。最高裁での保守派優位を決定づける動きに異を唱える共和党上院議員は殆どいなかった。トランプの勝ちである。

 

だが、これで民主党が黙っている筈はない。27日夜、NYTが遂に、というか予定通りというか、「トランプ氏個人の納税申告書」の詳細をすっぱ抜いた。恐らくかなり前から入手していたに違いないが、最高裁判事後任問題で大統領選の流れが変わりそうになった絶妙のタイミングで書いたのだろう。これが仁義なき米国の内政の実態だ。

 

ロイターなどによれば、トランプ氏は「過去15年のうち10年間も所得税を納めておらず、2016年と17年の連邦税納付額はそれぞれたった750ドルだった」という。NYTやCNNはまた鬼の首でも取ったような大はしゃぎだが、過去の事業損失との損益通算による節税は大統領としてはともかく、経営者としては当然で、違法性は低い。

 

当然、大統領はこの報道を「完全なフェイクニュース」と否定。庶民感情には程遠いが、トランプ氏はこれで中央突破するしかない。この調子では、11月3日までエゲツナイ暴露合戦が連日続くだろうし、下手をすると投票日後も選挙結果が長期間確定しない恐れすらある。こうなれば、共和党保守派の「良識」に期待するしかないだろう。

 

今週の筆者の関心は台湾問題である。偶然かもしれないが、9月に入ってから米台関係の見直しに関する論争が米中論壇で始まったように思えるからだ。まず最初は米国外交問題の大御所Haasによる「対台湾政策は明確であるべし」と題する小論、米国は従来の「戦略的曖昧さ」に代わり、台湾防衛の意図を明確にすべしと説く。

 

続いて、米海兵隊のMills大尉(Captain)が陸軍系専門誌に「米軍は台湾駐留を考えるべし」とする小論を寄稿した。これに対しては中国環球時報の編集長がツイッターで猛反発、「米軍が台湾に戻れば、PLAは中国の領土を保全するための正義の戦いを始める」と警告したことから、徐々に話が大きくなった。

▲写真 中国の習近平国家主席 出典:Janne Wettoeck

単なる言葉の喧嘩なら、どうということはない。また、HaasとMillsの両論文に直接の関連はないと思う。だが、中国人なら、これが偶然だとは決して思わないだろう。とにかく陰謀論が大好きな民族だから。この論争が意味するものは何か。今週のJapanTimesではこの点を取り上げる。というか、これから書くのだが・・・。

 

〇アジア

軍による韓国男性射殺事件北朝鮮が異例の謝罪をしたが、事件を知りながら、文在寅大統領が国連演説で触れなかったことが問題化している。同大統領の限界か。

 

〇欧州・ロシア

ベラルーシの抗議デモは7週間目に入ったが、徐々に規模が縮小しているとの報道もある。ルカシェンコの粘り勝ちなのか、米国の静観している態度も気になる。


〇中東

5年前編集部が襲撃された仏風刺新聞「シャルリ・エブド」の旧本社前で再び襲撃事件が起きた。あの趣味の悪い風刺画を再掲するアホな連中にも表現の自由はある。

 

〇南北アメリカ

日本時間30日午前に米大統領候補者による第一回テレビ討論会がある。エンタメとしては面白そうだが、討論会でのパーフォーマンスがどこまで効果的かは不明だ。

 

〇インド

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:トランプ米大統領と最高裁判事に指名された保守派のエイミー・コニー・バレット判事(2020年9月26日 ホワイトハウス)
出典:The White House facebook


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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