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IT/メディア  投稿日:2013/10/22

三鷹女子高生刺殺事件とSNSの闇


渡辺真由子(メディアジャーナリスト)

執筆記事WebsiteTwitterFacebook

「これは……」

思わず言葉を失った。少女のプライベートな画像や動画が、インターネット上に次々と現れる。カメラに向かって無邪気に微笑むのは今月、東京都三鷹市で殺害された女子高校生だ。殺人などの容疑で送検された元恋人の男が、振られた腹いせにネットに流出させたとみられる。

しかもこれらの画像や動画は、第3者の人々によって無数のサイトにコピーされ、拡散を続けているのだ。ネット掲示板では、彼女のプライベートに関する興味本位の中傷や揶揄が飛び交っている。まさにネット時代の「二次被害」といえよう。

デジタルカメラでの撮影が一般化し、フィルムを現像に出す手間が省かれるのに伴い、本来他人には見せないような写真も気軽に撮影する傾向が生じている。米国では2000年代後半から、少女たちの間で、自分の裸や下着姿の画像を携帯メールに添付して恋人に「プレゼント」するのがはやり出した。日本でも、無料通信アプリのLINEなどを利用した同種の行為が見られる。

恋人との出会い自体にも、ネットが一役買うことは珍しくない。冒頭の事件の被害者が容疑者と知り合ったのは、SNS(交流サイト)の1つ、「フェイスブッ ク」だった。顔写真や年齢、趣味などが掲載されているSNSは、さながらお見合い資料のようなもの。好みの相手を選んでメッセージを送る「SNSナンパ」 とでも言うべき手法が横行している。

だが、直接顔を合わせないネット上では、身元はいくらでも詐称することが容易だ。私が取材したある女子中学生は、SNSで知り合った男性の顔画像に一目ぼ れし、メールをやり取りしただけで「付き合おう」と意気投合した。その後実際に会ってみると、本人の顔はまるで別人のようだったという。

「画像が修正されていたんです。あれじゃ詐欺ですよ」と女子中学生は憤る。今回の容疑者も、ネット上では職業を偽っていたことが報じられている。

相手の素性がよくわからないまま付き合うと、「こんなはずじゃなかった」と冷めるのも早くなる。だが、その時点で既に自宅住所などの個人情報を知らせていると、悪用を恐れて別れにくくもなろう。ましてや性的画像を相手に提供してしまえば、なおさらだ。

米国では2008年、元交際相手に裸の画像をネット上にばらまかれた18歳の女子高校生が不登校になり、その後自殺する事態が発生した。かつての恋人や配偶者の性的な画像を復讐目的でネット上に暴露する行為は「リベンジ・ポルノ」と呼ばれ、専用の投稿サイトまで開設されるなど、社会問題化している。

こうした状況を受け、同国カリフォルニア州は今月1日、リベンジ・ポルノを禁止し、投稿した者には禁錮最高6カ月か罰金最高1000ドルを課す法律を施行した。日本においても、同様の事案は既存の法律で対応可能とみられる。だが、この種の画像の拡散のスピードを考慮すれば、リベンジ・ポルノに特化した削除ガイドラインを制定するなど、より迅速に対処できる仕組み作りが求められよう。

ネット・リテラシー教育による対応も重要だ。恋愛中というのは相手の喜ぶことを何でもしてあげたくなり、「愛の証」としてプライベートな画像を共有するこ ともあるだろう。だが、2人の秘め事であったはずの画像は、関係が破綻した途端、公衆の面前に投下される「爆弾」と化し得る。ひとたびネット上で拡散され た画像を全て回収するのは至難の業だ。

例え恋人であっても性的な画像を撮らせたり、あるいは自分から送ったりする行為は慎むよう、子どもに教える必要が生じている。

一 方、加害者対策にも目を向けねばならない。交際相手に振られたことが、なぜ復讐への発想につながるのか。責任を相手に押し付け、自分の非を認められない 「自己愛」が肥大する要因は何か。交際女性を「所有物」とみなす風潮はないか。1人の少女の死は、我々に検討すべき多くの課題を残した。

 (本記事はブログ『渡辺真由子のメディア・リテラシー評論』より転載致しました。)

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【プロフィール】

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渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)

メディアジャーナリスト 慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶応大学SFC研究所上席所員(訪問)。若者の「性」とメディアの関係を取材し、性教育へのメディア・リテラシー導入を提言。テレビ局報道記者時代、いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書』で日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞。平成23年度文科省「ケータイモラルキャラバン隊」講師。平成25年度法務省「インターネットと人権シンポジウム」パネリスト。主な著書に『オトナのメディア・リテラシー』、『性情報リテラシー』、『大人が知らない ネットいじめの真実』など。


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