中南米で浸透図るイラン-反イスラエル・テロの可能性も

山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・イランがベネズエラを拠点に中南米で影響力の拡大を図っている。
・イランとベネズエラは20年間の包括的パートナーシップに関する文書が調印されている。
・イランの代理勢力「ヒズボラ」が反米、反イスラエルのテロを起こす懸念も。
イランがベネズエラを拠点に中南米で影響力の拡大を図っているようだ。イランの“代理勢力”とされるイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」が中南米で反イスラエル・テロを起こすのではないかとの懸念も出ている。
■1990年代末から関係緊密化
イランがベネズエラとの関係を強めていると言われてから久しい。両国の強い結びつきは1990年代末からだ。1999年から14年間ベネズエラを強権支配し、「21世紀の社会主義」を掲げ反米の急先鋒となったチャベス大統領にイランは連帯を表明。さらに2005年から8年間のアフマディネジャド政権下で軍事・政治・経済分野でベネズエラとの提携・協力が促進された。2013年ベネズエラでチャベス氏の死後に後継者となったマドゥロ現大統領も反米・親イラン路線を引き継ぐ。
両国間では20年間の包括的パートナーシップに関する文書が調印され、政治・外交面でも常に足並みを揃えている。独裁的支配を強めるマドゥロ政権に対し国際社会の批判が高まる中でも、イランは一貫して同政権を支持。一方、マドゥロ政権も国連の安保理など国際政治の場でもイランを強力に支持している。同政権は今回のイスラエルと米国によるイラン攻撃をいち早く非難し、イランとの連帯を表明した。
■イラン国会議長がベネズエラ訪問
6月のイスラエルによるイラン攻撃の10日ほど前、イランのガリバフ国会議長がベネズエラを訪問、マドゥロ大統領と会談した。ガリバフ氏はイラン革命防衛隊出身で昨年の同国大統領選にも出馬した保守強硬派。同議長は二国間関係や安全保障問題についてもベネズエラ側と協議したと伝えられる。一部中南米メディアによると、この会談ではイラン現政権が倒れた場合、要人の亡命をベネズエラが受け入れることも話し合われたという。
実はマドゥロ大統領は3年前にもカラカスを訪問したイラン要人に対し、万一の事態が起きた際には亡命を受け入れる意向を伝えている。両国はつい最近も「双方の関係の深化に向けた最終段階」(ベネズエラ高官)として自由貿易協定締結について協議したと報じられた。イランのベネズエラとの貿易額は2023年には30億ドルを上回ったとのデータもある。ベネズエラの有力紙「エル・ウニベルサル」の記者は「米国から経済制裁を受けているマドゥロ政権を支援するため、イランは石油分野を中心にさまざまな協力をしている」と語る。
■中南米で暗躍するヒズボラ
米共和党系のシンクタンクの研究者によれば、イランのアフマディネジャド大統領の時代にベネズエラとの間で結ばれた軍事的取り決めに基づき、イランから軍事顧問や革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の隊員がカラカスに派遣されており、ベネズエラはイランの中南米進出の前進基地になっているという。
イランがベネズエラの空軍基地にドローンの生産拠点を設けているとの話も以前から取りざたされている。イランが友好国のキューバやニカラグアとの連携だけでなく、ボリビアやエクアドルなど他の中南米各国でもプレゼンスの拡大を画策しているとの情報も飛び交う。イランは2001年からボリビアに軍用機の部品を売却している。特に注目されるのは、イランの”代理勢力”とされるレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の活動。ヒズボラが1980年代からアルゼンチン、ブラジル、パラグアイの三国国境地帯で麻薬取引やマネーロンダリングなど違法活動を行っていることはよく知られている。
中南米メディアの間ではこの地域でヒズボラが反米、反イスラエルのテロを起こす可能性が取りざたされている。実際、過去にはそうした例がある。1992年ブエノスアイレスのイスラエル大使館、94年に同市のイスラエル関連施設がそれぞれ爆破され、多数の死傷者が出た。両事件はイランかヒズボラの犯行と見方が定説。2023年10月、イスラエルがパレスチナのイスラム組織「ハマス」を攻撃した直後、アルゼンチンやブラジルに存在するユダヤ人コミュニティーをヒズボラがテロ目標にするのではないかとの懸念が広まった。アルゼンチンには中南米最大の約20万人のユダヤ人コミュニティーが存在するとされており、ミレイ同国政権は警戒を強めている。
トップ写真:ベネズエラ独立214周年記念式典の一環として行われた軍事パレードで謁見するマドゥロ大統領(2025年7月5日)出典:Jesus Vargas/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、





























