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.政治  投稿日:2026/1/6

戦略なき強行:ベネズエラ、ガザ、そして大統領の認知能力への懸念


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

外交・安保カレンダー 2026#01 

2026年1月11日

【まとめ】

・米国によるベネズエラ前大統領夫妻の拘束・連行について、政権内では実行の合意はあったものの、その後の対ベネズエラ方針や戦略について合意があったかは定かではない。

・トランプ外交には一貫した戦略や哲学が欠如しており、大統領の判断能力への懸念も禁じ得ない。

・2026年も同じような判断や行動が繰り返される可能性は高く、その場合は内政上の自浄作用に頼るしかない。

 

謹賀新年この「外交・安保カレンダー」も今年で創刊(?)16年となった。正直なところ、よくまぁ続いたものだ。体力的には「毎週連載」がちょっと「シンドク」なったものの、本年も書き続けることに、勝手ながら、決めた。親愛なる読者各位には心より感謝しつつ、引き続きご愛読のほど宜しくお願い申し上げたい。

さて、新年早々からベネズエラで起きた事件に振り回されてしまった。せっかくの正月気分も台無しだったが、この「米国の連邦捜査当局による、米軍等の支援を得て行われた、ベネズエラ国内での米国内法上の犯罪人の拘束と、ニューヨークへの連行」という事件の概要は既に多く報じられているので、ここでは繰り返さない。

また、この事件の意味合いについても、今週の産経新聞ワールドウォッチに法的、歴史的、米国内政治的、国際政治的な視点からかなり詳しく書いたので、ご一読願いたい。ちなみに、本事件の米国内での説明ぶり等については、今週の辰巳由紀主任研究員の「デュポンサークル便り」が興味深いので、そちらも是非ともご一読願いたい。

という訳で、本稿では、あの事件から数日を経て、改めて事件の詳細を振り返りつつ、筆者が考えたことを書くことにしよう。以下は、産経新聞等に書けなかった筆者の追加的気づきの点である。新年早々、若干「人を憂鬱にさせる」内容かもしれないが、暫くお付き合い願いたい。

実は先ほどCNNでトランプ政権の次席大統領補佐官(政策担当)インタビューを聞いていた。産経新聞に書いた通り、法的、歴史的に見て、あの事件が起きた理由についてはある程度推測がつくので、インタビューを聞いても別に驚かなかった。あの次席補佐官の話で筆者がほぼ確信したのは、次の諸点である。

●トランプ政権内では、ベネズエラにおいて同国大統領夫妻を拘束・連行するところまでは、合意があったのだろう。

●しかし、今後米国がベネズエラをどうするかについては、政権内で合意があるようにはとても思えない。

●長年トランプ氏を批判してきたジョン・ボルトン氏が言っていたように、やはり「トランプ外交には、戦略も、哲学も、政策もない」のである。

●今回のインタビューでは、司会者がベネズエラを今後どうするかにつき執拗に質問していたが、次席補佐官の答えは実質「ゼロ」だった。

●あの程度の考えでベネズエラに対し行動を起こしたのかと思うと、末恐ろしいものを感じる。ボルトンが言っていた政権内の状況は今も変わっていないのだろう。

●確証がある訳ではないが、今ワシントンで噂されている「大統領の肉体的・認知的能力の衰え」は全く根も葉もない話ではないのかもしれない。

●この状態が続けば、2026年を通じ、恐らく同じような判断ないし行動が繰り返される可能性が高まるだろう。

●そうなれば、もうアメリカの内政上の自浄作用に頼るしか、他に解決策はなくなるのだろうか。それには、まだ少なくとも3年はかかるのだが・・・。

恐ろしいことを年の初めから言ってしまったが、以上が現時点での筆者の率直な感想である。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

1月6日 火曜日 米州機構常設委員会がベネズエラ情勢を審議

1月7日 水曜日 ローマ教皇、臨時枢機卿会議を開催(2日間)

1月8日 木曜日 ヨルダン、EU・ヨルダン首脳会議を主宰

1月11日 日曜日 ベニンで議会選挙

ミャンマーで総選挙(第二段階)

1月12日 月曜日 香港の裁判所がジミー・ライ氏に対する判決前審議を開催

国際司法裁判所がミャンマーのジェノサイドに関する審議を開催

ポーランド大統領訪英(2日間)

最後はガザ・中東情勢だが、前回は、昨年末にフロリダでトランプがネタニヤフと会った結果が出るまではガザ問題は動かないと書いた。この首脳会議の結果を試しに某AIに尋ねたら、瞬く間に次のようなことを書いてきた。それによれば、主たる議題は: イランに対する強力な牽制、ガザ和平案の「第2段階」への移行、及び ヨルダン川西岸地区の入植地問題だったそうだ。でも、本当かねえ?別途、検証が必要だ。

確かに、トランプはイランが核施設などの修復や開発を継続する場合、イスラエルによるイランへの再攻撃を支持した模様である。また、ガザについては停戦後の統治計画が協議され、多国籍部隊の展開とハマスの武装解除で一致したという。だが、この程度の内容では第2段階は始まらない。いずれ戦闘は再開されるだろう。

興味深いのは、西岸地区の新入植地についてトランプ政権がスラエルの裁量を尊重する姿勢を示したことだ。何のことはない、トランプとネタニヤフの愛憎関係は続いているということなのか。

今週はこのくらいにしておこう。皆さまにとって2026年が良い年となりますように。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)フロリダでの休暇を終え、ホワイトハウスに帰還するトランプ大統領

出典) Alex Wong/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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