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.国際  投稿日:2024/8/28

混乱続くベネズエラ 大統領強権姿勢の裏に中露の支持、軍の動向がカギ


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・ベネズエラ大統領選結果を巡りマドゥロ現政権と野党勢力の対立が激化。

・不正選挙への批判にもかかわらず、マドゥロ大統領が強権姿勢を貫く背景には中露の支持がある。

・さらに混乱が深まればベネズエラ軍の一部が反旗を翻すとの見方も。

 

■ マドウロ政権の不正選挙を批判-国際世論

南米ベネズエラでは7月末実施の大統領選で同国選管当局は、マドゥロ現大統領が勝利し、3選を果たしたと発表した。マドゥロ氏の得票率が51%、野党統一候補の元外交官ゴンサレス氏は44%だったとされる。しかし、野党勢力は選管が大統領の影響下にあり、開票作業が操作されたとし、独自の集計を基にゴンサレス氏が圧勝したと宣言。これを受け同国内では多数の市民が参加する大規模な抗議デモが発生、治安部隊との衝突でこれまでに2400人以上が逮捕されたと伝えられる。

国連はじめ、米国や欧州連合(EU)各国も選挙不正の疑いがあるとしてマドゥロ政権に対する批判を強めている。アルゼンチン、ペルーなど中南米5カ国は早々とゴンサレス氏が勝利したとの見解を表明、従来ベネズエラと友好関係を維持してきたメキシコ、ブラジル、コロンビアもベネズエラ選管当局に開票結果の詳細を公表するように要求した。

 ブラジルは再選挙を提案

マドゥロ大統領と野党陣営が歩み寄る道はないのか。両者の仲介に意欲的なブラジルのルラ大統領はこのほど、国際的なオブザーバーを入れてベネズエラ大統領選をやり直すことを提案した。しかし、マドゥロ大統領がいち早く拒否、野党側も「有権者の意思を無視することになる」とし、拒否を表明した。

マドゥロ政権は大規模な抗議デモ発生について野党指導者らが国家に対する反乱を扇動したとして逮捕する構えだ。内外からの批判の高まりを一向に気にせず大統領が強気になる背景には友好国キューバのほか、中国、ロシアからの支持を得ていることがあるとの指摘も多い。特に中国はベネズエラ大統領選の公式発表のわずか四時間後にマドゥロ大統領の勝利を承認する迅速な対応ぶり。中国はベネズエラと「包括的パートナーシップ協定」を結んでおり、政治・外交面での支持に加え、経済支援も続けている。

マドゥロ大統領が昨年9月に訪中し、習近平国家主席と会談して以後、2国間関係は一段と強化されたといわれ、「国際世論がいくら選挙不正があったと非難しても、中国の支援がある限り国際的孤立を恐れないというのがマドゥロ氏の考え」(在カラカス外交筋)との説もある。ロシアのプーチン大統領もマドゥロ大統領あてに祝電を送り、今後さまざまな分野で関係を深化させると約束した。

■ 軍中堅幹部が野党に同調の動き?

一方、米国のマドゥロ政権に対する対応は今一つはっきりしない。バイデン政権は新たな制裁を検討していると報じられたが、ベネズエラ大統領選後約1カ月経った現在まで制裁は発動されていない。バイデン政権がベネズエラに対し強硬措置を迅速に取っていないことが、マドゥロ大統領が強気になる一因と見る向きもある。今後のシナリオについては「マドゥロ政権が野党勢力への弾圧を強め、権力の座に居座り続ける」(中南米専門の米シンクタンクの研究者)との見方が有力だ。

ただ、少数意見ながらマドゥロ大統領退陣が追い込まれるとの見方もある。メキシコ有力紙「エル・ウニベルサル」の政治記者は「国内の混乱が一層深まれば軍が大統領に反旗を翻す可能性が出てくる」と予想する。ベネズエラの国防相や参謀総長らは大統領選後もマドゥロ大統領への忠誠を誓っているが、同記者によれば、軍の一部中堅幹部の間で国家の分裂を回避するため、野党陣営に同調する動きがあるという。

中南米専門家の間ではベネズエラの現状が2019年のケースと酷似しているとの指摘もある。この年ボリビアで大統領選が行われたが、4期目の当選を目指したモラレス大統領が不正選挙への抗議デモが広がる中、軍が離反し、辞任に追い込まれる歴史的政変が起きた。ベネズエラで同様の政治ドラマが展開されるか、同国の軍の動きが焦点になりそうだ。

(了)

トップ写真:「平和のための世界大行進」で演説するニコラス・マドゥロ大統領(2024年8月17日ベネズエラ・カラカス)出典:Alfredo Lasry R/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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