ベネズエラ経済回復の兆し マドゥロ政権に追い風
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・ベネズエラ経済は石油増産などにより昨年の成長率が8年ぶりにプラスを記録
・マドゥロ政権は昨年の地方選で大勝、国内政治を掌握
・外交面でも「リマ・グループ」の機能不全など同政権に有利
■ イランの支援で石油増産
ベネズエラでは、食料・医薬品の欠乏から人口の約5分の1に当たる500万人が海外に脱出するという異常事態を招いた混乱が続いている。こうした中、年初からベネズエラにとって比較的明るいニュースが伝えられた。
マドゥロ大統領は1月半ば、「2021年7〜9月期の経済成長率が7・6%に達し、通年では4%を超えるだろう」と述べた。欧米の有力紙も、2021年のベネズエラ経済が8年ぶりにプラスに転じると報じており、大統領の発言を裏付けた形だ。2020年には3000%だったハイパーインフレも、昨年には686%まで低下したという。
ベネズエラ経済好転の大きな理由の一つは石油生産の増加とされている。同国の石油生産は米国の経済制裁の影響で大幅に減少を余儀なくされ、一時はピーク時の10分の1の日量30万バレルまで落ち込んたが、石油輸出国機構(OPEC)の「マンスリー・オイル・マーケット・レポート」(MOMR)によれば、昨年11月は日量82万バレルとなり、前年同月と比べほぼ2倍に増加している。イランの支援が増産の大きな要因だという。マドゥロ大統領は「ベネズエラ経済が回復軌道に乗った」と政権運営に自信を示す。
■ 目立つグアイド氏のちょう落
マドゥロ大統領の強気姿勢の背景としては軍部の支持を確保し、国内政治を掌握している点が挙げられる。同大統領は軍人出身ではないが、将軍などに閣僚ポストや国営企業役員の地位を与えるなど軍人の政治利用に長けているようだ。昨年11月実施された地方選での圧勝で政権の勢いが増している。
この地方選は主要野党も参加し、欧州連合(EU)が選挙監視団を派遣する中で行われており、「選挙結果には一定のお墨付きが与えられた」(カラカスの有力紙編集長)との評価もある。一方、野党勢力は足並みの乱れから自滅した格好。反マドゥロ勢力はもともと、左派から中道右派までさまざまな政党で構成されており、各派の主導権争いや内部対立がしばしば起きている。
一時はマドゥロ政権打倒の象徴的リーダーと目されれたグアイド暫定大統領の人気低落も顕著。現地の世論調査では支持率は16%程度でマドゥロ大統領の支持率15%とほとんど変わらない。野党勢力の弱体化も、マドゥロ大統領の強気を支える要因だ。
写真)ファン・グアイド氏 2020年12月7日 ベネズエラ・カラカス
出典)Photo by Carolina Cabral/Getty Images
■ 反マドゥロのリマ・グループは「もはや死に体」
もっとも、マドゥロ政権にとって国内政治面で不安材料がないわけではない。今年1月、ベネズエラ西部のバリナス州で行われたやり直し知事選でマドゥロ大統領の推す与党候補が野党連合候補に敗北した。
バリナス州は大統領の”師匠”とされる故チャベス前大統領の本拠地だった所だけに政権にとっては痛手。野党勢力の結束次第ではマドゥロ政権を追い詰めることが可能なことが示されたわけだが、グアイド氏の人気ちょう落もあって野党勢力の結束が容易でないことは明らか。
外交面でもマドゥロ政権に有利な状況が生まれている。グアイド氏を暫定大統領と認め、ベネズエラの民主化を訴える外交工作を展開してきた「リマ・グループ」が機能不全に陥っている。ペルーを中核に中南米の主要国など12カ国で構成されていた同グループだが、昨年発足したペルーの左派政権がマドゥロ政権を事実上承認。既に同グループからはメキシコ、アルゼンチン、ボリビアが撤退しており、ペルーの外交路線転換で「もはや死に体」(ペルーの外交官)となった。こうした状況からカラカスでは「2024年の次期大領領選まではマドゥロ政権は安泰」(前述の外交筋)との声もささやかれ始めているという。
(了)
トップ写真)ベネズエラ ニコラス・マドゥロ大統領 2021年11月21日 ベネズエラ・カラカス
出典)Photo by Manaure Quintero/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、