人生100年時代~タイブレーク社会に直視線①「公約倒れにもノー」~社会保障第2ステージ

渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」
【まとめ】
・参院選後の物価高対策、社会保障改革は混とん状態。
・給付金か消費税減税、年金・医療・介護改革の論点。
・石破政権続投・退陣に絡む政局、霧の中での実現可能性。
■与党大敗、多党化。公約に向けての第2ステージ
お盆が過ぎて、衆院選に次ぐ参院選2連敗で少数与党に転落した石破政権は、続投・退陣の党内抗争の渦中にいる。給付金優先、消費税10%現状維持で、減税を明言せず、対する野党との減税・或いは廃止論争が最大の争点になった。結果的に、自民、公明の与党連立政権は「ノー」を突き付けられて大敗した。
選挙が終われば公約倒れがこれまでの政治家・政党の常とう手段化してきたが、さすがに今回はトランプ関税、米価格の高騰など物価高対策、社会保障改革に知らんふりをして公約倒れなれば、これにも「ノー」が突き付けられよう。厳しい世論の監視下にある。野党にとっても状況は変わらない。
消費税限定減税を掲げ、議席が現状維持にとどまった野党第一党「立憲民主党」は食料品の消費税8%の1年間ゼロ(最大2年間)、実施に至るまでの期間に食卓応援交付金2万円の交付金給付。さらに「日本維新の会」「国民民主党」「保守党」も限定的な減税。廃止は「日本共産党」「参政党」「れいわ新選組」=順不同などと大まかに分けられる。
野党の公約は実施内容もそれぞれ異なり、いわば、バラバラと評されている。消費税減税・廃止の税源をどこに求めるか、立憲民主党が積み過ぎ基金取り崩し・外為特会の剰余金を含め、他の野党は税収の上振れ分、国債発行、金融所得課税や富裕層への税優遇を止めるなどやはりマチマチである。
■公約再掲
消費税は社会保障の重要な財源である。
各政党は社会保障で、具体的にどんな政策を公約に掲げているのか。
具体的な改革項目は異なるが、マクロな観点からは各政党とも重要な政策がほぼ共通して負担を多く増やさず、安定的な運用を目指している。
自民の医療、介護報酬公定価格の引き上げや立民は社会保険料の支払いが発生する130万円の壁で手取りが減らないよう給付。そのほかの野党は基礎年金支給額の底上げや、介護保険、後期高齢者医療保険料の適正化、医療費高騰対策としての医療提供体制の見直し、社会保険料の軽減等。それと並行しての必要な国庫負担増などがあげられている。どれもこれまでに議論が尽くされてきた。
与野党の公約を選挙が終わった今、なぜ、あえて長々と公約を掲げたか。投票前の選択肢として公約に着目するのは当然だが、投票後にこそ各政党の公約の本気度や政策に対する向き合い方の誠実度が如実に表れるからである。
選挙前、与党連立政権は自民党単独或いは公明党との連立与党過半数獲得を目指して、実現可能性に最も距離が近いとして、財政再建と緊急的な物価対策を目指して給付金の優先を掲げた。国会での法案可決の可能性を見越してのことだ。ところがそれが叶わなかった。今後は単独では法案1本通せないので、野党との部分連合、或いは連立が模索される。しかし石破政権との連立はどの党も現段階では否定的だが、自民党の総裁選前倒しで石破首相の進退、新総裁・首相が決まれば、石破後の政局は大きく動くだろう。ただ多党化における政局はこの先も不透明感が付きまとう。
■複雑なテーマの課題分析
社会保障に関連した一連の課題は、目の前の物価高対策としての給付金、消費税の減税、或いは廃止論争の枠内だけの議論にとどまらない。
超高齢社会問題、貧困・格差対策、現役世代の低賃金、非正規雇用者や失われた世代の生活苦、人道的観点からの外国人の生活保障問題などが幅広く背景に横たわり、参院選で多党化現象とともに、一気に表面化した。
しかしそれに対応する制度はタテ割りの省庁にまたがり、制度の後付けや、つじつま合わせなども多い。複雑・多岐にわたっている。
全体像を理解し、ポイントを見つけるのにも苦労するのが現状だ。分かり易い例示や、エピソードなどを交えながら、幅広い視点から検証し、改革・改善に向けた視線を定め、複雑に絡み合った問題点や改革のための争点を明らかにし、次の時代のステージへの足掛かりとすることが必要だ。
■社会保障の再構築
新政権の行方は霧の中。次期衆院解散総選挙の予測も難しい。野党第一党の立憲民主党は政権取りの政治決断のジャンプをどの段階で、どう位置付けるのか。石破首相と、野田民主党代表の企業献金問題のための議論・協議の距離感が政党間の距離感に連動するのか。野党間の連立協議がほぼ可能性が薄い。個別の野党との部分、或いは連立協議があるのか、臨時国会運営、補正予算案審議に注目するしかない。
現役世代、高齢の年金生活者とも税、社会保険料負担にあえいでいる。参院選の結果を受けて新政権が負担軽減策に舵を切るとしてもバラマキに陥らず財源を手当てすること。
グローバル化による法人、所得税の税率がフラット化している。高利益のデジタル商品や金融所得の課税対象が、超高所得層に有利と言われる現在の累進課税や、基幹税になった消費税について、超高額な贅沢品とコメなどの食料・生活必需品の消費税が一律でいいのか。軽減策に着手するとしても、どこに線を引くか。自由経済成長に水を差す、との反対論も当然、根強い。ライフラインに直結した適正な所得再分配や社会保障の改革で再構築が必要だ。
■「直視」する必要性
石破政権の続投、退陣が交錯するが、超党派による社会保障改革協議会の設置を提案している。
本欄における「人生100年時代の目線」第1ステージで、医療、年金、介護の社会保障3本柱の制度改定、財政再計算に合わせて、各改革の中身を検証してきた。
毎年、膨れ上がる医療費の抑制や、高齢者社会保険料の負担増、減り続ける基礎年金への厚生年金繰り入れで、減額に歯止めをかける対策や、介護保険では月額5000円超のアップし続ける介護保険料、在宅訪問介護報酬の減額で、草の根介護の危機などについて詳述した。いずれも改革半ば、社会保障の主な財源と目される消費税の減税・或いは廃止論争とも密接に関連している。次期改革に向けて正念場を迎える。
参院選後の石破首相の続投・退陣問題とも絡んで、今後の社会保障政策などに対する「人生100年時代の目線」は第2ステージに入った。もう後がない、タイブレーク社会に入っている。
民間、政界を問わずSNS情報や、既存のメディアからは膨大な真偽取り混ぜた情報が流れ続けている。一部をと「ポピュリズム」と決めつけたくはないが、それらに惑わされず、難しい作業だが、物事の核心・本質に一歩でも近づけるよう真っ直ぐに目線を向け続ける「直視線」の必要性がより重要性を増し続けている。
(その2に続く)
トップ写真:病院クリニックの待合ホールの写真素材 出典:Chinnapong by Getty Image




























