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.社会  投稿日:2025/8/19

人生100年時代~タイブレーク社会の直視線②「消費税減税是か非か論争の実相」


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

【まとめ】

・社会保障の財源と位置付けられる消費税とは。

・富裕層に一律課税と有利な逆進性。

・食料品消費税ゼロ%のイギリスと北欧型高福祉高負担消費税の実例に見る。

 

■給付金より、消費税減税へ~が多数

参院選で少数与党石破政権は2万円の給付金優先で、消費税減税を明言しなかった。対する野党は消費税の限定的減税か廃止か、を公約にして最大の争点になった。選挙結果では、野党に軍配が上がり、政権与党は衆院解散総選挙に続いて大敗したことが鮮明によみがえる。

各種世論調査でも消費税減税に賛成する意見は、「必要ない」に対し「必要」がほぼ多数を占めている。物価高で税と社会保険料負担がかさみ、現役世代の手取り賃金が増えない。ことに高齢者は年金受給額が物価高で実質的に目減りする中で、価格が高騰したコメを筆頭に日々の生活に欠かせない食料品の購入割合が支出のほとんどを占めていると言っても過言でない。まさに逆進性が現実に直撃している。

給料や年金から天引きされる税や保険料が少なければ少ないほど、いい。だれしもそう思う。ただ食料品や商品を買った時に商店やスーパーマーケットで自動支払機から取り出したレシートに打ち込まれている一律8及び10%課税の刻印を目にして負担感を感じるのは仕方がないことだろう。

消費税が社会保障の重要な財源であることは確かだろう。石破総理はトランプ関税交渉で「舐められない」よう、国益をかけた交渉を表現したが、今の50歳代を中心とした氷河期世代が高齢化する時代を見据えて、同じような表現で消費税が社会保障の重要な財源であることを強調した。財源を手当てしなければ、財政健全化が失われる、との理由などで現状維持を主張した。

日々の買い物で、消費税が果たしている役割や位置づけに思いを致すことは少ない。残念ながらこれは自らの体験からも、強くそう思う。

ただそれで良いのだろうか、という感覚も蘇る。しかし現実は消費税減税に傾いている政党にシンパシーを感じてしまう、というのも否定できない。

■今どき勝ち組との消費税逆進性

逆進性を感じさせる強烈なエピソードに遭遇した。

参院選挙期間中、女優名「バーキン」と名付けられた使い古しの初代ブランド・バッグを、日本人が14億7千万円のお値段でセリ落とした。

女優が生前、仏エルメスに依頼し、特注品で製作された。日本円換算で議論沸騰中の消費税や関税がプラスされると18億円にもなる、とインタビューで伝えられている。門外漢には、価値はトンと分からないが、モトは取れるのだろう。

落札者は関西出身、元Jリーガーでリユースの家業を継いだグループ会社の若き社長。大手紙によると「クレイジーな価格」に「富裕層の遊び」との評があることも否定していない。「稀少性、ストーリー性に大変な価値がある。会社商品の世界中への宣伝効果も大きい。販売はせず、文化遺産として保存し美術館などで展示して公開したい」とも。

受け止め方は様々だろうが、定められた現在の法制のもとで、ルールに従って落札している。バブル後の失われた30年。経済の構図も激変している。リユース業界はネット販売や消費構造の変化でチラシやCMが氾濫する隆盛ぶり。今どき勝ち組の成功譚だが、消費税減税議論との対比で、お値段以上に割り切れない思いと、食品との一律課税の逆進性、落差を埋め切れない、複雑な感情は残る。

法人税、所得税は儲けに応じて税率が上がる累進課税だが、消費税はいくら高額な買い物でも一律10%。食料品は8%。冨に関係ない同じ税率だから、貧者に不利な逆進性が指摘される。近年、医療機器などの価格高騰に伴う控除対象外の消費税の支払い負担が深刻化し、病院経営危機の一因にもなっている。

医療費は医療保険の公定価格が定まっているから、消費税分を上乗せできない。患者にとっても、医療費に上乗せされたらたまったものではない。診療報酬は消費税分を補うには不十分で、診療報酬を上げれば、患者の医療費に跳ねかえる。

とくに自治体病院の経営危機は深刻。7割近い病院が赤字経営との調査データも出ている。首都圏でも病院の廃院や閉鎖がある。やはり緊急な対応策が必要だろう。

■フラットな税率に低下した所得、法人税と肩を並べて基幹税になった消費税

日本の消費税は1989年、3%の税率で導入された。当時は大型間接税と呼ばれた。その後、5%、8%とアップして現在の10%になった。マクロ経済や税政策の専門家には恐縮だが、門外漢なりにおぼつかない基礎知識で歴史をさかのぼる。

日本を含む欧米先進国税財政の中心的基幹税は企業の法人税と個人所得税で、利益に準じて税率が上がる累進課税方式。言わば富裕層から税金を多く徴収して、貧困層、或いは病気など何らかの理由で働けない人たちの救済、つまり社会保障の費用に充てていた。所得の再分配である。

第2次大戦後、イギリスのゆりかごから墓場までの福祉国家ビジョンである。しかしその後、グローバリゼーションで所得の再分配が行き詰まった。最大の原因は国家が国境を越えて経済活動を展開するに至った。国内経済を拠点に展開していた企業活動は、法人税を高くすると生産活動を税の安い国外に生産拠点や本社機能を移転する。法人税や所得税を高くできなくなり、以降は税率がフラットになり、国内製造業の空洞化が起こる。世界的に共通している。現在のトランプ関税に至る資本主義発展過程の大変革へとつながる。そこに消費税が登場し、法人所得税と並ぶ基幹税となった。

日本の場合は、安価な労働力などを求めて中国がその舞台なったが、現在は賃金の上昇などで他の東アジアへの移転や、国内への回帰現象が起きている。

消費税は貧富の差なくだれにも一律課税だから、比較的低い税率で多くの税収が見込める。富裕層に有利な逆進性が問題になるのは、世界共通の課題となっている。

グローバル企業のデジタル主要製品は有形資産から無形資産のデータに移り、法人税や所得税は世界中、どこでも即時移動可能になっている。日本で多額の収益を上げていても、生産拠点がなく法人税をかけにくい。世界をまたにかけた投資的金融資産、GAFAなど巨大デジタル産業のオーナーなど一握りの超富裕層が世界の富を独占する格差問題の原因なっている。このため法人税や所得税の適正な課税対象として新たな法制度の整備が必要になっている。法人税率をすぐには上げられないので、課税対象を広げて税収を何とか確保している。かつてのような所得の再分配が難しくなっているのは明らかだ。しかし今後の少子高齢化などの進展を踏まえ、社会保障に対応するためには、日本の消費税はさらに税率をアップしないとやって行けないとの、財政当局の声も根強い。

今の政治状況はとてもそんな声を上げる段階にはない。しかし並行して食品消費税をゼロにしているイギリスや、高福祉高負担御の北欧で実施されている新しい時代の法体系に合わせて、消費税の整備も必要になって来る。

(その3に続く。その1

トップ写真:コンビニエンスストアでレシートを確認する女性の写真素材 出典:Hispanolistic/Getty Images




この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授

東北公益文科大学名誉教授。


早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公


益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。


 定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現


在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。


 著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い


患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=


以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。

渋川智明

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