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.社会  投稿日:2025/8/22

人生100年時代~タイブレーク社会に直視線 その3「社会保障と税(保険)の一体改革の再現」


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

【まとめ】

・社会保障の財源と位置付けられる消費税は基幹税。

・食料品消費税ゼロ%のイギリスと北欧型高福祉高負担消費税の実例に見る。

・富裕層にも一律課税と有利な逆進性の緩和措置。

 

■消費税は基幹税

参院選で自民党が消費税の現状維持を主張し、2万円の給付金公約で、財政再建を優先させる主張をしたが、消費税の期限的減税・廃止を主張する野党に連立与党が大敗したことを、前回までに詳述した。

租税の体系は世界的に今や消費税が、法人税、所得税と並んで基幹税となっている。グローバル化で企業が国境を越えて、税の安い国に生産拠点を移すようになったため、所得の再分配が難しくなったことがその理由である。

 

■イギリスは20%だが、食料品はゼロ。北欧は高福祉高負担

日本の消費税は10%の一律課税で、食料品は8%の軽減税率となっている。先進諸国の制度比較では、アメリカは物品税で制度が異なる。ヨーローッパの諸国で一概に比較はできないが、20%のイギリスは食料品ゼロ%。子育て衣料品や医薬品などもそれにならっている。EUは15%を基準に、食料品など生活必需品は軽減している。各国で税率を決めている。

高福祉高負担の北欧諸国はスウエーデンは25%で、食料品が12%。フィンランドは22%、食料品が17%。ノルウェー、デンマークも似たようなもの。

イギリスの国営医療保険NHS(National Health Service)は国税で賄われているので、原則自己負担ゼロ。病院に診てもらうにはGP(家庭医)と呼ばれる地域の医師のプライマリケアーを受けるので、入院待ちが長い。富裕層は自由診療が出来る~などの批判があるが、福祉国家としての立場を何とか維持している。

北欧は税方式で医療や、介護など社会保障が充実している。貯蓄なく老後を暮らせる、と高い消費税を受け入れている。北欧の場合は社会保障制度の受益と、政府への信頼によって、高負担でも安心感がある。しかし人口小国なので海外に市場を求め、人材育成とともに国内外で苛烈なビジネス競争を展開している。

 北欧は社会保障制度の主要な財源が、そしてイギリスはNHSが税方式で賄われている。使途がシンプルで、分かり易い。

 

■日本の社会保障は税と社会保険料が混在

日本は社会保障のうち生活保護費(4分の三が国税)、障害者総合支援、児童福祉など福祉制度は税財源で運用されている。

もう一つの柱、社会保険は保険料と税がセットになって拠出されている。

  1. 医療保険のうち国民健康保険(給付費の41%が国庫負担、残りは保険料と健保組合などからの拠出)・後期高齢者医療保険(公費50%、健保組合などからの支援拠出40%)
  2. 介護保険(公費が半額、原則受益者の65歳以上保険料が23%、40~64の現役世代27%=難病など特定疾患者は受益可)
  3. 年金(基礎年金(国民年金)=の財源は2分の1が税金)で、残りが保険料。厚生年金は所得別の保険料)

社会保険は厚生労働省が主幹官庁で、税は財務省。いわば税と保険料が混在し、官庁や部局もタテ割りなので、制度が複雑で、理解を得にくい遠因にもなっている。お金に色は付いていいない。国が徴税権によって国民から幅広く税を徴収する。保険料は、保険者が対象になる被保険者の将来のリスクに備えて徴収する。一長一短あるが、政府、保険者への信頼感と、受益者の給付内容やサービス提供者の公定価格市場での公正な活動に対するチエックが不可欠だ。税と保険料の役割・価値、強みをきちんと整理することが必要だ。

例えば低年金者に対する税による最低補償年金の検討など議論の余地がある。

 

■社会保障の税と保険料の一体化改革に向けた政治情勢

今後も高齢社会の急速な進展で社会保障の重要性、消費税の存在意義は高まる。現今の消費税減税・廃止論議の渦中に、食品ゼロなど生活必需品の期限付き減税や逆進性の改善を志向することは可能でも、税率アップを含めた議論はタブー視されるだろう。第2次世界大戦直後に生まれたベビーブーマーが75歳の後期高齢者になる2025年問題はまさに本年、今がその真っ只中にある。その子供たち、第2次ベビーブーム世代、つまり現在の50歳代、氷河期世代が高齢化する2040年問題が迫っている。

グローバル化で所得、法人税の税率がフラット化して所得の再分配がますます難しくなれば、遠くない将来、消費税にまたも目が向けられる、との識者・専門家も多い。

産業構造の変化でグローバル化したデジタル産業や24時間活動する投資ファンドのディーラーによる金融資産など有形から無形資産に激変した課税対象への、法人・所得課税の法制度を適正化する必要がある。放置していれば、移動の難しい国内製造業や、その勤労者への所得課税がさらに厳しくなり、格差の不均衡・不平等や空洞化が進行してしまう。

消費税だけに目を向ければ、取り易いところから税を徴収する安易な方策に批判が集まる。

石破政権が超党派による社会保障改革の協議会設置を提案している。自民党内の権力抗争や石破おろしで総裁選前倒しの内部抗争を続けている現状に、自民党支持者からも批判が出ている。選挙連敗にもかかわらず、石破続投のアンケート結果が上向いているのもその表れだろう。

民主党の野田代表は民主党の政権時代の2012年6月、当時の野田首相として社会保障・税一体改革を民主、自民、 公明3党による合意でまとめた。社会保障制度改革国民会議の設置などを盛り込んだ社会保障制度改革推進法案を成立させた。解散総選挙で第2次安倍自民党政権が成立し、引き継いだが、社会保障改革の具体的な議論より消費税率の引き上げが目立った。

しかし今回の年金財政の再計算で、基礎年金のマクロ経済スライド目減り分を、厚生年金から繰り入れ改善する。税金2分の一の割合増も検討される。厚生年金の加入要件を緩和して加入者を増やすなど立憲民主党も賛成して、一体改革が不十分ながら生かされている。

民主党政権時代、消費増税に関与した野田・民主党代表は、野党がこぞって減税を掲げる中、苦渋の選択だろうが、今回参院選で消費税の食料品ゼロの1年間(最大2年間)時限的減税公約に踏み切った。物価高と値上げラッシュの緊急時との認識で、赤字国債に頼らない給付付き税額控除(消費税還付制度)を目標にしている。

今後は与党第一党と、野党第一党の歩み寄りが進めば、給付金を突破口にした政策が現実味を帯びるか注目される。あとは国民民主、日本維新の会との連立構想お可能性が取りざたされるが、石破世間との連立は否定している。

 税の体系は複雑で、消費者がスーパーで支払う自動支払機の器具調整や、そこに至るまでの生産者、卸、小売りと流れる算定作業は複雑で、税率の改定には時間がかかる。立憲民主党の場合、給付金は与党案と重なるが、消費税の時限的減税や給付付き税額控除については、距離がある。今後他の野党との部分的政策のすり合わせや、政治的連立の可能性も含めて見守る必要がある。時限的にでも、いったん軽減すると、また元に戻して復活するのは無理だとの、意見が多い。

社会保障の改革を前提に税と社会保険料の一体的改革を議論してもいい時期に来ている。

 

■ライフラインに直結した適正な所と再配分が必要 

現役世代、高齢の年金生活者とも税、社会保険料負担にあえいでいる。参院選の結果を受けて新政権が負担軽減策に舵を切るとしてもバラマキに陥らず財源を手当てすること。超高額な贅沢品の消費税が一律でいいのか、高利益の金融所得課税や超高所得層累進税率の見直しなどでどこに線を引くか。自由経済成長に水を差す、との反対論も当然、根強いが、ライフラインに直結した適正な所得再分配や社会保障の再構築が必要だ。

(その4に続く。その1、その2

 

トップ写真)シニアカップル イメージ

出典)Buddhika Weerasinghe/Getty Images




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