税金を上げるのではなく、ムダを無くすことこそ政府がやるべきこと

福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)
【まとめ】
・与党・自民党は社会保障費は消費税率の引き下げで削減されるべきでないと主張している。
・しかし、ムダを排除すれば国民生活の質を改善できることが山ほどある。
・国会議員は率先して国民の要望を実現すべき。
1980年代、欧米の学者や経営者は日本企業の生産性の高さに興味を持ち、「KAIZEN」などのタイトルの本を読み漁り、中には工場見学のために来日する者もいた。トヨタ自動車の「カンバン生産方式」は、トヨタの生産性を高めたと言われ、海外でも注目を集めた。このカンバン方式とは、「必要なときに必要な分だけ供給することで、在庫を最小化する」システムで、高品質な自動車を効率的に生産するために開発された生産方式「トヨタ生産方式(TPS)」の柱のひとつだ。TPSの究極の目標は、「ムダ(無駄)」をなくすことだ。トヨタはムダを排除することでコストを削減し、生産性を向上させた。トヨタだけでなく、他の企業もこの手法を採用し、効率化を推進してきた。
しかしながら、我々の周りを見ると、実にムダなことが多い。実用的でないアベノマスクが大量に生産されて国民に配られ、顰蹙をかったのも一例だ。それ以外にムダを排除すれば、国民の生活コストが削減され、生活の質も改善できることが山ほどある。政府はどうしてそれに早めに手を付けないのだろうか。
日本の祝日数はG7の中では最多にもかかわらず、欧米に比べて真の休暇が取れていないのには理由がある。日本では、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始の期間に皆が一斉に休みをとって出かけるため、幹線道路は渋滞し、電車や飛行機は混雑し、運賃は高騰する。欧米のように一定期間交代で夏休みをとってリフレッシュすることもできない。さらに、近年の外国人観光客の増加により、オーバーツーリズムが起こり、観光地は混雑し、ホテル代や食費は平均的な日本人には手が届かない。休暇とは、普段働いている人がリフレッシュして休暇明けの仕事の効率を上げるためのものだ。しかし、休暇を終えて職場に戻った日本人の多くは、リフレッシュどころか疲労感に苛まれている。時間とお金をかけて疲れに行くなどムダだらけの休暇としか言いようがない。
日本は現在、物価高騰の真っ只中だ。インフレのため、労働者の実質賃金は十分に上昇していない。年金受給者の実質給付は減少している。こうした中、消費税減税を求める声が根強い。少なくとも食料品など生活必需品の税率を下げてほしいという声も多い。
これに対し、与党・自民党の政治家は、消費税と連動している社会保障費は、消費税率の引き下げによって削減されるべきではないと言う。しかし、選挙を目前に与野党の議員の中には食料品の消費税引き下げを求める声もある。これは、国会議員として国民の意見に反応したのではなく、選挙を目前とした自分たちが所属する党のため、さらには自分たち自身のための反応だ。国民の声に耳を傾けず、財源不足を理由にこの問題を棚上げにしてきた彼らも、選挙が近づいた今、国民の声を無視することはできなくなっている。
与党のトップは「消費税を減税したら、その分の財源が無くなる」というが、見渡せばムダだらけだ。国会議員に支払われる給与やその他の経費を削減し、国会議員の数を減らすことは、法律を改正すれば可能だ。
本来、国会議員が率先して国民の要望を実現すべきなのに、日本では国会議員が自分自身を優先している。自分の職を犠牲にしてでも国民のために尽くす、そんな議員が出てくれば、コストも削減され、議員もリスペクトされ、その地位も上がるだろう。
ゴールデンウィーク中、日本に残っていた4頭のパンダが中国に返還されるというニュースが流れた。パンダがいなくなることを惜しむ声があがり、テレビで流れた。しかし、どのメディアもオスとメスの2頭のパンダに、中国へ年間約100万ドル(約1億円)、日本で生まれた子パンダには1頭あたり年間約50万ドル(約5000万円)支払うことを報じなかった。
また、政治家代表団が中国に出向き、日本へのパンダの再レンタルを要請したことが報じられ、SNS上では「消費税減税の財源がないのに、パンダをレンタルするお金はあるのか?」との声も聞かれた。国民の何パーセントが、生活が苦しいときに中国からパンダをレンタルしたいと思っているのか?日本国民の大多数が欲しがってもいないのに、中国へ高額なレンタル料を支払ってまで、パンダをレンタルすることこそ、ムダそのもの。それを政治家の一部が率先するのも妙な話だ。
この国は、道路工事が多い。施設の老朽化対策で、入れ替えは必要だ。しかしながら、水道管、ガス管、下水道管、電線など、入れ替えのたびに道路が掘られ、埋め戻されては舗装される。それらを計画的に行い、掘る作業を最小限にして行えば、コスト削減できるはずだ。日本の役所の縦割り構造が、各部署の連携を不可能にしてムダを増やしている。
ムダの排除努力を企業が行い結果を出しているのに、なぜ日本の政府にはできないのか?
税金を上げる以外に国民の生活を向上させるための手段は何か、と考えれば、それはムダを無くすということに尽きると気づくはずだが。
トップ写真:トヨタ元町工場見学ツアー(2018年7月30日)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師
1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。
過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。
