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.国際  投稿日:2025/8/27

在韓米軍の役割拡大要求 李在明大統領の訪日と米韓同盟の新たな緊張


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#33

2025年8月25-31日

【まとめ】

・李在明韓国大統領は初訪米前に訪日し、トランプ政権との難しい交渉を見据えた日韓協調を模索した。

・トランプ氏が在韓米軍基地の土地所有権譲渡や役割拡大を要求し、米韓同盟を巡る緊張が高まっている。

・JICAの「ホームタウン」構想では、用語や制度内容の誤解が広がり、国内外で混乱と批判を招き、ネット社会の情報の速さと恐ろしさが浮き彫りになった

 

 

今週も原稿執筆が遅れてしまった。次の新書用の原稿執筆を終えた以外に、理由は特に思い付かない。それにしても、この暑さだけは何とかならないものか。先日、生まれて初めて「これが熱中症なのかな」という症状に近いものを体験した。あれが重症化したら「大変だったろうなぁ」とつくづく思う。皆さまも十分お気を付け下さいませ。

 

さて、先週はウクライナ停戦を巡り一連の首脳会談が行われ、「漸く停戦交渉が始まりそうな?」雰囲気になってきた、などと書いてしまった。だが、あれから10日近く経っても、何も起きない。一体あれは何だったのかね。米副大統領は「ロシアが譲歩した」などと言っているが、信じ難い。あれも結局は「目くらまし」発言だったのだろう。

 

という訳で、今週も「夏枯れ」というか、夏休み最後の週ということで、世界的にもニュースは少ないようだ。その中で筆者が特に注目したのは韓国新大統領の動向である。何と、李在明大統領が初訪米前に訪日したのだ。これをどう見るかは識者の間でも意見が分かれるだろう。だが、その後の訪米の結果を見て筆者は確信した。

報道によれば、トランプ氏は「在韓米軍基地の土地の所有権譲渡を迫った」という。韓国メディアは「韓米同盟を巡る基本的合意の枠組みを揺るがす言及」だと大騒ぎになったらしい。米側は在韓米軍の活動範囲を拡大する「戦略的柔軟性」にご執心で、台湾有事も視野に在韓米軍を「対中国抑止力」として使いたいのだろう。

 

これには韓国側も当惑したのではないか。「在韓米軍役割拡大論」自体は決して新しい話ではない。だが、こんな重大な話、進歩派は勿論、保守派の大統領でも簡単に同意する訳にはいかない。これ以外にも農産物等で意見の相違があったようだ。案の定、共同記者会見も開かれなかった。なるほどね・・・。

韓国側はこうした事態をある程度予期していたのではないか。そうであれば、大統領が訪米前に訪日した理由も良く分かる。日本が大事だから?いや、それ以上に、米国との関係が最重要だからだ。こんな状況で日本と喧嘩している余裕はない。むしろ、「トランプ対策」で日本と意見交換した方が得策と判断したのではなかろうか。

 

 

 もう一つ、今週気になった、というかメディアから質問を受けた「事件」がある。JICA(国際協力機構)が国内4都市をアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定した話だ。最初は、何を質問されているのかすら良く分からなかったが、どうやら「善意の」新たな構想が「善意の誤解」を生んでしまったようである。

 

早速BBCやAFPはこの「事件」を大きく報じた。木更津市が「ホームタウン」となるナイジェリア政府は、日本は「特別なビザ制度を創設する」という公式声明を発表してしまったそうだ。この関連で、SNS上では「目的は日本に移民を定住させることだ」という話が炎上し、各市には住民から苦情が殺到しているという。

 例えば、報道によれば木更津市が「アフリカ人に市を明け渡すことを真剣に検討している」という内容の投稿は、460万回以上も閲覧されたというから驚く。ちょっと考えれば、そんなこと出来る訳がないことぐらい分かりそうなものだが、世の中そんな常識は通用しないらしい。個人的には「ホームタウン」という用語が気になるのだが、今更そんなことを言っても始まらない。ネット社会とは実に恐ろしい社会である。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

8月29日 金曜日 サモアで解散総選挙

 

8月30日 土曜日 アフガニスタン駐留米軍撤退から4周年

 

8月31日 日曜日 上海協力機構首脳会議(2日間)

 

さて、最後はガザ・中東情勢だが、ガザでの停戦交渉は今週も「動きそうで動かない」状態が続いている。米中東担当特使は、トランプ氏が27日にホワイトハウスで人道支援や「戦後計画」について包括的に協議する大規模な会議を主催すると明らかにしたそうだ。また「やっているふり」発言が飛び出した。それでも、イスラエルは停戦しないだろう。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

写真)ホワイトハウスで会談するトランプ大統領と李在明大統領

(2025年8月25日 アメリカ ワシントン)

出典)Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




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