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.社会  投稿日:2025/10/28

他人事ではない日本の介護危機


福澤善文 (コンサルタント/元早稲田大学講師)

【まとめ】

・団塊世代の介護需要増大に対し、日本の介護体制はすでに不十分であり、人材の量・質ともに深刻な不足がある。
・介護職は重労働・低賃金・低評価で若者が敬遠し、人材確保には給与改善や外国人材の活用が不可欠。
・政府・担当官庁は現場を理解し、早急に介護体制の再構築と具体的な対策を講じる必要がある。

 

日本の介護に少しでも接すると、将来お世話になるわが身が非常に心配になる。介護予備軍の世代は、今のうちに根本的な問題を少しでもつぶしておかないと、将来的に大変な苦労をすることを覚悟しておかなければならない。介護の現場を身近に体験すると、誰もが自らの将来に危惧を抱くはずだ。なぜなら、日本の介護体制が、いかにお粗末かがわかるからだ。将来、必要とされる介護体制は政府の最優先課題として早急に検討の上、構築されるべきだ。

 

1947年から1949年の間に生まれた第一次ベビーブーマーたる団塊の世代は、既に全員が後期高齢者の域に達している。この世代から介護受給者が急激に増える。これから5年後、10年後には、今でさえ不十分な介護体制ではもはや対応できなくなる可能性がある。 高齢者の介護必要性の段階は一斉にではなく、徐々に上がって行く。その為、社会保障費はじわじわと増大する。

 

政府は介護保険法の後期高齢者の医療負担(1割)を改正して、一定の所得がある場合に限り2割負担とするとし、高市首相は医療、介護現場への支援を強調している。

 

しかしながら、それ以上に介護人材の量(人数)と質の両面での不足は深刻だ。日本の人口問題と同様、この介護の問題は随分前から予測されたことだった。この問題解決に取り組むべき担当官庁の人たちは実態を十分把握しているのだろうか? 

 

数年前、介護の現場視察と言って、重度の介護を自宅で受けていた義父(要介護5)を担当官庁の担当者が訪れた。数分で席を立とうとしたが。アテンドした家内がドアを閉め、30分間、半ば強制的にそこで介護作業を見学してもらった。たった30分でもオムツ交換、清拭、体位変換、痰の吸引等、やることは多々あり、他にも経管栄養や口腔ケア、着替え、入浴介助、見守りなど、それが24時間365日続くということが彼らには信じられなかったようで、その大変さに驚嘆して帰っていった。

 

関係省庁、地方政府には日本の介護のフレームワークを再構築してもらわなければならない。その為には、幹部、そして担当部署全員が日本の介護の現場を見学するだけではなく、介護職を実体験して、その大変さを理解すべきだ。民間会社に勤める人達の多くは入社したら現場を実体験させられる。その大変さは実体験により、ある程度理解できるだろう。

 

病院での介護から半ば強制的に自宅での介護を推進しようとしてきたのは政府だ。家庭での介護には不可欠な訪問介護事業所の倒産が増えている。

 

介護職は一般の仕事以上に忍耐が必要だ。仕事内容のきつさに加え、介護される側が介護者に対して、人格を否定するような暴言を吐いたり、時には暴力をふるったりする場合もある。それに対して介護職は耐えなければならない。そのような忍耐力の無い人は介護職には向かない。認知症の高齢者の繰り言に辛抱強くつきあっておられる介護職員の方々には本当に頭が下がる。

 

介護職をめざす若者は少ない。むしろ敬遠されている。介護職は長時間労働、精神的、そして身体的な負担が多いにも拘わらず、給与は非常に低い、社会的評価も低い、そして、将来を展望してのキャリアパスも不明だ。これでは人材が集まるはずはない。介護職の給与水準を上げて、若い人たちがつきたい職業にすることこそが今必要とされている。

 

介護人材を日本人に求めても集まらないのであれば、人材不足の穴埋めとして海外からの介護人材は必須だ。多くの施設で既に外国人の介護ヘルパーが働いているものの高齢の日本人の中には外国人による介護に抵抗がある人もおり、外国人の介護ヘルパーの是非について、入所者に対して個別にヒアリングして個別対応を進める施設もある。

 

しかしながら、もはやいやだと言っていられないほど、日本の介護人材は不足している。社会福祉士養成学校へ通う人は増えていると言われるが、外国人留学生が増加しているためだ。2025年度は過去最多の7,356人が入学し、そのうち55%は外国人だった。外国人の出身国は世界23ヵ国にもおよび、ネパールやミャンマー、ベトナム、中国、フィリピンなどが多い。

 

政治家や富裕層が利用する初期預託金数億円に上る超高級施設は、職員の給与水準も高く、分業制で職場環境も良いだろう。日本人の大半が将来お世話になる介護施設は、そのようなところばかりではない。仕事内容の割には、給与は低い。不動産会社、電鉄、大手教育会社、製薬会社などの運営する施設、つまり数千万の預託金を払える人々が入ることが可能な施設でさえも、人材が不足している。

 

中には、入ってみると、ネットのホームページなどでの広告とは違い、介護士は頻繁に辞め、広告に謳われていたほどの料理ができる料理人はおらず、挙句の果て、施設の責任者たる支配人も数か月ごとに代わる施設すらある。特養など更に低額で入所可能な施設での人材不足は更に深刻だ。新聞広告は勿論、施設の入り口に採用広告を掲示している施設もある。

 

このことがいかに深刻な問題なのかを政府及び関係官庁はしっかりと認識すべきで、一刻も早い対策・打開策が望まれる。  

 

トップ写真:FRA: Europe’s Aging Population

出典:Patrick Landmann by getty images




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