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.国際  投稿日:2017/11/3

仏でも介護ロボ活躍中


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・日本のドラマにも出演しているロボットは「NAO」という名でフランス生まれ。

・ロボットは介護や医療の現場で活躍し始めている。

・高齢化が進む中、開発が進む日本のロボット技術に注目集まる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトで記事をお読みください。】

 

現在日本で放映されているドラマ「ドクターX~外科医大門未知子~」で、蛭間院長の第二秘書に「ソンタ君」と言う名前でロボットが出演しています。このロボットの本当の名前はNAOといい、実はフランスでは割と顔の知れたロボットというのはご存じでしょうか?

ロボットNAOは、もともとはフランス・パリのALDEBARAN Roboticsで2006年に開発された自立型ヒューマノイドロボット。大統領府エリゼ宮でオランド前大統領に抱っこされたり、人気テレビ番組にレギュラー出演、トークショーにも招かれたりと、フランスではよく話題にされるロボットだったのです。

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写真)NAO
出典)SoftBank Robotics

しかしフランスの会社ではロボットを開発したものの十分な収益にはつながらず投資も集まらず、2012年に買収されることとなり、現在は、ソフトバンクのお店でもお馴染みのペッパーと共に日本企業のSoftBank Roboticsのロボットとして開発が続けられました。

その結果、当時のフランスの投資家に「NAOなんて何の役に立つんだ。エリート教育機関に少し売れただけ。」と言われていたにもかかわらず、現在は世界に活動の場を広げ一万体以上の販売実績を持ち、同じオペレーティング・システムNaoqiで動くペッパーの売り上げも国内だけでも2016年には54億ユーロにのぼり、2015年の3,2倍に売り上げをあげるロボットに生まれ変わったのです。

フランスでは、日本のロボットになったとしても、今年9月には、フランス・パリ15区の市役所の受付係としてNEOと共にペッパーも採用もされ、ヨーロッパでも初の市役所で働くロボットとなりました。その他にもフランスの各企業、カルフール、ルノー、SNCF、KIABI、DARTYなどのいくつかの店舗ですでに受付係としても採用されたりなど、フランスのテクノロジーで誕生したロボットとしてまだまだ好感度が高いロボットとなっています。

出典)PepperTheRobot Twitter

当時フランスで、コミュニケーションができるロボットの価値が見いだされなかった理由としては、他の欧米諸国と同様にフランスは新しい技術を積極的に取り入れようとする反面、ロボット導入に対する考え方が日本とは大きな違いがあったことがあげられます。

日本ではロボットは人間のパートナーとして位置付けているのに対して、フランスではロボットは「人間の仕事を奪う機械」と捉えられており、ロボットがコミュニケーションを取れることに利益や大きな価値を見いだせませんでした。

 

今でも、製造現場の機械化を進めるというと労働組合が反対する光景がよく繰り返されていますが、失業率も10%前後、一度職を失えば再就職が難しいフランスで、ロボットがさらに知能を持てば、もっともっと人の職を奪うようになると恐れられても仕方がありません。

それに対して日本では、鉄腕アトムなどのアニメを見て育った世代を始め、ロボットに対してポジティブな感情を抱いていることや、何よりも経済発展のスピードに対して人手不足であったため、製造現場でのロボット化が進んでいったのにもかかわらず、ベテラン技術者が大切にされている土壌があり、うまく共存してきたのです。

「日本は世界一ロボット化が進んでいる国だが、失業率は低く、ロボットを導入しても従業員は解雇されない。」

と、フランスで日本のロボット導入状況について解説されるのは、そう言った背景があるからと言えます。

そんなフランスの状況下でも、少しずつですがいくつかのロボットたちは人々から受け入れらるポジションを構築してきました。

例えば高齢者介護施設では、ギネスブックにも載っているアザラシ型のロボット「パロ」が利用されているのは知られています。「ストレスおよび不安のレベルを低下させ、痴呆の高齢者のための向精神薬および鎮痛薬の使用を減少させた」(注1)など、すでに複数の国での研究結果が出ており、フランスでも、ロワールオート=ロワール県の11件の施設において、2016年9月から18カ月間かけて、使用効果についての研究もおこなわれている最中でもあります。(注2)

 

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写真)アザラシ型ロボット パオ
出典)国立研究開発法人産業技術総合研究所

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写真)介護老人保健施設でのロボット・セラピー

このように徐々にロボットが身近にいる環境に慣れはじめた現在では、高齢者介護施設へのロボットのさらなる活用も考えられるようになったという変化もおきています。フランスも他の先進国に劣らず高齢化の問題があり、しかも、高齢者介護施設は、低賃金でありながら重労働で常に人手不足に悩まされている分野でもあります。そのためフランスでは、高齢化が進んだ日本がどのように問題を解決しているのかについても注目しはじめています。

「日本は少子高齢化なのにもかかわらず、大規模な移民政策もしないため人材不足に悩まされている状況であるが、その苦難をハイテク機器やロボットを活用して運営する姿は、高齢化社会の未来の医療のお手本になる」(注3)

出典)国立研究開発法人産業技術総合研究所

このロボット「パロ」は、自閉症の子供達とのコミュニケーショントレーニングに使用されていたり、糖尿病の子供達が積極的に病院に来る為に採用されたりしてきました。大人だけではつかめない子供の心のケアをロボットに補ってもらい、治療をスムーズに進めていく目的のために使用されています。

また、高齢者介護施設においてもパリ近郊のイシー=レ=ムリノーと言う町の施設が、フランスで最初にエクササイズのトレーナーとしてロボットが取り入れられ、現在では複数の施設で活躍しはじめたところ。目新しいものが楽しいと言う面もありますが、人と人では解消しきれない感情の摩擦もロボットとなら起こることもなく、素直にトレーニングに取り込めるという効用や、介護職員の負担軽減にも貢献が認められてきています。

 

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写真)HAL®腰タイプ介護支援用
出典)CYBERDYNE

人の仕事を奪う以前に人手が足りない介護関係などは、少ない人数でより多くの仕事をこなすための補助ロボットが受け入れやすい土壌があり、ロボットの制御技術を活用して介護職員の腰痛を防止するという「ハイテクウエア」を始め、移乗介助、排泄支援、認知症の方の見守り、移動支援、介護業務支援、など、人間の補助としてロボット技術が活躍できる場面が多いのも事実です。高齢化の世界最先端を走る日本。ロボットには高齢化という「危機」を「チャンス」 に変えて行く可能性が秘められているのかもしれません。

先日、香港に本拠を置くHanson Roboticsが作り出したロボット「ソフィア」が、ロボットで初めて市民権を得て話題になりましたが、ソフィアの開発者デイビッド・ハンソンも、ロボットは介護施設での高齢者のケアや、公園やイベントでの来場者の案内などで活躍することに言及しているのも偶然ではないでしょう。

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写真)ロボット「ソフィア」
flickr: ITU Pictures

2018年には、かわいい小さなロボットの先駆けになったソニーの犬型ロボットAIBOが復活するという噂もあります。(注4)何気に見かけるこういったかわいいロボットたちは、実は未来の日本と世界をつなぐ大きな役割をはたしている。フランスでのロボットの流れをみているとそう思わずにいられません。

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写真)ソニー自律型エンタテインメントロボット“aibo”(アイボ)
出典)SONY

11月29日からはビックサイトで「国際ロボット展」も始まります。今後のロボット技術の発展に期待したいところです。

(注1)http://www.phoque-paro.fr/phoque-paro-2/etudes-cliniques/
(注2)http://www.senioractu.com/Maison-de-retraite-une-grande-etude-sur-Paro-le-petit-robot_a19524.html
(注3)http://www.allodocteurs.fr/maladies/seniors/maison-de-retraite/robotique-medicale-au-japon-c-est-deja-demain_22522.html

(注4)Sonyは11月1日にaiboを発売する発表。発売開始は2018年1月。

写真)ロボット「NAO」

出典)Softbank Robotics

 


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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