外国人優遇生活保護SNSサイトに、厚労省が「正確に発信したい」

渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
【まとめ】
・「日本人ファースト」を掲げる参政党の躍進を背景に、SNSで「外国人の生活保護は違法」などの意見が拡散。
・人口減少が進む日本では、労働力として外国人の受け入れと共生社会の構築が不可欠。
・生活保護は憲法に基づく「最後のセーフティネット」。今後、政府は入管、雇用、社会保障など、多角的に法制度を整備する必要あり。
外国人優遇SNS発信で議論沸騰
「外国人の生活保護は違法」「外国人は社会保障で優遇されている」「日本人より簡単に医療扶助を受給できる」「支給停止にすべきだ」などという意見や情報が交流サイト(SNS)などに発信されている。
厚労省によると、生活保護受給の対象となる外国人は、永住者やその配偶者、日本人の配偶者など在留資格がある人で、難民と認定された人も含まれる。日本で適法に永住している外国人は人道的な観点から、国民に準じて自治体の行政措置裁量で受給できる。留学や就労に制限がある在留資格の場合は原則、生活保護の対象にならない。戦後の法制度が現在に至る。分かり易い丁寧な説明が必要だろう。
日本は外国のような移民政策を取っていない。難民認定も厳しい。近年、労働力不足から技能実習生や就労許可者など日本で働く外国人を多く受け入れ、367万人余(人口動態調査)で過去最多。日本人より目立つので、身近なトラブルや犯罪事件も多く報道されている。支払い義務者の税金、社会保険料未納付や不法な受給、違法犯罪行為は日本人ともども、厳しい取り締まりが必要なことは、言うまでもない。
日本人ファースト
今回のポイントは、「日本人ファースト」を公約に掲げた参政党が、参院選で14議席と大幅に増やして躍進したこと。参政党は、党議員・関係者の国家観、歴史認識や「核武装は安上がり」発言などを批判する人が多いが、「行き過ぎた」外国人の受け入れや、外国人優遇問題に同調した、特に若い人の支持を受けたことが背景にある。「自分たちは社会保険料や消費税に苦しんでいるのに、外国人は生活保護などの恩恵を受けて優遇されている」。また「ファースト」の裏返しとして、日本人がおろそかにされているメッセージと、受け止めた支持者もいたのではないか、との分析がされている。
筆者の接する若い人の中にも同調者が少なからずいる。あえて申せば、私も含めて外国人の置かれた生活環境、困窮者救済行政の歴史や現状認識の知識が広く行き渡っていない。もっとオープンに議論すべきだろう。
日本人ファーストはおかしくはないが、ヘイトスピーチ、誤った知識からの優遇批判、理不尽な排斥運動になると別問題だ。これにはどの政党も賛同できないだろう。人口減少で業種によっては、労働力不足を補う外国人の受け入れ機会は今後も増すだろう。共生社会、コミュニティの構築が、これまで以上に必要になる。
厚生労働省が「正確に情報発信したい」
8月27日、厚生労働省は生活保護費のうち、外国人の生活保受給世帯の公的医療費に該当する「医療扶助」の調査結果を発表した。以下のようになる。
<外国人が世帯主の医療扶助受給世帯は一人当たり月額5万9325円で、日本人の世帯主も含めた保護世帯全体の7万9830円を下回った。外国人受給者は平均年令が低いため、支給額は約2万円下回り、外国人受給世帯の人数は6万3547人で、生活保護世帯全体の3%に当たる>(毎日新聞記事の要約)厚労省は「正確に情報発信したい」との意向から、参院選後の、この時期に調査結果のデータを公表している。
生活保護は生活困窮者の最後のセーフティネット
社会保障制度の中で、生活困窮者を対象にした最後のセーフティネットと言われる生活保護制度だが、「最低限度の生活を保障する」憲法25条に基づいている。国が責任を持つ法定受託事務として財源が100%公費(4分の三が国費、4分の一が地方=交付税)で賄われている。
国の事業だが、相談業務などは地方自治体の自治事務で、実際に資格者の審査や適格性の事務も自治体や福祉事務所が有識者の協議会などを経て決める。申請主義で世帯単位。保護の対象であるかどうか、を選別するための資力調査(ミーンズテスト)がある。扶養義務者である配偶者や子供、両親、兄弟姉妹祖父母孫などからの援助、年金などの給付も受け、それでも最低限度の生活が出来ない場合、原則自立できるまでの期間、生活費を補完する支援として適用される。
医療扶助は生活保護受給者の8割が受給、総額の5割を占める
今回問題になっている医療扶助は、次のような扶助の8種類の一つ。生活保護者は医療保険に入っていないため、医療機関に負担分が支払われる。
生活扶助=食費・被服費・光熱費など、住宅扶助=アパートなどの家賃、教育扶助=義務教育を受けるための必要な学用品などのほか、「医療扶助」=医療サービス、介護扶助=介護サービス(介護保険加入)などがある。
生活保護で外国人在住者の医療扶助の問題とともに、注目されるのは受給者の半分以上が高齢者。受給者の8割が医療扶助を受け、支給額の半分を占める。その多くが入院費用である。背景には近年の高齢化による低年金の単身高齢者の増加がある。これは最低保障年金制度創設議論とも関連する。ほかにシングルマザー家庭、非正規の若年労働者も受給し始めた傾向がうかがえる。データからは生活扶助での贅沢批判は当たらない。
不正受給は、統計上は微細だが、悪質なものが報道されると批判にさらされやすい。頑張って自立している人からの税金も使われているので、非難されるのももっともだ。もちろん外国人も、日本人も不正受給は厳しく糾弾されるべきだ。
困窮外国人は一般国民に準じて保護を行うと、旧厚生省通知
戦後の生活保護は1946年、旧生活保護法の制定(それまでは1929年制定の救護法、不服申し立て権なし)だったが、現在は1950年、新生活保護法で定められている。
生活保護法第一条によると「この法律は日本国憲法25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」とある。
戦前の日本の植民地支配による影響で、サンフランシスコ講和以後も日本に定住した、主に在日韓国、朝鮮籍などの人たちが低年金などで生活が困窮した。旧厚生省は1954年の局長通知で、「生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取り扱いに準じて必要と認める保護を行うこと」とし、人道的観点から保護を実施してきた。政府は「違法ではない」という解釈は当然のこととして現在も、「見直す状況にない」としている。
2014年の最高裁判決で、生活保護法第1条の「すべての国民に」という国籍条項で、「外国人は生活保護法に基づく受給権を持たない」との判断が示されたが、「行政措置による事実上の保護の対象となり得るにとどまる」とも言及している。通知による行政措置で、保護の支給を否定していない。
新しい時代とともに生活保護をめぐる論争や訴訟も展開される
生活保護法が施行された1950年当初、受給者は自転車やミシンも持てなかった。50年代に登場した「三種の神器」の冷蔵庫、テレビ、洗濯機も長年、認められなかった。
また自動車は障害者の通勤、通院等に必要な場合等には保有を認められることがある。豪雪地域の病院通いのための自動車所有など個別の事例はケースバイケース。その他、両親との同居、住宅ローン、エアコン設備、大学進学等が論争になっている。各地域の自治体や福祉事務所との協議が必要になる。かつて、物価の値下がりを理由に生活保護費の10%切り下げが行われた。デフレ調整と言われるが、厚労省が専門部会に諮っていなかったとして最高裁の違法判決が出ている。今後の取り扱いが協議されている。
神谷宗幣・参政党代表が参院選で日本人ファーストを掲げたのをきっかけに、外国人の医療扶助費の問題がクローズアップされ、外国人の受け入れ問題、生活保護を含む社会保障の問題点や課題が有権者の前に提示された。繰り返しになるが、人口減少と下請け製造・建設業や農作業、介護福祉事業など業種によっては極端な労働力不足の日本社会で、外国人の受け入れや、共生するコミュニティの構築は不可欠になる。これを機会に政権与党も幅広い観点から、入管、雇用、生活環境、社会保障など省庁や政治行政の枠を超え、新しい時代における具体的な法制度の整備に乗り出す時期に来ているのではないか。
(続く)
トップ写真)高齢者を診察する男性医師(イメージ)
出典)gettyimages
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この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授
東北公益文科大学名誉教授。
早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公
益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。
定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現
在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。
著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い
患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=
以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。

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