無料会員募集中
.社会  投稿日:2025/11/20

日光霧降高原で思い出した旧郵政、旧厚生省の杜撰さ


福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)

【まとめ】

・日光では欧州、ロシアをはじめとする海外からの観光客が急増し、観光スポットやバスの混雑が生まれ、地元住民の生活に影響を及ぼしている。

・世界的な建築家、ロバート・ヴェンチューリ設計のホテルは、旧郵政省が210億円で建設したにもかかわらず、わずか10年後に6.3億円で売却された失敗事例。

・国民の資金を使った公的事業の失敗と、その巨額の損失が国民負担となった経緯を風化させてはならない。

 

海外からの観光客の増加が止まらない。日本政府観光局(JNTO)の調べでは、今年の1月~9月の海外からの訪日客数は前年同期比で+17.7%で、特に中国からの訪日客数は+42.7%だった。

中国外務省が先ごろ、自国民へ日本への渡航自粛を呼びかけ、中国東方航空、中国南方航空、中国国際航空の中国の大手航空3社もそれに対応して、日本行きの航空便のキャンセルや変更手続きに無料で対応するとの公告を出したことから、これから中国からの訪日客数の減少が予想される。

 

筆者が最近訪れた日光もご多分に漏れず、海外からの観光客でごった返していた。日光東照宮、華厳の滝といった観光スポットには日本人旅行者の居場所がないほど、外国人観光客が押し寄せていた。たまたまなのか、海外からの観光客といっても、中国人の観光客はまばらで、ほとんどが欧州からだった。
それも英語が聞こえてこず、驚いたことにロシア語が聞こえてきた。ロシアと言えば、現在、ウクライナと戦争中だが、日本へ観光に来る人達のバックグラウンドにふと興味を持ってしまった。バスに乗っても外国からの観光客で満員、乗るのも降りるのもひと苦労だ。日常的にバスを利用する地元の人たちにはさぞかし迷惑だろう。バス内の外国からの観光客は車内の英語のアナウンスもわかっていないようだった。

 

今回、筆者は日光の観光スポットや秋の紅葉を見るためだけではなく、アメリカの世界的な建築家、Robert Venturi (1925-2018)が設計した建物を見るために日光霧降高原へ足を延ばした。Venturi と言えば、米国、欧州で数々の建築作品を残し、1991年には建築界のノーベル賞といわれるPritzker Architecture Prizeを受賞した世界的に有名な建築家だ。そのVenturiが日本に唯一残した作品が日光霧降高原にあることを知る人は多くない。Venturi1997年に日本の旧郵政省による依頼でメルモンテ日光霧降リゾートを設計した。このリゾートは、現在はGENSEN HOLDINGS(前・大江戸温泉物語株式会社)が保有し、運営する『TAOYA日光霧降』と名前を変えている。インテリアの一部はVenturiのオリジナルに買収会社が手を加えて変わっているようだが、他のホテルなどとは違ったポストモダンなデザインとVenturiのオリジナリティーを感じられ、一見の価値は十分あった。ホテル内には同リゾート全体のミニチュアモデルがあったが、そこにはどういうわけかVenturi の名前が刻まれておらず、残念に思った。

民営化前の旧郵政省は、郵便貯金や簡易保険の利用者を対象にした施設を建設、運営してきた。しかし200710月の郵政事業の民営化の見直し、採算性の悪化から、これらの福祉施設やその他不動産は迅速に処分されることとなった。このメルモンテ日光霧降リゾートの売却もその一環だった。しかしながら、210億円もの巨額の投資を行い、1997年にオープンさせたものを、わずか10年後の2007年にたった6.3億円で売却した。
その他、郵政省が保有していた数多くの施設売却について、当時は政治問題化しつつあったが、郵政民営化のうねりの中で議論は立ち消えとなった。今回、この世界的な建築家の日光霧降リゾートという作品に感激する一方で、郵便貯金、保険の利用者のお金を使って数多くの施設を作ったものの、経営できず、失敗し、二束三文でそれらを処分した旧郵政省、そしてそれを許した政治を思い出した。損失のつけは結局、国、つまり国民の負担となったわけだ。同じように、年金保険料を使ってグリーンピア、ウェルサンピアなどの福祉施設に巨額の投資をし、結局は二束三文で売却して損失を計上した結果、年金積立金をも減少させた厚生行政についても記憶が蘇った。2005年ごろに、その建設、維持のための年金財政からの総支出額が約3,800億円にも上ったグリーンピア(13か所)をたったの約48億円で売却したのには驚かされたものだ。

 

せっかくVenturiの日本唯一の作品に接することができ、しかもまだオーバーツーリズムの波をかぶってない日光霧降高原を楽しむつもりが、旧郵政省、旧厚生省がむやみに福祉施設を建設し、経営の失敗を結局は国民に負わせた事例を思い出す羽目になった。
しかしながら、一方で「これらの事例は風化させてはいけない。」という思いも強くなった。そもそも民間が投資を検討する際には、事前に可能性調査を行い、損失の可能性がある場合には実行しない。もし実行して損失を出した場合、投資責任者には株主に対する説明責任がある。しかしながら、日本政府が実施し、失敗した事業については、当局から国民への説明は、ないに等しい。
            

トップ写真)輪王寺の鳥居の前に立つ人々

栃木県ー日光市
出典)gettyimages

 




この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師

1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。


過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。

福澤善文

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."