日本の地方都市にも押し寄せる中国人

福澤善文 (コンサルタント/元早稲田大学講師)
【まとめ】
・福岡でも外国人観光客が増え、住民の生活に変化が生じるている。
・中国政府が国民に反日を吹き込むも、来日中国人は増加。
・日本はオーバーツーリズムの具体的方策やビザ等に関する法律改定の準備不足。
先日福岡へ行って、天神の雑踏を歩いていると、すれ違う人々の多くから中国語が聞こえてきた。寿司屋のカウンターに座ると周りは中国からの観光客だ。しかもメニューには中国語と韓国語の説明が大きく掲載されていた。つい数年前までは、ホテルもレストランも客のほとんどが日本人だった福岡だが、かつて日本人ビジネスマンが出張で利用していたホテルの中には、今や中国人、韓国人専用のホテルと化しているところすらある。日本人が列を作っていた寿司屋も、今や「あそこは中国人観光客でいっぱい」と日本人が行かなくなっていると聞く。天神の、かつて夜は閑散としていた交差点近くには、夜になると屋台が出現する。そこでは、屋台の中で飲み食いするのも、外で列を作って席が空くのを待っているのも中国人、韓国人の観光客が多い。
福岡の屋台風景も変わった。日本人の出張者は今まで滞在していたホテルを選べなくなり、住民はレストランへ行く際になじみのところに行けなくなっているそうだ。外国からの観光客が増えて収入が増えるホテルやレストランはほくほくだろうが、生活に変化が生じる住民にとっては喜ばしいことではないだろう。東京で起こっていることが福岡でも起きている。
中国では反日教育に加え、最近では抗日戦争勝利記念日での戦勝パレードや旧日本軍《731部隊》題材の映画が公開され、中国全体が反日の様相だが、日本を訪れる中国の人々からは、一部を除いて、そのような印象は感じられない。セキュリティー面から中国への観光旅行をためらう日本人は多いのに、中国から日本へ来る人は多い。日本への中国人観光客はまだまだ増え続けるだろうし、中には複数回、観光で来日する人も多い。政府が国民に反日を吹き込んでいるのに、来日する中国人が多いのは不思議だ。これまでMade in Chinaの安価な製品が日本の市場に溢れていたが、今や、中国の人々で日本は溢れている。その溢れ方たるや普通の観光客に加えて、留学生、それも大学のみならず、低学年にまで及ぶ。そして、日本への移住を狙っての経営管理ビザ取得者なども増えてきた。日本政府もやっと重い腰を上げ、この10月から経営管理ビザ取得、そして、外国免許の日本免許への切替えの要件を厳格化した。
1972年9月に日中共同声明が調印され、日本と中華人民共和国の国交が結ばれ、日本が中国の経済進展のための援助-つまり日本の対中援助-、いわゆる対中ODAが始まったのはほんの半世紀前の1979年だ。この援助は2022年3月まで続いた。そもそもこの対中ODAは改革開放を宣言した中国政府が1979年に日本政府へ円借款を要請したもので、その間、円借款は総額3兆3165億円、無償資金協力は総額1576億円、技術協力は1858億円に上った。円借款は超低利、超長期での円の貸付で、1979年から第一次(1979~84)、第二次(1984~89)、第三次(1990~1995)、第四次(1996~2000)に分けて行われた。貸付対象のプロジェクトは中国側からの提案をもとに日本政府の了承で決まった。円借款の最終返済は2047年で、これで対中国ODAは完結する。
筆者の中国との関わりは、勤務先の銀行が中国金融セミナーを開催した1982年から始まった。人民服姿の中国政府の代表団を招いて、専門家による金融、産業についての講義をアレンジし、工場見学、そして奈良、京都への観光アテンドを行ったことがほんの昨日のことのようだ。
中国の地を初めて踏んだのは1989年だった。ちょうど第三次円借款が発表され、北京から福州へ飛び、沿岸部を視察し、それから内陸部へと向かった。行く先々で省の上層部によるプロジェクトの紹介、そして宴会が続いた。日本からの援助が求められた時代だ。汽車の窓からは洞穴に居住する人たちの姿や、町では夜になると家から寝るために通りに出され、朝になると引っ込められるベッドを目にし、驚いたものだ。それから35年経ち、中国の近代化は進み、人々の生活のレベルも格段に上がった。
来日する外国人の数が増加するにつれて、特に中国人に対する日本人の感情の悪化が伝えられている。これは観光客を増やすだけ増やして、オーバーツーリズムになった場合の具体的な方策を事前に準備してこなかったこと、そして、経営管理ビザや外国免許切替などについて問題化する前に法律を改定してこなかった点で日本側にも大きな責任がある。経営管理ビザや外国免許切替には、日本政府はやっと動き始めたが、その他にも、中国では外国人に対して土地取得を認めないのに、逆に日本では中国人に認めているようなアンフェアな事象が多々ある。これらを政府が根本的に正さないと問題は解決しない。
トップ写真:海外旅行者で賑わう博多の風景(2019年4月)




























