無料会員募集中
.国際,.政治  投稿日:2025/11/28

ニュースは「インフルエンサー」から?変わる行政・政治・報道の関係と「世代交代」の波


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#46

2025年11月24-30日

 

【まとめ】

・日本国内の「世代交代」が特に行政、政治と報道関係より感じられる。

・米国人の21%はニュースを「ニュース・インフルエンサー」から得ているそう。

・イラン核開発疑惑の続報、米大統領が「完全に破壊した」はずの高濃縮度ウランは今どこに?

 

 今週も「存立危機事態」に関する高市首相答弁をめぐる問題でメディアからのコメント依頼が続いた。「一年もすれば『合意しないことで合意』する」のだから、今は少し静観し、議論をより重要な内政、特に経済問題に集中すべきではないか。とは思うのだが、どうも日本メディアの付和雷同型「同調志向」は昔と変わっていないようだ。

昔といえば、今週筆者が強く感じたことは、日本国内の「世代交代」の流れである。特に、昨晩はそのことを痛感させられた。まず、夕刻、1980年代の筆者外相秘書官時代の各省大臣秘書官たちの集まりに参加した。当時各省の働き盛りだった大秘書官たちも今や年齢は平均で「喜寿」となる。「古希」の筆者など今も「若輩者」なのだ。

そこで、誤解を恐れずに書くのだが、当時の官僚たちには良い意味で天下国家を論ずる「矜持」があった。責任分野は異なるものの、政治家の横暴(失礼)と戦う能力と気概があった。それが今はどうだ。「昔は良かった」とは言わぬが、行政と政治と報道の関係は大きく変わってしまったのでは?諸先輩の話を聞きながら、ふとそう考えた。

振り返ってみれば、当時はインターネットなどなく、情報は新聞雑誌TVなど、今で言う「オールドメディア」が独占していた時代だ。メディアの論調は基本的に「左」であり、中道左派的言動を繰り返す記者たちが大手を振っていた頃である。その種の報道でどれほど無駄な時間を費やしたことか?今や笑い話になりつつあるのだが・・・。

その懐かしい元秘書官方との夕食を中座した後、今度はテレビ朝日のスタジオに向かった。でも、出演を依頼されたのはオールドメディアの「●●ステーション」ではなく、あの「アベプラ」だ。「アベプラ」と聞いてピンと来ない方々のため注釈を加えれば、正式名称は「アベマ・プライム」、若者向けのネット配信型ニュース番組である。

そのコンセプトは、Wikipediaによれば、“オトナの事情をスルーしまくる、尖りまくったニュース番組”で、普段地上波テレビ番組を視聴しない若者層に向けたニュースショーであり、AbemaNewsの旗艦番組、とある。これまでも何度が出演したことはあるが、内容もスタジオの雰囲気も実にユニークなプログラムだ。

勿論、その晩のテーマは「日中関係に出口戦略はあるか?」だった。しかし、今回も痛感したのは、若い世代の出演者たちの(想像以上に)バランスのとれた「保守感覚」だった。確かに「●●ステーション」とは論調が少し違う。やはり、日本の政治社会文化で起こりつつある「世代交代」はここまで来ているのだ、と考えてしまった。

 

 最近、米国世論調査機関が「米国人がどこからニュースを得ているか」について興味深いデータを発表している。それによれば、米国人の5人に一人(21%)は、ニュースを既存の新聞雑誌TVラジオなどではなく、ネット上の「ニュース・インフルエンサー」から直接得ているのだそうだ。

しかも、この「21%」はあくまで平均で、年齢別ではゾッとする数字が出ている。ニュース・インフルエンサーからニュースを得ている割合は、年齢18-29歳で38%、30-49歳で23%、50-64歳で16%、65歳以上では僅か8%、というのだ。こうした数字、恐らく日本でもあまり大きく変わらないのではないか。要するに、政治の世界でも、世代交代は世界規模で進んでいるようなのだ。

 

 さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

11月25日 火曜日 親ウクライナ諸国グループの指導者がテレビ会議

EU・アフリカ連合首脳会議(2日間、アンゴラ)

11月27日 木曜日 集団安全保障条約機構首脳会議(キルギス)

Stヴィンセントとグレナダで議会選挙

11月28日 金曜日 国際刑事裁判所、ドュテルテ前フィリピン大統領の上告審で判決

11月30日 日曜日 ホンドュラスで総選挙

キルギスタンで議会選挙

12月1日 月曜日 セントルシアで総選挙

 

 最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザでは今も「戦争でも平和でもない」状態が続いている。そんな中、今週筆者が気になったのは、イランの核開発疑惑の続報だ。米大統領が「完全に破壊した」はずの高濃縮度ウランは今どこにあるのか?地下深くで埋もれたままか、それとも米国の攻撃前に運び出し、どこかに隠匿されているのか。報道によれば原爆10発分以上との噂もある。しかし、現在はIAEAの査察もなく、新たな核合意もなく、対イラン制裁が再発動され、イランは沈黙を守っている。こうなれば、将来を読むのは決して難しくないだろう。

イスラエルはほぼ間違いなく、イランの核関連施設を、新たな未公表の施設も含め、再び攻撃するだろう。しかも、今回はイランが自制するかどうかは分からない。米イスラエルとイランの緊張は、これまで以上に海図のない水域に入っていくだろう。双方の攻撃がエスカレートすれば、湾岸地域全体が戦闘区域となる悪夢も否定できない。うーん、それが分かっていても、紛争再勃発を止める手段は分からない。今確実なことは、イスラエルもイランもそのための軍事的手段・計画について最終調整を終えつつある可能性がある、ということだけ。あな、恐ろしや!今週はこのくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:イメージ

出典:iStock / Getty Images Plus

 




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."