「18歳選挙権」施行から10年:若者は“有権者”になれたか
執筆者:Japan In-depth編集部 小宮山葵
【本稿のポイント】
・18歳選挙権は、少子高齢化で相対的に影響力が低下していた若年層の声を政治に反映させる目的で導入された。
・導入されて10年経ったが、若者の投票率は上がっていない。
・近年の選挙では、若者や現役世代向け政策を掲げる政党への支持が拡大する一方、実際の投票行動には十分結びついていない。
・当事者の声から、次の10年に向けた課題を探る。
2015年6月、公職選挙法が改正され、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上へ引き下げられた。施行から10年を迎えた今、若者の投票率は上がったのか。制度は何を変え、何を変えられなかったのか。施行時に18歳の当事者だった国民民主党・川上竜世氏と、今年2月の第51回衆議院議員選挙で初めて投票した現在18歳の長谷川さん(仮名)への取材をもとに、『18歳選挙権当事者』の声を交えながら検討する。(Japan In-depth編集部)
●改正の意義
選挙は、国民の声を政治や国家運営に反映させる、民主主義の根幹を支える営みである。その選挙に投票する権利が「選挙権」であり、引き下げの背景には、若者の政治参加の推進という狙いがあった。
少子高齢化が進み、有権者に占める絶対数としての高齢者比率の大きさについて「シルバー民主主義」と揶揄されるほど、若年層の声は長らく政治からこぼれ落ちてきた。より多くの若年層の声を政治に反映させるため、選挙権年齢が引き下げられたという経緯がある。
本記事執筆にあたり、10年前の施行当初、当事者であった国民民主党の川上竜世氏、東京都内の高校に通い、今年2月の衆院選で初めて投票を行った現在18歳の長谷川さん(仮名)にお話を伺った。
両当事者は、初めて投票に赴いた際の経験を、以下のように説明してくれた。
川上氏:私は幼少期から政治への関心が高かったため、「政治に参加できる」と心を踊らせながら選挙に行った記憶があります。自分の1票で社会に関われるという実感は大きく、その原体験が今の政治への関心や挑戦のきっかけになっていると言えます。
長谷川さん(仮名):自分自身の一票が世の中を変えるとまではいかなくとも、自分の理想を表現できる貴重な体験だと強く感じました。
両当事者の認識は前向きだった一方で、川上氏は以下のように続けた。
川上氏:しかし、私の周りの同世代の間では、さほど話題にも上がらず、選挙権が引き下げられたことによって政治への関心が上がったのは一部なのかと思った次第です。
●制度は若者の政治参加を変えたのか
では、10年で何が変わったのか。総務省が公表する年代別投票率の推移(下図)を見ると、18歳選挙権が施行された2016年の参院選では10代の投票率は46.78%と高かったものの、その後急落。直近の2024年衆院選では39.43%、2022年参院選では35.42%と、緩やかな回復傾向は見られるものの、全年代平均(53〜54%台)との差は依然として大きく縮まっていない。


出典:総務省「年代別投票率の推移について」
これを検討する上で考慮しなければならないのが、投票行動のみをもって「若者の政治参加」を定義することへの疑問である。投票率以外に重要な姿勢を、当事者である長谷川さん(仮名)は以下のように提言してくれた。
長谷川さん(仮名):政治に関するニュースなどの情報を収集し、家族や友達と意見交換をしていくことも政治参加の一つと捉えられると思います。とにかく政治について考え、触れる機会を増やすことが重要だと考えました。
昨今の選挙を鑑みると、投票率は依然として高いとは言えない一方で、若者や現役世代への政策を打ち出す政党が着々と支持を広げている。2025年夏の参議院議員選挙では、国民民主党が、現役世代から「手取りを増やす」ことを掲げ、改選前4議席から17議席まで伸ばすなど、躍進を遂げた代表例と言えるだろう。この非対称性が生まれる要因を、国民民主党からの出馬を経験した川上氏は、以下のように分析する。
「主権者教育と投票のハードルの高さ・被選挙権の年齢・政治と社会への絶望」これが非対称性を生み出している大きな要因だと思います。
①主権者教育
「若い時に関心がなくても、結婚・子育て・介護など経験を積むほど、政治でしか変えられないことが多くあるということに気づくものと考えます。こうした当事者経験を積まなくても政治に参画する意識づけを教育の場で行わなければ、若者の投票率は上がりません。」
②投票ハードルの高さ
「スマホとマイナンバーカードでオンライン投票できれば、それだけで若者の投票率はグッと上がるかと思います。地方から上京して1人暮らしをしている若者や単身赴任している方は、住民票は実家に置いたままという方が非常に多く、帰省して投票するか不在者投票しか手段がない。オンライン投票はどの側面から見ても投票率が上がる鍵です。」
③被選挙権年齢
「18歳で投票できるようになっても同年代が選挙に出られなければ、政治への関心は高まらないということです。選挙権が18歳、各級選挙で被選挙権は25歳と30歳となっています。この年齢差は政治に参加する入り口への大きな段差を生んでしまっています。被選挙権が引き下がり、もっと若者が政治に参加できれば、政治への関心もより高まり、若者の投票率も上がります。」
④政治と社会への絶望
「『選挙に行っても変わらない』という思考の根底にある、一番根が深い問題だと思います。結婚したくてもできない若者、子供が欲しいけど収入面や公的支援の少なさから諦める世帯、どれだけ頑張って働いても社会保険料や税金を取られジリ貧な現役世代。103万円の壁が動いたりガソリン減税が達成され、1票で生活が良くなる実感をこの1年半余りで味わっていただけたと思います。もっと現役世代に根差した政策を実現することが、この絶望を希望に変える唯一の手段です。」
●今後の争点
川上氏の示唆に加え、情報環境の変化への対応についても、争点として提示したい。
今年2月の衆院選では、自民党高市首相のYouTube動画の再生回数が議論を呼んだことが記憶に新しい。SNSによって若者の政治参加へのハードルが下がったというメリットがある反面、アルゴリズムによる情報の偏りや、誤情報の拡散などの問題も指摘されている。長谷川さん(仮名)は、自身や周囲の意思決定について振り返り、以下のように述べた。
長谷川さん(仮名):「現在はSNSを使ったアピールで有名になる立候補者もいるので、(政治が)身近なものになっていると考えている人が多いと感じます。政治家を推すという『推し活文化』も最近は存在しています。
政治家に会いに行くという行動のために演説を聞きに行く人が増えてしまうと、実際に公約の内容を真剣に聞きたい人への迷惑となってしまう可能性があると思うので、軽い考えになってしまう人が出てくるのはよくないと思います。」
「推し活選挙」が、これまで投票に出向かなかった層へのリーチに繋がった効果は大きい反面、政治的論点の不透明化は防がなければならない課題である。SNSでのイメージ戦略について物議を醸した2024年兵庫県知事選や、他候補者への誹謗中傷など、有権者の行動が多様化することは、候補者側の政治活動における新たな問題を顕在化させることにもつながる。若者の政治参加を推進するのであれば、民主主義の基盤としての投票行動、その根幹である情報基盤が及ぼす影響を鑑み、「情報の質」の担保や健全化についても、更なる議論がなされるべきだ。
●当事者は今、何を語る
最後に、10年前と今日の両当事者へ、全く同じ質問を投げかけた。
「10年前に制度を作った立法府に対し、『18歳選挙権当事者』として伝えたいことは何か。」
川上氏:私自身、ちょうど18歳でその1票を手にしました。あの時の高揚感は今でも覚えています。だからこそ思うのは若者が政治に参加できるようにするだけではなく、参加し続けられる社会を作ることまでが立法府の責任だと思います。10年前の決断には敬意を持ちながら、その先をどう作るかが、今後問われていくと思います。
長谷川さん(仮名):制度を導入してくれたこと自体には意義を感じているが、有権者になるに向けての教育をもっと整備してくださるとありがたいです。人によっては面倒くさいなどと意義を見出せていない人もいると思うので、そのような人に向けて政治参加することへのメリットを全面に見せることが大切だと思います。それを経て、更に質の高い制度になれば良いなと感じています。
18歳選挙権の導入から10年。これは一つの到達点であると同時に、通過点に過ぎない。制度によって「参加の機会」は広がったが、それを「継続的な政治参加」へとつなげるには、なお多くの課題が残されている。今後も、制度設計を含めた熟議を重ねながら、そのあり方を問い続けていく必要がある。
●取材対象者について
本記事は「18歳選挙権当事者」の率直な意見を取材対象としたため、施行時18歳だった当事者として川上竜世氏、施行から10年となる今年2月の衆議院選挙にて、18歳選挙権当事者として初投票を行った現役高校生の長谷川さん(仮名)へ取材を行った。
取材対象者
1人目:川上竜世氏
生年月日:1997年12月23日
選挙区:東京都第30区(51回衆議院議員選挙にて出馬し落選)
所属:国民民主党
職業:会社役員
2人目:長谷川さん(仮名)
職業:都内の高校に通う3年生
時期と方式
3月下旬〜4月初旬にかけて
文書にてアンケート実施。
●FAQ
Q1. なぜ選挙権年齢は18歳に引き下げられたのか?
A. 少子高齢化の中で、相対的に影響力が弱まっている若年層の声を政治に反映させるため。いわゆる「シルバー民主主義」への対応として、若者の政治参加を促す狙いがあった。
Q2. 18歳選挙権は若者の政治参加を実際に広げたのか?
A. 一定の意識変化は見られるものの、投票率は依然として高いとは言えない。一方で、若者向け政策を掲げる政党への支持は拡大しており、「関心はあるが投票には至らない」という非対称性が見られる。
Q3. 想定される今後の争点は?
A.主権者教育の充実、被選挙権の見直し、政治への不信・無力感の払拭の3点が挙げられる。
Q4.若者の政治参加が進まない心理的ハードルとして、考えられることは?
A.「政治で変わる実感」の欠如である。
制度や機会が整っていても、「投票しても何も変わらない」という認識が根強ければ行動にはつながらない。政策によって生活が変化したという実感を可視化することが、参加拡大の前提となる。
トップ写真)2016年7月10日、参議院選挙の投票所で投票を行う18歳女性
出典)Buddhika Weerasinghe by Getty Images




























