「ホルムズ危機、日本のエネルギー調達は持つのか」──渡部恒雄・笹川平和財団上席フェローに聞く
【本稿のポイント】
・2026年1月末時点の石油備蓄は248日分。政府は3月16日から民間備蓄、26日から国家備蓄原油の放出を開始した。
・ホルムズ経由LNG(年400万トン)の代替は、柏崎刈羽6号機再稼働と石炭火力稼働拡大で年間約160万トン分を補填。
・米国のトランプ大統領は短期成果を優先し戦略性に欠ける。EU・米国の政策動向も踏まえ、日本の電源構成の見直しが問われている。
・エネルギー自給率向上に向けて、原発再稼働・SMR・核融合への投資判断が問われる局面。
2026年2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃から約2か月。ホルムズ海峡は事実上の封鎖が続き、原油輸入の中東依存度95.1%の日本は戦後最大級のエネルギー安全保障の試練に立つ。笹川平和財団上席フェローで日米関係の第一人者である渡部恒雄氏に、編集長安倍宏行が有事における日本のエネルギー戦略について聞いた。(Japan In-depth編集長)
■ 備蓄248日分──政府の「大丈夫」の射程
まず、日本の手元にある備えを確認する。資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」によれば、2026年1月末時点の石油備蓄日数は248日分。内訳は国家備蓄146日、民間備蓄96日、産油国共同備蓄6日である。
政府は3月16日から民間備蓄15日分、3月26日から国家備蓄原油の当面1か月分と産油国共同備蓄約6日分の放出を順次開始した(経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」2026年3月31日)。赤澤経済産業大臣は、G7エネルギー大臣会合やIEAビロル事務局長との議論を通じ、IEA史上最大規模となる合計4億バレル超の協調放出を実現している。
数字だけを見れば、短期的な備えは整っているように見える。しかし渡部氏はこう指摘した。
「ホルムズ海峡が開かないのが来年の頭ぐらいまで続けば、『今年中は大丈夫』という話の先はどうなるのか、という議論になる」
政府の現時点での説明は、混乱を避けるための合理的な情報発信でもある。ただし、万が一封鎖が1年を超えた場合、あるいは中東からのナフサ供給が中長期的に停滞した場合については、別途の備えが必要になる。
■ 代替ルートの限界──紅海・喜望峰・米国産
ホルムズ海峡の代替として、紅海沿岸のサウジアラビア・ヤンブー港や、オマーン湾のUAE・フジャイラ港から、パイプライン経由でホルムズを迂回するルートが稼働している。経産省資料によれば、紅海ヤンブー港からの第一船はすでに日本に到着済みで、順次、両港で積み込んだ原油が届く予定だ。
しかし、紅海ルートもリスクを抱える。バブ・エル・マンデブ海峡では、イエメンのフーシ派が2023年以降、船舶攻撃を繰り返してきた。JETROによれば、フーシ派は2026年4月、今回の武力衝突に関してイランを支持し、紅海での攻撃を示唆している。
残るシナリオとして、アフリカ南端の喜望峰ルートが残るが、渡部氏はコスト増を指摘した。
「コストが安いから中東から買っていた。コストが高いアメリカから買うというのも選択肢になる。最悪の場合、ロシアも、世の中の雰囲気が変われば、オプションとしては出てくる」
米国エネルギー情報局(EIA)によれば、ホルムズ海峡を通過する原油は2024年時点で日量約2,000万バレル、世界の石油消費量の約20%に当たる。日本の原油輸入の中東依存度は95.1%。この構造を一朝一夕に変えることはできない。
日本はすでに米国から代替輸入を始めている。エネルギーの調達先の多様化はコストを勘案して決めることになろう。
■ 柏崎刈羽6号機再稼働──LNG年160万トン節約
電力面ではどうか。経済産業省資料「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」(2026年3月31日)によれば、日本のLNGのうちホルムズ経由輸入は全体の6%(年間400万トン程度)にとどまる。電力・ガス事業者はほぼ同水準の在庫(400万トン程度)を保有しており、経産省は「現時点で電力の安定供給に支障は生じていない」としている。
同資料によれば、政府は3月27日、発電効率が低い石炭火力について年間設備利用率を50%以下に抑制する措置を2026年度は適用しない方針を対外公表し、これによりLNG年間約50万トンの節約となる。
さらに3月27日、東京電力柏崎刈羽原発6号機が定格出力運転に到達した。同資料は、定格出力で稼働した場合LNG年間約110万トンの節約となるとし、石炭火力の措置と合わせ「年間約160万トンのLNGを節約(ホルムズ経由LNG年間400万トンの約4割相当)」と明記している。
東京電力HDは4月16日、原子力規制委員会から使用前確認証・使用前検査合格証の交付を受け、6号機の営業運転を正式に再開した(東京電力HD「柏崎刈羽原子力発電所情報ポータル」)。2011年の東日本大震災以降、東京電力が原発を本格稼働させるのは初めてである。
渡部氏はこの進展をどう見るか。
「柏崎に6千人いる。今あそこも1機だけ動き始めたが、実は7機ある。安全対策は地震・災害対策が1つ、もう1つは化石燃料が止まってしまうという追い風。政府はこの両方を説得力をもって進めなければならない」
再稼働を待つ原発はまだ20基以上ある。2040年ごろには耐用年数を超えた原発がつぎつぎと廃炉の時期を迎える、いわゆる「原子力の崖」と呼ばれる事態が待っている。原発のリプレースや新増設についても議論を加速する必要がある。
■ 電源構成の多様化──EU・米国も原子力・再エネに回帰
日本のエネルギー戦略の現実について、安倍編集長がこう問いかけた。
「日本以外はみな原子力回帰だ。EUですら『グリーンだグリーンだ』と言ってたのは間違ってたと言っているくらいだ。アメリカも調べると、『ドリルベイビードリル』と言っておきながら、化石燃料に基づく電力消費需要は増えていない。増えているのは再エネと原子力。トヨタが提唱するマルチパスウェイのように電源も多様な選択肢を確保することが重要ではないか」
渡部氏はこれに「戦略としては当然だ」と応じた。日本は長らく火力に過度に依存してきた。原子力は「温存」の名のもとに再稼働が進まず、再生可能エネルギーは送電網の制約などに阻まれてきた。渡部氏はこの状況をピンチではなくチャンスと捉え直すべきだと主張する。
「化石燃料に頼りすぎると、長期的には枯渇する。温暖化という問題もある。このピンチをチャンスにするしかない」
■ SMR・核融合──対米投資パッケージの意味
日米合意に基づく対米投資パッケージには、小型モジュール炉(SMR)への投資が含まれる。日本国内での実証が難しい次世代原発技術を、米国で先行させる選択肢である。
「民用の原子力技術はアメリカの方がはるかに進んでいる。アメリカの技術をうまく日本に取り込んで、より安全な原子力発電ができるのであれば、日本にとっては考えるべきもの」と渡部氏は評価する。
核融合については、渡部氏は楽観に傾きすぎず、しかし希望を語った。
「核融合はずっと日本が取り組んできた課題の1つ。これは一朝一夕にできるものではないので、簡単に政府のプランにはできない。ただ、ブレイクスルーが突然ある可能性もあるので、努力をやめたらそんなものはない。核融合は重要だ」
多国籍で取り組むイーター計画に加え、日本、英国、カナダなどが個別に進める実証炉構想も動き始めており、2030年代に実証炉の建設が視野に入るとの見立ても出ている。
■ 「無理のない省エネ」──電気料金は夏以降本格上昇へ
渡部氏は生活者の視点でこう語った。
「すごい極端な省エネじゃなくて、やれることで無理のない省エネというのはもう始めるべきだ」
燃料費調整制度のタイムラグを考えると、2月末からの原油・LNG価格上昇が電気料金に本格反映されるのは2026年夏場以降とみられる。ガソリンは3月19日から始まった緊急激変緩和措置で全国平均170円程度に抑制されているが、補助財源には限りがある。
日本はオイルショックを二度経験し、その教訓から世界屈指の備蓄体制と省エネ技術を築いた。そのバッファがあるからこそ、今パニックにならずに済んでいる。しかし、次の数十年を見据えたとき、化石燃料への過度な依存を現実的に減らす努力が、エネルギー安全保障の核心となる。
■ 記者の目
渡部氏は、日本のエネルギー危機対応について政府の備蓄放出や柏崎刈羽再稼働を一定程度評価しつつ、封鎖長期化への備えと構造転換の必要性を明確に示した。
ホルムズ危機が日本に突きつけているのは、中東への一極集中というエネルギー調達の脆弱性だけではない。原発の「温存」という名の停止、火力への過度な依存、次世代技術投資の遅れ──いずれも平時には見過ごされてきた構造問題だ。EUが「グリーン一辺倒」の誤りを認め、米国も実際には再エネと原子力で電力需要を賄っている現実は、日本の政策論議にも重い問いを投げかけている。
次回は、そのトランプ氏を動かす論理──渡部氏が紹介する「ネオ・ロイヤリスト」論を軸に、米国外交の本質と日本が振り回されないための視座を論じる。
(インタビューは4月13日に行われた)
【FAQ】
Q:日本の石油備蓄は何日分ありますか?
A:資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」によれば、2026年1月末時点で248日分です。内訳は国家備蓄146日、民間備蓄96日、産油国共同備蓄6日。政府は3月16日から民間備蓄15日分、3月26日から国家備蓄原油の当面1か月分の放出を開始しています(経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」2026年3月31日)。
Q:ホルムズ海峡が封鎖されると日本のLNG供給はどうなりますか?
A:経済産業省資料「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」(2026年3月31日)によれば、日本のLNG輸入のうちホルムズ経由は約6%(年間400万トン程度)にとどまります。電力・ガス事業者はほぼ同水準の在庫を保有しており、経産省は「現時点で電力の安定供給に支障は生じていない」としています。
Q:電気料金はいつ、どこまで上がりますか?
A:燃料費調整制度のタイムラグにより、2月末からの原油・LNG価格上昇が本格反映されるのは2026年夏場以降とみられます。ガソリンは3月19日からの緊急激変緩和措置で全国平均170円程度に抑制されていますが、補助財源には限りがあります。
Q:柏崎刈羽原発の再稼働はエネルギー危機にどう効きますか?
A:経済産業省資料「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保」(2026年3月31日)によれば、東京電力柏崎刈羽原発6号機は3月27日に定格出力運転に到達しました。同資料は、定格稼働でLNG年間約110万トンの節約、石炭火力の稼働拡大(年50万トン節約)と合わせ年間約160万トン、ホルムズ経由LNG(年400万トン)の約4割相当の効果があると明記しています。同機は4月16日に営業運転を再開しました(東京電力HD「柏崎刈羽原子力発電所情報ポータル」)。
トップ写真:Japan In-depthチャンネルに出演した渡部恒雄・笹川平和財団上席フェロー
ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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