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.政治  投稿日:2026/4/18

「ホルムズ危機、自衛隊に何ができるのか」——中谷元・前防衛大臣に聞く


安倍宏行(Japan In-depth編集長)

 

【本稿のポイント】

 ・平和安全法制により、停戦後であればホルムズ周辺での護衛・掃海活動は可能だが、戦闘中は戦闘区域への立ち入り制約があり派遣は困難。

・ホルムズとバブ・エル・マンデブの「二重封鎖」シナリオは日本のエネルギー供給に致命的な打撃を与える。

 ・石油備蓄248日分を放出しながら代替調達先へのシフトが急がれており、中東依存脱却は日韓共通の課題。

 ・日韓ACSAの未締結と憲法のネガティブリスト化が、日本の安全保障強化に向けた残された課題。

 

417日、イランのアラグチ外相は停戦期間中のホルムズ海峡の「完全開放」を表明した。一方のトランプ大統領は海上封鎖継続の構えを崩しておらず、事態は一進一退の攻防が続く。ホルムズ海峡の開放は 原油輸入の約9割を中東に依存する日本にとって、安全保障上の危機である。防衛大学校出身の陸上自衛隊レンジャー教官を経て防衛庁長官・防衛大臣を歴任し、石破内閣で防衛大臣を務めた中谷元衆議院議員に、Japan In-depth編集長安倍宏行が話を聞いた。

 

安保法制で「できること」と「できないこと」

ホルムズ海峡が封鎖され、日本に向かうタンカーの航行を自衛隊の艦船は守ることができるのか。この問いに対し、中谷氏が強調したのは、現行の平和安全法制で対応できる範囲が思いのほか広いという点だ。

「10年前に平和安全法制を作った時に、あらゆる事態に切れ目のない対応ということで、平時から有事に至るまで、いろんなケースに対応できるようにしました」

中谷氏は三つの法的根拠を挙げた。第一に「重要影響事態」——日本の安全保障に重大な影響を及ぼす事態において、他国軍への後方支援が可能になる。第二に「存立危機事態」——日本有事には至っていないが、日本のために活動する米国等が危険にさらされる場合、これを防護できる。第三に「海上警備行動」——警察権の行使として、日本関連船舶の護衛・情報収集ができる。

一方、ホルムズ海峡封鎖で注目されるのが、紅海側のバブ・エル・マンデブ海峡経由の代替ルートだ。海峡に面するジブチには、海賊対処法を根拠に海上自衛隊の護衛艦1隻が常駐し、アデン湾での民間船舶の警戒・情報収集にあたっている。日本の自衛隊は何ができるか聞いた。

「バブ・エル・マンデブ海峡を出た公海上であれば、(自衛隊の護衛艦が)日本のタンカーに並走して護衛することは可能です。他国の船舶も護衛できるという内容になっています」

ただし、明確な限界も示した。「現行の憲法のもとでは集団的自衛権の行使に制約があり、戦闘区域には入れません。イランとの戦闘が終結した後でなければ、ホルムズ周辺での活動は難しい」

新たな特別措置法の制定は必要かという問いに対しては、「平和安全法制でほとんどのケースはカバーできている」として否定的な見解を示した。

掃海艦艇の派遣——「技術は世界最高水準」

中谷氏が自信を持って語ったのが、海上自衛隊の機雷掃海能力だ。

「湾岸戦争後、他国が取れなかった非常に困難な場所の機雷を、日本がほぼすべて掃海しました。米国はほとんど掃海技術がなく、朝鮮戦争の時も全部日本がやったくらいです。日本の掃海技術への期待と信頼は国際的に非常に大きい」

現在もイランが敷設したとされる機雷の問題が残っており、機雷除去は戦後復興において日本が最大の貢献をできる分野だと指摘した。ただし現時点での派遣については「今は戦闘が続いている。集団的自衛権の制約があるため、停戦・終結後でなければ難しい」と慎重な姿勢を示した。

備蓄は248日分——ただし放出中

エネルギー安全保障について、中谷氏は「日本の備蓄は来年(2027年)まで目処が立っている」と述べた。資源エネルギー庁によれば、2026年1月末時点の石油備蓄日数は官民合わせて248日分(国家備蓄146日・民間備蓄96日・産油国共同備蓄6日)に達している。ただし政府はすでに備蓄を取り崩しており、4月15日には第2弾として約20日分の国家備蓄放出を決定した。

代替調達先についても具体的に語った。

「アメリカ(メキシコ湾岸)を主な代替として政府のプランができており、中東依存を下げる方向で動いている」。多少のコスト上昇は避けられないとしつつも、「中東以外からの調達比率を上げることを日韓共通の課題として取り組むべきだ」と述べた。

ヘグセス長官との「レンジャーの絆」

興味深いエピソードも飛び出した。前防衛大臣として在任中にヘグセス米国防長官と会談した際、両者に共通点があったという。

「ヘグセス長官はレンジャー資格を持つ元軍人で、私も陸上自衛隊のレンジャー部隊の教官をやっていました。同じような訓練を経てきたということで、非常に気が合いまして、大臣同士本当に打ち解けましたね」

この個人的な信頼関係は、日米同盟の安定に一定の意味を持つ。「トランプ発言は日によって変わるが、こういう時にこそ日米の信頼関係で揺るがないことが一番大事です」と中谷氏は語った。

韓国もエネルギー危機——ACSAが課題

中谷氏は収録の数日前まで、石破茂前首相とともにソウルで開催された韓国アサン政策研究院の年次安全保障会議「アサンプレナム2026」(テーマ:「同盟の近代化」)に出席していた。

「韓国も石油のほぼ全量を中東から輸入しており、備蓄が日本より少ない分、経済への打撃はより深刻だと受け止めていました。エネルギーのサプライチェーンを広げておくことを、日韓共通の課題として議論しました」

日米韓のトライアングル強化については前向きな評価を示しつつも、日韓間でACSA(物品役務相互提供協定)がまだ締結されていないという懸案を挙げた。ACSAとは同盟・友好国間で食料・燃料・弾薬等の物品・役務を融通し合う協定で、日本は米国・英国・オーストラリア等とは締結済みだが、韓国とは未締結のままだ。

「私が韓国の大統領や防衛大臣と面会した際に、日韓ACSAの締結をお願いしました。韓国軍がすでに沖縄で給油して中東へ向かったという実績もある。台湾は中国のクレームで使いにくく、沖縄が地理的に最適なんです」

「ネガティブリスト化」——憲法改正の論点

番組後半では憲法改正論議にも踏み込んだ。中谷氏は衆議院憲法審査会の幹事を長年務めた経験から、現状の問題点を率直に語った。

「共産党と立憲民主党は具体的な議論をしないんです。憲法審査会に出てこない。本当に進みようがない」と両野党の姿勢を批判した。

一方で現行の法的枠組みの限界も指摘した。

 

「今はポジティブリストで1つ1つ法律を作って『これをしていいですよ』としてきた。そろそろネガティブリスト——してはいけないことを明示して、それ以外は国際水準でできるようにしなければ、平和への貢献活動もやりにくい」

自衛隊の憲法明記については「明記したからと言って大きく変わるわけではない」としつつも、「子供にも分かるような憲法を作ることが大事」と述べた。衆議院では改憲発議に必要な3分の2を確保しており、「参議院もあと一息」と語った。

国会では、参院憲法審査会が4月15日、今国会で初めて開催された。高市首相は自民党大会で、1年後には改憲の国会発議にめどを付けたいと発言した。ただ、参院で与党は過半数を確保できておらず、今後の行方が注目される。

記者の目

中谷氏は、「現行の安保法制でホルムズ危機に対応できる」と話した。同時に、戦闘終結前の派遣は困難という制約も明確に示した。

今回の危機が突きつけているのは、法制の問題だけではない。中東への一極集中という構造的なエネルギー脆弱性、日韓ACSAの未締結、ドローン・無人機開発の立ち遅れ—などだ。今後の交渉の行方が日本のエネルギーと安全保障の両方を左右する。

(インタビューは4月15日に行われた)

 

FAQ

Q:ホルムズ海峡が封鎖された場合、現行の安保法制で自衛隊はどこまで対応できますか? A:平和安全法制(2015年)により、後方支援・米軍等の防護・日本関連船舶の護衛が可能です。ただし憲法上の制約から戦闘区域には入れないため、停戦・終結後でなければホルムズ周辺での活動は困難です。

Q:バブ・エル・マンデブ海峡とはどのような場所で、なぜ重要なのですか? A:イエメンとジブチの間に位置する幅約30kmの海峡で、紅海とアデン湾をつなぐ海上交通の要衝です。ホルムズ封鎖時の迂回ルートですが、フーシ派による攻撃リスクもあり、両海峡が同時に封鎖される「二重封鎖」は日本のエネルギー供給に深刻な打撃を与えます。

Q:日本の石油備蓄はどのくらいありますか? A:2026年1月末時点で官民合わせて248日分です。ただし政府はすでに放出を開始しており、中東情勢の長期化に備えた代替調達先へのシフトが急がれています。

Q:日韓間でACSA(物品役務相互提供協定)が未締結なのはなぜですか? A:燃料・弾薬等を融通し合うための協定で、日本は米国・英国・オーストラリア等とは締結済みです。韓国との間では領土・歴史問題が政治的障壁となっており、日米韓協力の課題となっています。

Q:憲法改正における「ネガティブリスト化」とは何ですか? A:現行はできることを個別に列挙する「ポジティブリスト」方式ですが、「ネガティブリスト」方式はやってはいけないことのみを明示し、それ以外は国際水準で柔軟に行動できるようにする考え方です。多くの民主主義国家が採用しています。

 

トップ写真:Japan In-depthチャンネルに出演した中谷元・前防衛大臣

ⒸJapan In-depth編集部

 

 




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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