21世紀の日本で反ユダヤ発言――宮家邦彦が問うメディアの資質
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#15
2026年4月13-19日
■本稿のポイント
- 4月8日のイランをめぐる2週間の停戦合意について、ロシアの識者はイラン側の実質的な勝利と位置づけている。
- 米軍によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が4月12日に開始された。
- 玉川徹氏によるクシュナー氏への「ユダヤ人」発言が、サイモン・ウィーゼンタール・センターから「反ユダヤ主義的」と抗議を受け、国際的に波紋を広げている。
米軍によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が2026年4月12日に始まった。4月8日に成立したイランをめぐる2週間の停戦合意について、ロシアのメディアや識者は「イランの体制・核計画・ホルムズ海峡の支配がいずれも維持されたまま」であることを根拠に、これをイラン側の実質的な勝利と評価している。外交アナリストの宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所)は、ホルムズが一時開通しても火種はくすぶり続けるとして、「第三次イスラエル米・イラン戦争の再発は避けられない」との見方を示す。(Japan In-depth編集部)
今週もイラン情勢以外の話題から始めよう。実は今朝、米国の良識ある親しい友人から次のような驚くべきメールを受け取った。
Rabbi Abraham Cooper, Associate Dean and Director of Global Social Action for the Simon Wiesenthal Center (SWC), denounced commentator Toru Tamagawa on TV Asahi for questioning whether Jared Kushner, a US Special Envoy for Peace, should be involved in negotiations with Iran because he is a Jew…. and said “Tamagawa should have immediately been criticized on the air for inserting persons religion and ethnicity into the discussion over Iran,”
(サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)の副所長を務めるラビ・アブラハム・クーパー氏は、テレビ朝日に出演したコメンテーターの玉川徹氏が、米国の和平特使であるジャレッド・クシュナー氏がユダヤ人であるという理由により、イランとの交渉に関与すべきかどうかを疑問視したことに対し抗議し・・・・「玉川氏は、イランをめぐる議論に個人の宗教や民族性を持ち込んだとして、放送中に即座に批判されるべきだった」と述べた)。
おいおいおい、これって本当の話かね?21世紀の日本に、まだこんなバカなことを言う日本人がいたのか、と筆者は絶句した。経験上、ユダヤ系米国人コミュニティを中心に米国社会がこの種の「反ユダヤ主義的」発言に敏感であるばかりか、時として強烈に反発することを熟知しているからだ。この人たちは「マルコポーロ事件」のことを覚えていないのか?いや、メディア関係者なら知らないはずはないのだが・・・。
御存じでない方のため申し上げるが、マルコポーロ事件とは、1995年2月、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』がホロコーストを否定する内容の記事を掲載したことに対し、サイモン・ウィーゼンタール・センターなどからの抗議を受け、最終的に自主廃刊に追い込まれた一大騒動である。
最近イラン戦争で忙殺されていた筆者は、日本の地上波でこんな発言が放送されていたことを全く知らなかった。SNSによれば「玉川徹氏、クシュナー氏を『ユダヤ人ですよね』と問題発言で批判が殺到」している由である。なるほど、日本でもネット市民の方が「感度が良い」のかもしれない?
ある投稿によれば「10日の『羽鳥慎一モーニングショー』で、玉川氏はトランプ氏の娘婿でユダヤ人のジャレッド・クシュナー氏について『イランとの交渉にはいない方がいい、ましてやユダヤ人ですよね』などと述べた」とある。玉川氏ほどの知識人がこんな発言したことが事実であれば、俄かには信じがたい話である。
上記の投稿では、「X上で人種差別だと非難が相次ぎ、海外でも反ユダヤ主義として動画が拡散。擁護は少なく、対応が注目されて」いるそうだが、それは当然だろう。一方、この種の発言をする人々は、こうした発言のどこが悪いか、全く理解していないケースが少なくない。中東の一神教の世界が日本から如何に遠いか良く分かる話だ。
■ハンガリー総選挙でオルバン惨敗
さて、今週はもう一つ、イラン戦争の影で注目されていないが、極めて重要なニュースがある。米軍によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が始まった4月12日にハンガリーで総選挙行われ、ロシア大統領の盟友で反EU姿勢を隠さなかったオルバン現首相の率いる与党が惨敗したのだ。この結果を如何に分析すべきか、これは来週じっくり考えてみたい。
■停戦合意はイランの勝利――ロシア・メディアから
さて、次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「停戦合意はイランの勝利――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが今回の「停戦交渉」で如何にイランを心情的に支援しているかを知る上で実に興味深い。
4月8日のイランをめぐる2週間の停戦合意について、ロシアのメディアや識者の間では、その不確実性を指摘しつつも、これをイラン側の実質的な勝利と位置付ける論調が目立った。以下に3名の識者らの分析を紹介する。
特に注目されるのが、トレーニンとススロフの論調である。両者とも、欧米諸国によるユーラシアへの拡張阻止という点で、ウクライナ戦争と今回のイラン危機を同一の構図として捉えている点が極めて興味深い。ロシアの一部識者らは、今回のイラン停戦を、ロシアがこれまで米国の一極支配への対抗軸として掲げてきた「多極世界」形成への重要な一歩と位置付けているのである。
その後の米イランの交渉決裂やホルムズ海峡をめぐる新たな動きは、こうしたロシア側の評価が今度どのように展開するかを占う材料となりそうだ。
・「米国は一歩後退:イランが戦争での勝利を宣言」(4月8日付『論拠と事実』)(要約)
- 今回の停戦合意の背景について、国際政治学者のフョードル・ルキヤノフは、トランプ米大統領は「頑固な一方で、コストが増大するとそれを迂回する」傾向にあると指摘。そのうえで、米国は当初掲げた目標を達成できず、イランが想定以上に強く、持久力を示したことが停戦の背景にあると分析した。
- ルキヤノフは同時に、米国とイスラエルがイラン弱体化の試みを放棄することはないとし、「今後は直接的な軍事攻撃ではなく、体制の揺さぶりや不利な環境の創出といった形になる」可能性を指摘した。
・「イランが優位に――初期的評価」、ドミトリー・トレーニン ロシア国際問題評議会〈RIAC〉会長、(4月8日RIACサイト掲載コラム)(要約)
- トランプ米大統領はイランが威嚇に屈したと主張するだろうが、ホルムズ海峡が依然としてイランの支配下にある状況での停戦は、実際にはイランが譲歩しなかったことを示している。
- 戦争の暫定的な総括は次の通り:①イランはイスラエルと並ぶ地域大国としての地位を強化した。②今回の湾岸諸国の脆弱性は、米国による安全の保障が虚構にすぎないことを示した。③制裁下にあるイランが、事実上世界の超大国に勝利し、豊かな湾岸諸国が打撃を受けた。④イランはイスラム共和国であり続けるが、実権は革命防衛隊へと移り、今後は強硬かつ合理的な政策が取られるだろう。⑤イスラエルが米国の支援を得ても「イラン問題」を解決できなかったことは、将来的にこの地域の二大軍事大国であるイスラエルとイランの間に均衡が成立する可能性を示唆している。
- 今後、ロシアは国際的地位を高めたイランとの関係をさらに強化する余地を得る。ロシア、中国、イランに加え、ベラルーシや北朝鮮は、ユーラシアにおける新たな安全保障の中核を形成しつつある。
- イランはユーラシア南部における米国の地政学的反攻を食い止め、ロシアがウクライナで目標を達成すれば、同様の動きは西側でも阻止される。東方では中国が軍事力強化と外交を並行して進めており、こうした行動こそが現実の多極世界を形作っている。
・国営第1チャンネルの討論番組「グレート・ゲーム」より、司会の国際政治学者ドミトリー・ススロフの発言(4月8日放送分からの一部要約)
- 今回の停戦は実質的にはイラン側の条件に沿ったものだ。イランの体制、核計画、ホルムズ海峡の支配のいずれも維持されたままだ。
- たとえこの停戦が一時的なものだとしても、世界の超大国で核保有国であるアメリカが、核を持たないイランに軍事的敗北を与えることができなかったことは、イランにとって勝利の瞬間である。
- 実際にロシアとイランは同じ船に乗っている。ロシアは、西側によるウクライナ方面での拡張を食い止め、一方イランは、ユーラシア南方におけるアメリカを中心とする西側の拡張を食い止めているのである。
- その意味で、我々はまさに、新たなユーラシア安全保障体制と多極的世界の形成に向けて、大きな一歩を踏み出している。
■今週の国際カレンダー
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
4月13日 月曜日 ローマ法王、アルジェリア他アフリカ諸国訪問(11日間)
イスラエル、ホロコーストの日
4月14日 火曜日 スペイン首相訪中、首脳会談
フィンランド大統領、カナダ訪問(2日間)
米国務省、イスラエルとレバノンの交渉を仲介
欧州評議会大統領、UAE、サウジアラビア、カタルを歴訪(2日間)
豪州首相、ブルネイとマレーシアを訪問(4日間)
4月15日 水曜日 ポーランド首相訪日(3日間)
ウクライナ大統領訪伊、伊首相と首脳会談
北朝鮮、金日成誕生日
4月16日 木曜日 NATO事務総長、欧州委員会委員長と会談
アイルランド首相訪独、独首相と首脳会談
G20財務相・中銀総裁会合
IMF春季総会
4月19日 日曜日 ブルガリア総選挙
■ホルムズ「逆封鎖」と第三次戦争の予兆
最後はガザ・中東情勢だが、イラン戦争については12日に米国によるホルムズ海峡「逆封鎖」作戦が始まった。リスクは高いが、これ以外に打開策はないという判断なのだろう。この点については今週の産経新聞WorldWatchに辛口のコラムを書いたのでご一読願いたい。いずれにせよ、仮に一時的にホルムズ海峡が開通しても火種は燻ぶり続けるだろうから、いずれ、そう遠くない将来、第三次イスラエル米・イラン戦争は再発する、という先週の筆者の見立ては今も変わらない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
■ FAQ
- 玉川徹氏の発言はなぜ問題視されたのか? A. ユダヤ人であることを理由に特定人物の交渉参加を否定する発言は、宗教・民族を根拠にした差別的発言と見なされます。サイモン・ウィーゼンタール・センターは過去に日本の雑誌廃刊(マルコポーロ事件、1995年)に至る抗議活動を行った実績があります。
- マルコポーロ事件とは何か? A. 1995年2月、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』がホロコーストを否定する記事を掲載し、サイモン・ウィーゼンタール・センターなどの抗議を受けて自主廃刊に追い込まれた事件です。
- 4月8日の停戦合意はなぜ「イランの勝利」と評価されるのか? A. イランの体制・核計画・ホルムズ海峡の支配がいずれも維持されたまま停戦が成立したためです。核を持たないイランが核保有超大国の米国に軍事的敗北を与えられなかったことが、実質的な勝利と位置づけられています。
- ホルムズ海峡「逆封鎖」作戦とは何か? A. イランによる事実上の封鎖に対抗するため、米軍が4月12日に開始した海峡再開通を目的とする作戦です。
- ハンガリー総選挙でのオルバン惨敗はどんな意味を持つのか? A. 親ロシア・反EU路線を鮮明にしてきたオルバン首相与党の敗北は、欧州における対ロシア強硬論の広がりを示す可能性があります。筆者は来週詳細な分析を行うとしています。
■ シリーズ紹介・バックナンバー
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トップ写真:米国のJD・ヴァンス副大統領に耳を傾けるジャレッド・クシュナー氏(左)と平和ミッション担当特使のスティーブ・ウィトコフ氏。
出典:Jacquelyn Martin – Pool/Getty Images






















