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.国際  投稿日:2026/4/7

存在感増すラウル・カストロ氏の孫-米・キューバ交渉でも注目


(時事通信社元外信部長)山崎真二

【本稿のポイント】

 ・キューバはトランプ政権の圧力に抗しきれず対米交渉に応じた。

 ・トランプ政権はベネズエラのように体制転換を求めず、政権交代を迫るか。

 ・米国はラウル・カストロ元国家評議会議長の孫がキューバの実権握ることを容認するとの説も。

 

石油供給を遮断されたキューバが、トランプ政権との水面下交渉に踏み切った。交渉の鍵を握る人物として急浮上したのが、キューバ革命の象徴フィデル・カストロ氏の血を引くギジェルモ・カストロ氏だ。政界の表舞台とは無縁だった人物がなぜ今、米・キューバ交渉の中心に立つのか、時事通信社元外信部長の山崎真二氏が紐解く。(Japan In-depth編集部)

 

経済危機に石油遮断の追い打ち

 キューバがトランプ米政権の圧力で一層の経済危機に直面、水面下で対米交渉を開始し、その行方に大きな関心が集まっている。米国を敵視していたキューバのディアスカネル共産党政権が対米交渉に踏み切ったのはトランプ大統領の圧力に抗しきれなくなったからだ。キューバでは長年、深刻な経済不振が続いていたところに今年1月、トランプ政権がベネズエラの反米左派のマドゥロ大統領を拘束・連行した後、ベネズエラからキューバへの石油供給を遮断した。それだけではない。キューバに原油を供給する国からの輸入品に追加関税を課す方針も打ち出した。これを受けディアスカネル政権を支援していたメキシコもキューバへの石油供給を停止した。

キューバはエネルギー需要の6割以上を輸入に依存しているだけに経済が壊滅的ともいえる打撃をこうむるのは確実。トランプ大統領の強硬発言もディアスカネル政権には効き目があったことは想像に難くない。トランプ大統領は1月のベネズエラ攻撃直後、キューバに対し「手遅れになる前に取引することを勧告する」と迫り、2月末の対イラン軍事行動のあと、キューバの体制崩壊について「時間の問題だ」と警告していた。

 

ディアスカネル大統領の退陣要求説も

 米国とキューバの交渉はどう展開されるのか。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、トランプ政権はキューバに対しディアスカネル現大統領の退陣を迫っているという。ルビオ国務長官は以前からキューバの体制転換を主張しているが、トランプ大統領は「友好的に(キューバ統治を)引き継ぐことになるかもしれない」と述べており、必ずしも体制転換を求めていないとの見方もある。

とはいえ、3月末にはイランに対する軍事作戦の成功を誇示した際、「次はキューバだ」と語っており、キューバ支配への野心を隠そうとしていない。米国のハマー駐キューバ臨時代理大使はスペイン語のテレビ局に対し年内の政治改革についてキューバ側と協議していると述べ、米政府がベネズエラで用いたやり方をキューバにも適用しようとしていることを示唆した。トランプ政権がベネズエラのマドゥロ大統領を追放した後、体制転換は求めず、後継のロドリゲス暫定政権との協力関係の構築に成功したのは周知の通りだ。

 

キューバは政権交代説を否定

 中南米の専門家は両国の交渉にキューバ革命の伝説的指導者である故フィデル・カストロ氏の弟ラウル・カストロ元国家評議会議長の孫のギジェルモ・カストロ氏(41歳)が参加していることに注目する。同氏はラウル・カストロ元議長のボディーガードをしていたぐらいで要職についたことはなく、これまでキューバ政界の表舞台で活躍したことはなかった。しかし、最近はキューバ共産党・政府の重要会議にディアスカネル大統領とともに出席するなど、その存在感が急速に高まっている。今年2月、カリブ海地域の経済統合などを目指す「カリブ共同体」の首脳会議が島国セントクリストファー・ネイビスで開催された際、ルビオ国務長官と秘密裏に会談している。

ニューヨーク・タイムズ紙はトランプ政権がギジェルモ・カストロ氏がキューバの実権を握ることを容認する考えだとも伝えている。一方、中南米のメディアの間ではテクノクラート出身で交渉能力にも長け、キューバ経済の開放に前向きなペレス・オリバ副首相の方が米国に受け入れられる可能性が高いとの説も出ている。ただし、キューバ当局は対米交渉で大統領の交代などは一切話し合いの対象にはならないと否定している。今後、交渉が続けられるとしても難航は必至だろう。

 

キューバ情勢を読み解くFAQ

Q. なぜキューバは対米交渉に踏み切ったのか?
A. 米国がベネズエラからキューバへの石油供給を遮断するなど圧力を強化し、エネルギー不足による経済危機が深刻化したためとされる。長年の経済不振に加え、輸入エネルギーへの依存が高い構造が交渉入りの背景にある。

 

Q. 米国はキューバに体制転換を求めているのか?
A. 一部報道ではディアスカネル大統領の退陣要求が伝えられているが、トランプ大統領自身は必ずしも体制転換を明言していない。政権交代を含む圧力をかけつつも、最終的な目標については見方が分かれている。

 

Q. 米国の対キューバ政策はベネズエラと同じ手法なのか?
A. 米国はベネズエラで政権交代後に協力関係を構築したとされ、同様の手法をキューバにも適用する可能性が指摘されている。ただし、キューバでは体制の安定性や交渉姿勢が異なるため、同様に進むかは不透明である。

 

Q. ギジェルモ・カストロ氏の台頭は何を意味するのか?
A. 交渉に関与しているとされ、政府内での存在感が高まっている点が注目される。一部報道では米国が同氏の台頭を容認する可能性も指摘されているが、正式な役職や権限は限定的であり、実権掌握については推測の域を出ない。

 

Q. 今後の交渉はどのように進むと考えられるか?
A. キューバ側は大統領交代を交渉対象としない姿勢を示しており、双方の主張には隔たりがある。交渉は継続する可能性があるものの、妥結までには時間を要するとの見方が強い。

 

トップ写真:国民議会で演説するラウル・カストロ氏, キューバ・ハバナ, 2018年4月19日

出典:AP Ramon Espinosa/Pool/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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