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.国際  投稿日:2026/4/18

「トランプを動かす論理──ネオ・ロイヤリストという読み解き」渡部恒雄・笹川平和財団上席フェローに聞く(後編・全2回)


安倍宏行Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

※本稿は「ホルムズ危機、日本のエネルギー調達は持つのか──渡部恒雄・笹川平和財団上席フェローに聞く(前編)」の続編です。

【本稿のポイント】

・トランプ氏は長期交渉に耐える精神的強さを持たず、短期成果を優先する。発言ではなく実際の行動を見るべきだ。

・現在進行しているのは国家利益に基づく外交ではなく、指導者と身内のクリークが利益を追求する「ネオ・ロイヤリスト」的な秩序である。

・トランプ支持層の中でも、イラン攻撃と停戦交渉の双方をめぐり分裂が生じている。

 

渡部恒雄・笹川平和財団上席フェローとの対談を2回にわたって掲載する。前編ではホルムズ危機下のエネルギー安全保障を論じた。後編となる本稿では、その米国を動かすトランプ大統領の論理と、日本が振り回されないための視座を取り上げる。(Japan In-depth編集長)

 

停戦交渉決裂は「想定内」──精神的な粘り強さの欠如

 

安倍編集長が、米イラン間の停戦交渉があっさり暗礁に乗り上げた状況を切り出したところ、渡部氏も同調した。

 

「うまくいくとは思ってなかった。お互いに要求しているものが全然噛み合っていない。お互いにどのくらい本気なのかを見定めようということだったのだろう」

 

渡部氏は、トランプ氏の交渉姿勢の本質をこう分析する。

 

「トランプという人は精神的に弱い人だと思っている。長期間の苦しい交渉をやれる精神的な強さがない。すぐ結果を求める。難しいとほっぽり出す」

 

ホルムズ海峡をめぐる米国の矛盾

 

話題はホルムズ海峡の封鎖に移った。トランプ氏は自ら海峡封鎖を示唆する発言までしているが、米軍トップの立場は異なると渡部氏は指摘する。

 

「軍のトップの話を聞いていると、アメリカの基本のラインは『航行の自由作戦』だ。ホルムズ海峡は公の海なのだから、イランが封鎖することはいかん、アメリカがきちんと管理して通すようにする、と言っている。ところがトランプ氏の頭の中では、『俺たちが封鎖を済ませて金をかけているのだから、俺たちが金を取ってもおかしくないんじゃないか』と思うわけだ」

 

渡部氏はトランプ氏の発言と行動を分けて見るよう促した。

「トランプ氏の言っていることはあんまり信用しない方がよくて、トランプ氏のやっていることに集中して見た方がいい」

 

渡部氏は「やっていることは実は理にかなっている。アメリカは圧倒的に軍事力を持っていて、トランプ氏がそんなことを言う前にアメリカがある程度軍事力で、その公の海を開く」と説明した。

 

戦略なき意思決定──ネタニヤフ氏プレゼンが転換点

 

渡部氏は、トランプ氏のイラン攻撃決断の経緯を次のように説明する。

 

「そもそもトランプ氏の閣僚や軍は、イランへの大規模な軍事攻撃のリスクを相当伝えようという努力はしていた」

 

実際、米紙の報道によれば、バンス副大統領はイラン攻撃に最も懐疑的な立場を取っていたとされる。2026年2月11日のネタニヤフ首相のホワイトハウス訪問時、バンス副大統領はアゼルバイジャンを訪問中で同席していなかった(参照:The Hill “Vance most skeptical voice in Trump’s inner circle on Iran strikes”)。

 

渡部氏は続けた。

 

「ネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問して、シチュエーションルームでイスラエルの計画、つまりハメネイ最高指導者を殺害した後にレジームチェンジするようなプランを、次に備えるこういう顔ぶれも言えるんだ、というところまで含めてプレゼンテーションをした。それに対してトランプ氏が『これはすごい』、『そうなればむしろイランとは交渉しやすくなるから短期間に状況が良くなるだろう』というような楽観を、彼自身がしてしまったということのようだ」

 

渡部氏は「イランの専門家からしてみればそんなことあるわけない」と指摘した上で、イラン政治の構造についてこう説明した。

 

「かなり集団指導だし、革命防衛隊の力も強いので、楽ではないというのは普通は見てきた人はわかる」

 

ネオ・ロイヤリスト論──国家利益ではなく身内の利益

 

渡部氏は、トランプ氏を動かす論理を「ネオ・ロイヤリスト」という枠組みで説明した。

 

「ネオは新しい、ロイヤルは忠誠を誓うという意味ではなく、王朝派という意味だ。国家国民国家ができる前に、ヨーロッパでハプスブルク家、チューダー朝イギリスなど、『家』が力を持っていて、国を支配している家同士がヨーロッパでずっと戦争したり外交したりしていた。今のトランプはそうなっているんじゃないかという指摘をしているのが、実はアメリカの2人の政治学者だ」

 

渡部氏が参照するのは、Wellesley大学のStacie Goddard教授とGeorgetown大学のAbraham Newman教授が2025年11月、国際政治学の主要ジャーナルInternational Organization誌に発表した論文である。同論文は、現在進行中の国際秩序の変化を、主権国家中心のウェストファリア体制への回帰ではなく、絶対君主的な指導者に忠誠を誓う小規模なエリート集団「クリーク(clique)」が財政的・文化的な貢ぎ物を抽出する近世ヨーロッパ的な秩序に近いものと位置づけている。

 

渡部氏はこの枠組みの核心をこう解説する。

 

「国家の利益はあまり考えていない。自分たちの利益を考えている。特にトランプ氏の周りの身内だったり友達だったり、ここの経済をすごく重視して外交している」

 

イラン攻撃をめぐる判断にも、この枠組みが適用されると渡部氏は指摘する。

 

「今回のこともそうだが、アメリカ国民にとっては実はマイナスのことも相当ある。でもそれでもトランプ氏とトランプ氏の周りの利益を優先する。今回だってイスラエルの利益を相当優先している」

 

イスラエル一人勝ち構造と「家族ぐるみの友人」

 

渡部氏はイスラエル優遇の構図を家族関係から説明した。

「イスラエル一人勝ちだ。イスラエルの利益とは何かといえば、トランプ氏からすると身内だ。特にネタニヤフ首相というのはトランプ氏の娘婿のクシュナー氏のもう本当に家族ぐるみの友人で、ここの利益が国の利益よりも優先される」

 

渡部氏は、トランプ氏の「王室好き」についても触れた。

「トランプ氏はイギリスに行って王室と会うのがすごく好きでしょう。日本に来ても皇室と会うのが大好きでしょう。トランプ氏が王様になりたいと思っていて、だからアメリカでも『王様はいらない』というデモまで起きている」

 

■ MAGA分裂──Truth Socialに現れる支持離れ

注目すべきは、トランプ氏自身が作ったSNS、Truth Social上で、支持者たちの反発が顕在化していることだ。渡部氏が紹介したのは、ニューヨーク・タイムズによる分析である。

 

「トランプ氏がイランに対して『一夜にして文明は消滅する』というような脅しを投稿していたが、これに対する反発がTruth Socialで相当来ている。ニューヨーク・タイムズがAIなども使って4万のTruth Social投稿の分析をしている。ボット攻撃の可能性も排除しながら丁寧に分析した結果、トランプ氏の支持者の相当な離反が今回は起こっている」

 

渡部氏は具体例を挙げた。

 

「『私は3回あなたに投票したけど、今回のイラン攻撃のことで私はもう支援をやめる』といった投稿が出てきている」

 

渡部氏は、「最初は自分たちのためにやってきてくれると思っていたMAGA(Make America Great Again)と言われる人たちも、そろそろちょっと違うんじゃないかなと」感じ始めている、と説明した。

 

福音派の宗教的論理──攻撃支持と停戦反対の両面

 

他方で、トランプ支持層の中核をなす福音派(エヴァンジェリカル)は、イスラエル防衛を宗教的理由から強く支持する。渡部氏は両面性を指摘した。

「福音派の人たちには、イスラエルの安全保障を確保することが自分たちの、最終的にはイエス・キリストが天から降臨してきて救ってくれるという発想の中がある。エルサレムがないとだめだ、基本的にユダヤ教の点である旧約聖書はキリスト教も信じているものだから、イラン攻撃をしてイスラエルを守れという人たちも強い」

 

この福音派は、停戦協議にも逆の方向で反発している。

 

「バンス副大統領を送ってイランと停戦協議をするとなると、今度はそちらの方がTruth Socialに『なんで今更イランに譲歩するんだ』『投票するのやめる』と来ている。MAGAも割れている」

 

「言うこと」ではなく「やること」を見よ

 

渡部氏はインタビュー全体を通じて、トランプ氏を読み解く原則をこう繰り返した。

 

「トランプ氏は国として戦略を考えたりしていない。かつての中小企業の社長の発想で、多少儲かった損したというレベルでしか考えていない。一次政権の頃はアドバイザーの言うことも聞いたが、もうそんな話も聞いていない」

 

先のことを読む能力についても厳しい。

 

「6カ月後、1年後を読むのは残念ながらそういう能力がないので、そこはそう考えておいた方がいい」

 

一方で渡部氏は、トランプ氏を支える周囲の米国人たちの判断力には別の評価を下した。

 

「今回のイラン攻撃を見てもわかるが、みんなトランプ氏の周りで、言えなくてトランプ氏にそうだそうだと言って乗っかってイラン攻撃しているわけではない。そこにアメリカの国家の合理性がちゃんとあると日本は考えていい」

 

記者の目

 

渡部氏が紹介した「ネオ・ロイヤリスト」論は、トランプ外交の不可解さに一つの説明を与える枠組みだ。国家対国家の伝統的な外交理論では説明しきれないイスラエル一人勝ちの構造、娘婿クシュナー氏とネタニヤフ首相の関係、MAGA支持層の分裂──これらの現象を、指導者とクリークが国際秩序を形づくるという視点から読み解くことができる。トランプ大統領の予測不能な行動パターンも、渡部氏の話を聞いた後では少しは理解できるようになった。

 

(インタビューと配信は4月13日に行われた)

 

【FAQ】

 

Q:「ネオ・ロイヤリスト(ネオ・ロイヤリズム)」とは何ですか?

A:Wellesley大学のStacie Goddard教授とGeorgetown大学のAbraham Newman教授が2025年11月、国際政治学のジャーナルInternational Organizationに発表した論文「Further Back to the Future: Neo-Royalism, the Trump Administration, and the Emerging International System」で提唱された概念です。国家同士が主権を競うウェストファリア型秩序ではなく、指導者とその忠誠派(clique)が国家を超えて富と地位を配分する近世ヨーロッパの王朝外交になぞらえた枠組みです。論文はCambridge University Pressからオープンアクセスで公開されています。

 

Q:MAGA(マガ)とは何ですか?

A:「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」の頭文字で、トランプ氏の選挙スローガンであり、同氏の熱烈な支持層の総称でもあります。時事通信の報道によれば、MAGA層は「孤立主義的な外交観を持ち、海外での軍事的関与より国内への資源分配を優先するよう求めるグループ」と位置づけられます(時事ドットコム「イラン攻撃参加に反対『米国第一に反する』」)。

 

Q:Truth Socialとはどんなプラットフォームですか?

A:トランプ氏が2022年に立ち上げた会員制SNSで、同氏自身が主要な発信者として使用しています。トランプ氏は大統領としての政策発表や外国首脳への警告まで、多くの重要な発信をX(旧Twitter)ではなくTruth Socialで行っており、支持者コミュニティとの直接のやり取りの場にもなっています。

 

Q:福音派(エヴァンジェリカル)とは何ですか?

A:聖書の権威を重視し、個人的回心と伝道を強調するプロテスタントの潮流です。米国では共和党支持層の重要な基盤であり、イスラエル建国を聖書の預言実現と結びつける神学的立場から、イスラエル支持が強い傾向があります。トランプ政権の中東政策にも大きな影響を与えています。

 

Q:なぜネタニヤフ首相とクシュナー氏は近しい関係なのですか?

A:ジャレッド・クシュナー氏はトランプ氏の長女イヴァンカ氏の夫で、第1次トランプ政権で中東和平担当の上級顧問を務め、2020年のアブラハム合意(イスラエルとアラブ諸国の国交正常化)を主導しました。クシュナー家は正統派ユダヤ教徒で、ネタニヤフ首相とは家族ぐるみの長年の知己として知られています。

 

Q:バンス副大統領のイラン政策における立ち位置は?

A:複数の米メディア報道によれば、バンス副大統領はイラク戦争の退役軍人で、海外での長期的軍事関与に一貫して懐疑的な立場を取ってきました。2026年2月からのイラン攻撃に際してもトランプ政権内で最も慎重な姿勢を示していたとされます(The Hill “Vance most skeptical voice in Trump’s inner circle on Iran strikes”)。現在はイランとの停戦交渉の主要な交渉担当を務めています。

 

トップ写真:Japan In-depthチャンネルに出演した渡部恒雄・笹川平和財団上席フェロー

ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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