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.政治  投稿日:2026/4/16

自衛隊は自民党の「私兵」か?党大会での国歌歌唱が揺るがす文民統制の根幹


執筆:清谷信一(防衛ジャーナリスト)

本稿のポイント
・自民党大会で現役自衛官が制服姿で国歌を歌唱したことは、自衛隊法や倫理規定が禁じる「政治的行為」や「地位の私的利用」に該当する可能性が高い。

・政府は「私人の立場での参加」と説明しているが、特殊な演奏用制服の着用や依頼の経緯から、陸上自衛隊による組織的な関与や自民党への利益供与が疑われる。

・過去の反戦自衛官への処分例と比較しても法的な整合性を欠いており、自衛隊を「党の軍隊」のように扱う行為は文民統制の観点から極めて危うい。 

自民党大会(412日)で陸上自衛隊の鶫真衣(つぐみ・まい)3等陸曹が制服姿で国歌を歌唱したことが、自衛隊の政治的中立性をめぐる論議を呼んでいる。政府は「私人としての参加」と説明するが、防衛ジャーナリストの清谷信一氏は自衛隊法や倫理規定に抵触する疑いを指摘し、文民統制の観点から重大な問題だと訴える。(Japan In-depth編集部)

自民党大会への自衛官登壇:問われる政治的中立性と自衛隊法

今月12日に開催された自民党大会で陸上自衛隊中央音楽隊のソプラノ歌手、鶫真衣3等陸曹が国歌を歌った。この映像を見て筆者は極めて醜悪だと感じた。

これが中国共産党や朝鮮労働党であれば実は何の問題もない。人民解放軍や朝鮮人民軍は党の軍隊だからだ。国軍ではない。ところが自衛隊は他国で言えば「国軍」である。与党とは言え自民党の軍隊ではない。

つまり自民党は自衛隊を自分たちの私兵のごとく考えていると世間に示したことになる。またこれは防衛省や自衛隊が自分たちは政治的な中立でなくてもよいと宣伝したことになる。この件を質するために筆者は14日の荒井正芳陸上幕僚長定例会見に参加した。

この自衛官による国歌歌唱は小泉防衛大臣も自らXに鶫3曹との2ショットを投稿したが、その後批判が増えたためか削除した。

だがこの投稿では小泉大臣は「今日は一年に一度の自民党大会。全国から党員らが結集する自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれたのが、陸上自衛隊の鶫真衣(つぐみ・まい)さん。凛とした君が代が大会場に沁み渡りました。鶫さんをはじめ自衛隊の音楽隊を誇りに思います。ありがとうございました!」と述べており、自衛官として制服を着用して歌唱、あるいは音楽隊が出演しても問題がないかのように取られる発言をしている。

「私人としての参加」は通用するか:制服着用が示す組織的関与

小泉大臣や荒井陸幕長は「参加は私人としてであり、制服を着用しても法的に問題ない」と発言した。

だが、自衛隊法は611で「隊員は選挙権の行使を除くほか政治的行為をしてはならない」と定めている。自衛官の服務の宣誓には「政治的活動に関与せず」とある。

また倫理行動規定には「自衛隊員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し」「自衛隊員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならない」とある。

自衛隊法施行令の第86には「特定の政党その他の政治的団体を支持し、又はこれに反対すること」、第87条(政治的行為の定義)「政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること」自衛隊施行令87条1項2号には「政治的目的のために寄附金その他の利益を提供」を禁止している。

更に陸自の第14音楽隊のウェブサイトには「原則として個人、企業、政党、宗教団体からの依頼、または政治的活動、宗教的活動、思想的活動及び企業等の営利に関与する恐れのある場合は依頼を受けることができません」と明記されている。筆者は法律の専門家ではないので断定は避けるが、普通に読めば今回の件はアウトだろう。

しかも小泉大臣や鈴木俊一幹事長は党大会を企画したイベント会社が鶫3曹に個人に対してお願いをした、国歌自体は政治的な意味のあるものではないから、それを斉唱するということについては特に問題がないなど発言している。

これは論点ずらしである。国歌斉唱が問題ではなく、現職の自衛官が仕事で使う制服をきて、私党である自民党の党大会で歌ったことが問題だ。しかも高市総理は「自衛官は職務ではなく、私人として旧知の民間の方からの依頼を受けて歌唱した」と矛盾した説明をしている。

しかも発言をみればイベント会社が勝手に企画したかのように聞こえるが、通常式次第などはクライアントである自民党と連絡を取りながら行って、自民党が最終的に決定する。それとも自民党は大切な党大会に関する決定までイベント会社に丸投げしたのか。

鶫3曹が当日着用した「通常演奏服装」は自衛隊服装規則に基づき、陸幕長が演奏のために特に必要があると認めて指示する場合に、音楽隊員が着用できる服装である。つまり党大会での制服を着ての歌唱は陸幕長が問題なしと認めたことになる。

状況証拠からみればこれらの発言は大変疑問が残る。まずイベント会社はどうやって鶫3曹の連絡先を知ったのだ。通常の歌手であれば芸能事務所に所属しているので探すは簡単だ。彼女は芸能人ではない。調べた限り彼女はSNSなどで連絡先を示していない。普通連絡先が分からなければ、防衛省か自衛隊に連絡をするだろう。

仕事が仕事だけに部隊ではなく陸幕の広報室か防衛省の広報課に連絡するだろう。そうであれば初めから防衛省、あるいは陸幕は関与していた、ということになる。小泉大臣はこの件は知らなかったと発言しているが、自民党大会で自衛官が歌うのにその情報を広報課があげなかったというのは極めて不自然である。

そして小泉大臣や鈴木幹事長の言が正しいのであれば、何故鶫3曹は仕事を受けたのか。

筆者は荒井陸幕長に謝礼やお車代はなかったと尋ねたのに対して陸幕長は、謝礼はなかったと発言している。

縁もゆかりもないイベント会社のために何故ノーギャラ、しかも交通費や事前の美容院などの費用を自腹で負担してまで仕事を受けたのか。プロとしての自意識があれば自分の仕事をタダで提供することには抵抗を感じるのではないか。しかも現場でトラブルがあっても全部自己責任となる。そのようなリスクあるわけだ。

そしてただ働きすることは自衛官による営利企業と私党への役務の提供となる公務員の倫理上問題がある。例えば普通のソプラノ歌手に出演を依頼して20万円かかったとしよう。それは当然イベント運営費から支出される。鶫3曹が出演すればその20万円が浮くことになり、イベント会社あるいは自民党が利益を得ることになる。

筆者は河野太郎防衛大臣時代に会見で大臣に「防衛省は防衛記者クラブにコピー取りやお茶くみ用に2名の職員を当てている。記者クラブは一民間任意団体であり、これに役務を提供するのは利益供与であり問題ではないか」と質問した。

荒井陸幕長および防衛省は自衛官が営利団体あるいは政治団体に対して勤務時以外ならばどのような役務を提供しても「私人」であり問題ないのか、明らかにすべきだ。そうでないと法の抜け道として悪用される可能性がある。

また自民党あるいは他の団体が自衛隊の音楽隊を使いたい場合、部隊単位で有休をとって参加すれば「私人扱い」となって自衛隊の政治利用を避けることができる。こういう制度の抜け道にもなりかねない。

実は鶫3曹はこの手の出演の「前例」がある。2019年11月、日本会議関連のイベントにも出演しているのだ。日本会議は極めて右派の色彩の強く、自民党有力議員がかかわっている。日本会議には高市早苗総裁、麻生太郎副総裁、古屋圭司氏などが役員(副会長、顧問等)を歴任・所属しており、国会議員懇談会では自民党議員を中心に約300名所属している。鶫3曹が自主的にこれらのイベントに参加してきたのであればそれは特定の政治的な意図があったということでないか。

そして今回の自民党大会には鶫3曹の上官である中央音楽隊の柴田昌宣副隊長も私服で参加している。これらのことから部隊あるいは陸自として組織的な関与、また私人として参加するのは問題が起きた時の逃げ道ではないかと疑われても仕方あるまい。

問題は、党大会という非常に政治的な場で、「陸上自衛隊」と公に紹介され、広報もされている事が法で禁じられた「官職や公私の影響力を利用する事」ではないか、という点だ。それが常識的にプライベートだから制服で公演を行なっても「政治的な関与」に当たらないとは有権者の理解を得られないだろう。

実際に木原稔官房長官も「法律に違反するということと、これをしっかりと政治的に何か誤解を招くようなことがないかということ、これはまた別問題であると思いますので、その点はしっかりと反省すべきものだというふうに考えております」と発言している。

■1972年「反戦自衛官懲戒免職事件」との比較と司法上の整合性

自衛官が私的に何をしても問題ないのであれば、司法上の整合性の上でも問題となる。1972年「反戦自衛官懲戒免職事件」では現役自衛官5人(陸空含む)が制服姿で東京の反戦集会(沖縄派兵反対など、日本共産党も関連)に登壇し、自衛隊の政治的中立を害する行為として自衛隊法違反で全員が懲戒免職処分を受けている。

また自衛隊員ではない国家公務員が共産党のビラを配り有罪となっている。2012年休日に共産党機関紙「赤旗」を配ったとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪に問われた元国家公務員の男性2人に対する上告審判決で、最高裁1人を無罪、1人を有罪としたそれぞれの二審判決を支持し、上告を棄却した。

そもそも「私人」として何をやってもいいわけではあるまい。例えば自衛官の「有志」が休暇をとって、制服をきて徒党を組んで反政府デモなどに対して威圧を加えることがあっても「私人」であるから許されるのか。

小泉大臣は「自衛隊員は常に制服の着用を義務付けられている」と会見で述べ、これを理由に「通常演奏服装」を着用して歌唱することは問題ないと主張した、これは事実ではない。文言の通りであれば自衛官は私服を着ることができない。確かに自衛官服装規則では「自衛官は、この訓令の定めるところに従い、常時制服等を着用しなければならない」とある。だが同時に休暇や、自衛隊施設以外では着なくともよいと定めている。

これは子どもでもわかる理屈だろうが、あえて小泉大臣がこのような発言をなぜしたのか。「自衛隊員は常に制服の着用を義務付けられている」ならばなぜ殆どに自衛官が通勤時に背広など私服で通勤していることを大臣は問題としないのか。

自衛隊では非常に多くの種類の制服が存在する。通常私的な場合、例えば通勤などで使用するのは常装制服、いわゆる勤務服である。通勤に第一種礼装を着ることはできない。礼装は結婚式などでは私的な場合でも許可されている。たとえば鶫3曹が銀座で買い物をするのに「通常演奏服装」を使用することはできない。小泉大臣自身も会見で「常時着用義務というものがありますので、制服を着て私人としても行動すると、こういったことについては問題がないと承知をしています」。これと特殊な用途の制服を意図的に混同するのは論点ずらしでしかない。

これらの事案を考えれば他国でいえば国軍である自衛隊が、与党とは言え私党の大会に「私人扱い」で自衛官を呼んで歌唱させるのは党の内外に対して自衛隊への影響力を誇示するものとであり、文民統制上許されない。高市内閣には文民統制に必要な見識が欠けているといわざるをえない。また鶫3曹が本当に「一私人」として参加したのも疑わしく、組織的な関与が疑われる。

しかも先月には陸自幹部が武装して中国大使館に侵入するという事件が起きたばかりだ。この件では我が国に非があるにも関わらず、日本政府は「遺憾の意」を表明するだけで中国に対して公的な謝罪すら行っていない。このタイミングで「自民党の軍隊」ではない自衛官を党大会に登壇させ制服で歌わせたのだ。中国がこれを「日本の軍国化の証拠」としてプロパガンダに使用することは予想できたはずだ。

現在の高市政権ではそのような外交的な配慮すらもできないことになり、軍政関係の常識を著しく欠いており、その順法精神、常識的な見識は中国共産党以下であるといえよう。

自衛隊の組織構造と政治的中立性に関するFAQ

Q1.自衛官と一般の公務員(行政職など)では、政治的制約にどのような違いがありますか?
A.実力組織の一員として、より厳格な制限が課されています。
自衛官は武器を扱う実力組織に従事しているため、自衛隊法により、一般の公務員以上に政治的行為の制限が厳格化されています。これは「軍事力が政治的勢力に加担した」過去の歴史的教訓に基づき、民主主義における文民統制を維持するための特別な措置です。

Q2.近代民主国家における「国軍」と、独裁体制等に見られる「党の軍隊」の決定的な違いは何ですか?
A.忠誠の対象と政治的中立性の有無にあります。
国軍: 国家と国民全体に奉仕し、政権交代にかかわらず中立を維持します(日本、米欧諸国など)。
党の軍隊: 特定の政党の指導下で、その政党の利益や理念を守ることを主目的とします(中国、北朝鮮など)。

Q3.諸外国の現役軍人が、制服姿で政党の集会等に出席することは一般的ですか?
A.先進民主主義国では、厳格に禁止されているケースがほとんどです。
例えば米国では、現役軍人が軍服で特定の候補者を支持したり、政党の党大会に登壇したりすることは軍の規律(UCMJ)に抵触し、処罰の対象となり得るほど重大な違反とみなされます。これは軍の政治利用を防ぐための国際的な標準(グローバルスタンダード)です。

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写真)党大会終了後、手を振って会場に応える高市早苗総裁(中央)
出典)自由民主党公式ホームページ




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