電気自動車は石油供給危機の救世主になるか?いま大量導入に舵を切るべきなのか冷静に考えてみる
執筆:杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
【本稿のポイント】
・自家用車用のガソリンは日本の石油需要の3割にすぎないため、石油の安定供給の確保が必要なことは変わらない。
・電気自動車(EV)は石油需要の削減にはなるが日本の電源構成の下では化石燃料需要の削減には必ずしもならない。
・石油供給の多様化に加え高燃費化・ハイブリッド化・プラグインハイブリッド化を進める方が費用効果的にエネルギー安全保障を確保できる。
エネルギー政策を専門とするキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹が、中東危機を受けて高まるEVへの期待に警鐘を鳴らす。EVで代替できるのは日本の石油需要の約3割にすぎず、ハイブリッド化や調達先の多様化の方が現実的なエネルギー安全保障策だと論じる。(Japan In-depth編集部)
中東でエネルギー危機が勃発して、日本の石油供給が危機にさらされている。これを受けて、EVに期待する声がある。
ではEVでガソリン自動車を代替すると、今後の日本のエネルギー安全保障にどのくらいの寄与ができるのだろうか。
まず、EVで代替できるのは石油全体の約3割である自家用車のガソリン需要に過ぎないことに注目する必要がある(図1)。残りの7割はEVでは代替できない。

図1
https://www.enecho.meti.go.jp/about/energytrends/202506/pdf/energytrends_all.pdf
トラック、建設機械、農業機械、漁船などのほとんどはディーゼル燃料を必要とする。化学原料のナフサも電気では代替できない。灯油や重油などは、ガスのほか、電気でも代替できるかもしれないが、これは従前に比べて全体に占める割合は小さくなった。
以上から分かることは、仮に自家用車の動力のほとんどをEVに替えたとしても、原油ないし石油製品としての石油の安定供給は依然として必要である。このことの政策上の重要性は今後も変わらない。EVで石油供給の問題のすべてが解決するわけではない。
EVは化石燃料依存を必ずしも減らさない
さて、EVを導入するとして、それが自家用車用のガソリン消費量を減らすにしても、それが果たして最も有効な方法なのかどうか、これについては検討する余地がある。
ガソリン消費を減らす手段としては、EV化の他に、
・既存のガソリン自動車の燃費の改善
・ハイブリッド化
・プラグインハイブリッド化
がある。EV化を図るよりも、費用効果的に、ガソリン消費量全体を減らすことができる。
またEVは、化石燃料の消費量の低減を必ずしも意味しない。というのは、日本の電源構成であれば、電源の7割は火力発電であるためだ。石油の消費量は確かに減るが、その一方で、ガスや石炭の消費量は増えることになる。ただし、中東依存度でいえば、石油が95%、ガスが10%程度なので、中東が危機にあるいま、より安定な供給が望めることにはなる。
EV導入のコストと資源リスク
では、いま起きている石油価格の高騰により、EVの方がコスト的に有利になるだろうか。少なくともこれまでは、EVは割高であったので、補助金や税制優遇など、さまざまな政策的支援に頼って導入されてきた。
想像をめぐらすべきことは、今般の中東危機のような供給ショックが起こると、資材価格全般が上昇するということである。EVは、ガソリン自動車に比べて資材投入が多いから、それによるコストアップも大きくて、必ずしもEVが有利になるとは限らない。
またEVを導入するとなると、そのバッテリーやモーターの製造工程における中国依存が問題になる。
モーターにおいては、いまのところ、レアアースの一つであるネオジムを大量に使用する。バッテリーにおいても、リチウムやコバルトを使用するが、中国がそのサプライチェーンを握っている。
これら鉱物資源の採掘・精錬・加工工程を、中国は武器化するようになった。折しも、中東危機を受けて、世界全体での地政学的緊張が高まっている。今後は、経済安全保障の観点から、中国依存を高めることにはますますリスクを伴うのではなかろうか。
トヨタが分かりやすく説明しているように、同じ量のバッテリーを使ってEVを一台作るよりも、ハイブリッド自動車を何十台も作った方が、大いに石油の節約にもなるし、CO2の削減にもなる(図2)。

図2
https://toyota.jp/info/e-toyota/news/carbonneutral-vehicle/article_36/
エネルギー安全保障には多様な手段が必要
そして、EVを導入してガソリン自動車を置き換えるといっても、それが目に見えてガソリン消費を減らすには、この先何年もかかるであろう。それよりは、石油の調達先を多様化してゆく努力に加えて、燃費改善、ハイブリッド化、プラグインハイブリッド化を進めることで費用効果的にガソリン消費を削減する方が、エネルギー安全保障の観点から有効な手段なのではなかろうか。
なおバイオエタノールは、その製造工程において化石燃料を多く使用するし、平時においても割高なものが、有事になるとガソリン同様に値上がりしてしまうので、エネルギー安全保障の観点からは意味が乏しい。

図3
CO2が減るというが、エタノール生産工程でのCO2排出も多いことが指摘されている(図3)。加えて、日本がエタノールを輸入する一方で、その輸入先の米国やブラジルは石油を増産しつづけて使っている。これでは日本はお金を損するだけでCO2排出削減にも寄与しているか疑わしい。
米国やブラジルからバイオエタノールを輸入するぐらいなら、米国やブラジルから石油を輸入するほうが低コストであり、石油の調達源が多様化できるので日本のエネルギー安全保障にも大いにプラスになるのではないか。

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■ FAQ
Q1. EVを大量普及させれば日本の石油供給危機は解決するか? A. 解決しない。EVで代替できるのは自家用車のガソリン分のみで、日本の石油需要の約3割にとどまる。トラック・建設機械・化学原料用ナフサなど残り7割はEVでは代替できない。
Q2. EVを普及させると化石燃料の消費は減るか? A. 減るとは限らない。日本の電源の約7割は火力発電であり、ガソリン消費が減る一方でガスや石炭の消費が増えるためである。
Q3. 石油価格が高騰すればEVはコスト面で有利になるか? A. 必ずしも有利にならない。供給危機時は資材価格全般が上昇するが、ガソリン車より資材投入量の多いEVはそのコストアップの影響を受けやすい。
Q4. EV普及は石油依存に代わる新たなリスクを生むか? A. 生む。バッテリーのリチウム・コバルト、モーターのネオジムなど主要資源のサプライチェーンを中国が掌握しており、石油依存を中国資源依存に置き換えるリスクがある。
Q5. エネルギー安全保障上、EVより有効な対策は何か? A. ハイブリッド化・燃費改善・調達先多様化の組み合わせが有効だ。少ないバッテリーで多くの車両を燃費改善できるハイブリッドは費用対効果が高く、即効性もある。EVは電源の脱炭素化が進んでから段階的に普及させるのが現実的だ。
【参考サイト】
- 資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)」 https://www.enecho.meti.go.jp/about/energytrends/202506/pdf/energytrends_all.pdf
- トヨタ自動車「カーボンニュートラル車の考え方」 https://toyota.jp/info/e-toyota/news/carbonneutral-vehicle/article_36/
- ブレークスルー研究所「バイオ燃料政策の問題点」 https://thebreakthrough.org/issues/food-agriculture-environment/biofuel-policy-is-failing-consumers-and-the-climate
トップ写真)トヨタプリウスプラグインハイブリッドの写真素材
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この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
【学歴】
1991年 東京大学 理学部物理学科卒業
1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了
【職歴】
1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所
1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員
2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員
2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

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