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.政治  投稿日:2026/4/17

陸自〝歌姫〟が自民党大会で君が代熱唱「法令違反」にも気づかぬ政府・自民のお粗末 


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【本稿のポイント】

・自民党大会で、制服を着た自衛官が国歌を歌い、野党などが「政治的中立」を損なうと批判している。

・法令に抵触するかは別としても、問題の経緯をみるかぎり、政府・自民党は軽率のそしりを免れない

・総選挙大勝の余韻の中、慢心、緊張感の欠如を示したというべきだろう

 

自民党大会において、制服を着た自衛隊隊員が国歌斉唱を行ったことが、政治的中立性をめぐる大きな波紋を広げており、野党や一部与党内からも批判が相次いでいる。自民党側は「政治的意味合いはない」と説明するが、事前の防衛省に対する確認を民間業者に丸投げしていた実態や、防衛相ら政治中枢への報告漏れが次々と露呈。元産経新聞論説委員長の樫山幸夫氏は、高市政権が憲法改正による自衛隊明記を目指す中で、こうした事態が起きたことの重大性を指摘している。(Japan In-depth 編集部)

 

当初「政治的意味合いはない」と説明

 

 制服の歌姫が「君が代」を熱唱したのは4月12日に東京・港区のホテルで開かれた自民党大会。自衛隊中央音楽隊所属のソプラノ歌手(三曹)が、国歌斉唱を先導した。

 終了後、野党などから、党大会という場に制服姿で登場したのは、隊員の政治的行為を禁じた自衛隊法61条に違反するなどの指摘がなされ、一部メディアも政府・与党批判を強めている。

自民党の鈴木俊一幹事長は当初、「国歌を歌うことに政治的意味合いはない」などと苦しい弁明、小泉進次郎防衛相も「それをもって自衛隊法違反という判断はしていない」として、いずれも問題はないとの見解を示していた。

隊員は事前に防衛省の担当部署の許可を得ていたというが、その報告は防衛相ら、しかるべき幹部には伝えられていなかった。陸自制服組のトップ、荒井正芳陸上幕僚長は報告を受けていたという。

 

法令違反の判断、民間業者に要請

 

 問題が広がることにあわてたのか、政府は15日になって軌道修正、木原稔官房長官が参院内閣委員会で、「法的に問題がなくても、例えば政務3役まで報告があがっていれば、別の判断があったと思う。反省すべきと考えている」と陳謝した。

木原長官は(党大会の運営を担当した)企画会社が防衛省に問い合わせたところ、法律違反にはならないとのことだったとも説明した。

しかし、本来なら企画会社ではなく、自民党自身が防衛省と協議すべきはなかったか。

 これについては、自民党の萩生田幹事長代行の説明はさらに不可解だ。 萩生田氏によると、自民党が企画会社に是非を確認したところ、問題ないという防衛省からの回答が伝えられたという。政権与党である自民党が、自衛隊法に関わる重要、微妙な問題の判断を業者に丸投げし、自らは防衛省と協議することを放棄したというのか。事実だとしたら驚くほかはない。

 

与党・維新からも批判

 

高市首相(自民党総裁)は、「当日、会場に着くまで知らなかった」と説明、鈴木幹事長同様、「国歌を歌うことは政治的行為ではない。自衛隊法違反には当たらない」との見解を示している。

野党は「党勢拡大に(自衛隊が)協力しているとみなされてもおかしくない」(国民民主党の玉木雄一郎代表、4月14日の会見)、「党大会は最高意思決定機関。政治的行為ではないというのはおかしい」(立憲民主党の田島麻衣子氏、4月14日の参院外交防衛委員会)など、さらに攻勢を強めている。

与党内からも「自民党の意思決定はうかつだった」(日本維新の会、藤田文武共同代表)との厳しい指摘がなされており、自民党内からも同様の批判がくすぶっている。

 

だれも気付かなかったことが問題

 

党大会で高市首相は、来年の党大会までに発議のめどをつけたいと憲法改正への意欲を表明したが、自民党の改憲案の目玉のひとつは自衛隊の憲法への明記だ。

そういうタイミングでのこのお粗末さはなんだろう。会場入りするまで知らなかった総裁、事務方から報告を一切受けていなかった防衛相、企画会社に丸投げする党―。緊張感の欠如、気のゆるみというにはあまりに重大だ。

政府・自民党が、疑義を感じながらも、東日本大震災などでの活躍で人気が高まっている自衛隊を憲法改正のために利用したと非難されてもやむをえまい。

14日づけの朝日新聞は、この問題を報じる記事のなかで、「だれも問題になると気が付かなかったことが問題だ」という「国防族議員」のコメントを紹介した。

本質をとらえているというべきだろう。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q:今回の騒動で、具体的にどの法律への抵触が懸念されているのか?

A 自衛隊法第61条が焦点となっています。この条文では、自衛隊員が特定の政党を支持するなどの「政治的行為」を行うことを厳しく制限しています。党大会に制服姿で出席しパフォーマンスを行うことが、この「政治的中立性」を損なう行為にあたるのではないかと批判されています。

Q:自民党側は、開催前に自衛隊法の確認を行わなかったのですか?

A 確認は行われましたが、その手法が問題視されています。自民党は直接防衛省と協議せず、大会運営を請け負った民間の企画会社を通じて是非を確認させていました。政権与党自らが法令解釈の判断を業者に「丸投げ」していた実態が明らかになり、その無責任さが指摘されています。

Q:防衛省や政府の中枢は、この件を事前に把握していたのですか? 

A 現場レベルでは許可が出ており、陸自トップの荒井陸上幕僚長も把握していましたが、小泉進次郎防衛相や高市首相ら政務三役には報告が上がっていませんでした。 木原官房長官は後に、報告があれば「別の判断があったと思う」として、政府内の連携不足を認め陳謝しています。

Q:野党はどのような論点で批判を展開していますか?

A 立憲民主党や国民民主党は、「党大会は政治活動の最たる場であり、そこでの活動が政治的行為でないとするのは無理がある」「中立性に疑惑を持たれるような行為は慎むべきだった」と批判しています。また、連立与党内の日本維新の会からも、自民党の意思決定の「うかつさ」を厳しく問う声が出ています。

Q:なぜこのタイミングでの失態が「重大」だと捉えられているのですか? 

A 自民党(高市総裁)は現在、「自衛隊の憲法明記」を含む憲法改正に強い意欲を示している時期だからです。自衛隊を憲法に位置づけようとする政権が、その運用の根幹である「政治的中立」に対してこれほど無頓着で緊張感を欠いていることは、改憲議論そのものに影響を与えかねない失態とみなされています。

 

論者の過去の記事はこちら

 

トップ写真:第93回自民党大会の様子

出典:自民党公式HPより

 

 




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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