ホルムズ危機が暴いた日本の脆弱性—エネルギー・防衛・外交の三重の課題—長島昭久・自民党安全保障調査会副会長に聞く
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【この記事のポイント】
▶ 米イラン停戦交渉はイラン側の意思決定機能の喪失(モザイクドクトリン)により決裂。第2回交渉の見通しは不透明。
▶ 燃料費調整制度の仕組み上、LNG価格上昇は2〜3ヶ月遅れで反映。今夏(6〜8月)に電気料金が10%以上跳ね上がる見通し。
▶ 米海軍はイラン戦争開始からわずか2週間で2年分のトマホークを消耗。東アジア有事への振り向け能力が急減。
▶ 中国はASEAN諸国へのエネルギー供給で影響力を拡大。「最も信頼できる国」で昨年初めて日本を抜いた。
▶ 2040年以降の「原子力の崖」を前に、原発の再稼働は「待ったなし」。
ホルムズ海峡封鎖が長期化する中、日本のエネルギー安全保障と防衛体制はどう変わるのか。Japan In-depth編集長・安倍宏行が、自民党安全保障調査会副会長・長島昭久衆議院議員にJapan In-depthチャンネルで直撃した。インタビューで見えてきたのは、エネルギー・防衛・外交、三つの危機が同時進行しているという厳しい現実だった。この夏の電気料金急騰、米軍の戦略的余力の低下、そして中国の「漁夫の利」——日本が「対岸の火事」と見ていられる時間は、もうない。(Japan In-depth編集長)
停戦交渉はなぜ失敗したのか
米イラン交渉は21時間に及んだ。覚書(MOU)の草案まで作成されたとの報道もある。にもかかわらず合意は成立しなかった。
長島氏はその理由をこう分析する。バンス副大統領が絶対条件としたのは「核開発の阻止」のみで、それ以外は譲歩の余地があったとみられる。問題はイラン側にあった。ハメネイ最高指導者の死去後、イランは「モザイクドクトリン」と呼ばれる分散指揮体制に移行しており、革命防衛隊の31地域司令官がそれぞれ独立して動いている。イランのアラグチ外相も国会議長も、最終的な決断権を持っていなかったのだ。
「詰めた時に、イエスと言えなかったんだと思う」と長島氏は分析した。第2回交渉の可能性は残るが、相手の意思決定構造そのものが機能不全に陥っている以上、先行きは依然不透明だ。
この夏、電気料金が跳ね上がる
「対岸の火事」ではないことを最も身近に示すのが、電気料金だと安倍編集長は指摘した。
LNGのスポット価格はすでに3月から上昇している。日本の燃料費調整制度は、過去3ヶ月の燃料価格の加重平均を2ヶ月遅れで電気料金に反映する仕組みだ。つまり、3月以降の価格上昇は、6月・7月・8月——最も電力需要が高まる真夏に——電気料金に反映されてくる。長期天気予報によるとこの夏は猛暑だという。
「(電気料金は)じわじわと、10%以上は上がるでしょう」と長島氏は述べた。石油備蓄がある日本はまだ持ちこたえられる。だが韓国などはほとんど備蓄を持たない。アジア全体が、この危機の直撃を受けつつある。
米軍の「余力」が尽きている
長島氏は、米軍の弾薬消耗の実態を指摘した。
イラン戦争開始からわずか2週間で、米海軍は2年分のトマホーク巡航ミサイルを打ち尽くしたという。沖縄の海兵隊4000人と第7艦隊の艦艇も中東に展開している。長島氏はこれを深刻に受け止める。「何か東アジアで起きた時に、アメリカが振り向けられる兵力がどれだけあるか」——台湾有事を念頭に置いた言葉だ。
日本がアメリカに発注したトマホークも、戦争前から調達が遅れている。同盟国として頼りにしてきた「盾」が、今この瞬間、別の場所で消耗されているという事実を私たちは認識すべきだろう。

写真)ミサイル駆逐艦USSトーマス・ハドナー(DDG 116)が、2026年3月1日、エピック・フューリー作戦を支援するため、トマホーク対地ミサイルを発射した。
中国が漁夫の利を得ている
もう一つの問題。それは、中国が無傷のままだということだ。
エネルギー不足に陥った東南アジア諸国に、石油とガスを供給しているのが中国だと長島氏は指摘した。
また、シンガポール主催のASEAN諸国世論調査(2019年から継続)によると、「最も重要な国」はかつてアメリカだったが、今は中国が首位に立つという。そして昨年、「最も信頼できる国」でも初めて中国が日本を上回った。
「(日本の)存在感がだんだん薄れてきている」と長島氏は危機感をあらわにする。いくら平時に他国と友好関係を築いていても、有事に「効く」外交力とは別物だということを、今回の危機は改めて突きつけた、との長島氏の指摘は重い。
日本外交に何ができるか
では日本に何ができるのか。
パキスタンは今回、米イランの仲介に乗り出した。インド・アメリカ・イランという複雑な関係の中で、長年にわたって「修羅場」をくぐり抜けてきた外交の蓄積があったからだ、と長島氏は分析した。トルコも積極的に手を挙げた。
こうしたなか、外務省内に、「和平協定ユニット」(地域横断型)が新設されたという。そのなかで、イランの戦後復興や人道支援に日本が積極的に関与することが提言された。中東の石油・LNG施設の復旧には日本のエンジニアリング技術が不可欠であることと、10年後・30年後の信頼関係は、今この時の関与によって作られることが番組で指摘された。
原発再稼働は「待ったなし」
翻って日本国内のエネルギー需給の問題だ。
現在、国内の原発は33基中14基しか動いていない。安全審査を通過しながら稼働していない原発がまだ複数ある。そうしたなか、我が国が迎える、いわゆる「原子力の崖」は深刻だ。2040年以降、老朽化した原発が次々と廃炉を迎える。今稼働させないまま老朽化を待てば、日本の電力基盤は取り返しのつかない打撃を受ける。
「稼働させないうちに古くなって、廃炉しなきゃいけないという、壮大な無駄を今やっている」——長島氏は指摘する。311以降、日本の原発は世界最高水準の安全基準が適用され、莫大な投資が行われてきた。その事実を政府はもっと積極的に発信すべきだと私も思う。
「今は戦前か、戦後か」
長島氏は講演の冒頭でいつも問うという。「今は戦後か、戦前か」と。
80年間の平和の中で、日本は「安いところから買えばいい」「いざとなればアメリカが守ってくれる」という前提で動いてきた。その前提が、今まさに崩れつつある。
ホルムズ封鎖は、エネルギー安全保障と軍事安全保障が「両輪」であるという事実を、日本人に突きつけている。正しく恐れること——それが今、私たちに求められていることではないか。
【よくある質問(FAQ)】
Q. ホルムズ海峡封鎖で日本の電気料金はいつ上がるのか?
- 燃料費調整制度の仕組み上、3月以降のLNG・原油価格の上昇は2〜3ヶ月遅れで電気料金に反映される。6月から8月にかけて段階的に上がる見込みだ。
Q. 日本の石油備蓄はどのくらいあるのか?
- 資源エネルギー庁によると、2026年1月末時点で国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄を合わせて248日分(約7,006万キロリットル)。ただし政府はすでに複数回の放出を実施している。2026年3月16日から民間備蓄15日分、3月26日からは国家備蓄原油の当面1ヶ月分、さらに産油国共同備蓄約6日分の放出を開始した。なおLNGはマイナス162℃での管理が必要なため長期備蓄が物理的に難しく、封鎖が長期化した場合は電力・ガス供給への影響が現実味を帯びる。
Q. 米イランの停戦交渉が失敗した理由は何か?
- イランはハメネイ最高指導者死去後、「モザイクドクトリン」と呼ばれる分散指揮体制に移行しており、外相や国会議長に最終決断権がなかった。21時間の交渉でMOU草案まで進んだが、「イエス」と言える権限を持つ人物がイラン側にいなかったことが最大の原因だ。
Q. 日本の原発は現在何基稼働しているのか?
- 2026年4月15日時点で33基中10基が営業運転中。安全審査を通過しながら稼働していない原発が複数存在する。2040年以降に老朽廃炉が相次ぐ「原子力の崖」を前に、再稼働の加速が急務とされている。
動画はこちら https://www.youtube.com/live/PrphWSI0k6g?si=KWxT_CO6lZ3CZxbt
本記事はJapan In-depthチャンネル(2026年4月14日配信)での長島昭久衆議院議員へのインタビューをもとに編集長・安倍宏行が構成しました。
トップ写真)長島昭久 自民党安全保障調査会副会長
ⓒJapan In-depth
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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