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.政治  投稿日:2026/4/19

ホルムズ危機と月1兆円補正予算——玉木雄一郎代表に聞く


Japan In-depth特集・玉木雄一郎対談(全2回・前編)

安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

【本稿のポイント】
・ホルムズ海峡情勢を受け、国民民主党は月1兆円規模に膨らみうる燃料対策費を試算、連休明けの補正予算編成を迫る。
・自衛隊は現行法でもオマーン湾・アラビア海北部・バブエルマンデブ海峡東側の三海域で情報収集活動が可能。玉木代表は活用の余地を指摘。
・イランの意思決定を握るのは「国家安全保障最高評議会(SNSC)」。外務省同士の交渉だけでは限界があると玉木代表は語る。
・米国内ではMAGA内部とイスラエル連合内部で二つの分断が進行。玉木代表はE.H.カーの『危機の二十年』を引きつつ、日本の取るべき中道を論じた。

緊迫するイラン情勢と高市政権の予算運営が大きな論点となる中、国民民主党の玉木雄一郎代表が2026年4月10日、Japan In-depthチャンネルに出演した。米イラン交渉の行方、自衛隊の法的根拠、駐日イラン大使との会談で得た知見、月1兆円規模に膨張しうる燃料対策費と補正予算の必要性まで、現下の最重要テーマを縦横に語った。聞き手は安倍宏行(Japan In-depth編集長)。

◼︎なぜ補正予算編成が避けられないのか——当初予算主義との矛盾
 高市政権の2026年度予算は、3月13日に衆議院を通過したものの、参議院で年度内成立ができず、約1週間の暫定予算編成を経て4月7日に成立した。玉木代表はこの経緯を振り返り、「参議院ではまることを国民民主党は予測していた」と述べた。
 玉木代表は、予算案本体には反対しつつも、歳入関連法案(所得税法、地方税法、特例公債法など)には賛成する立場を取った。衆議院で与党が2/3議席を確保している以上、予算本体は反対しても自然成立する一方、歳入関連法案は参議院でも成立させる必要があり、実質的にこちらが重要だったとの判断である。昨年12月18日に合意した「103万円の壁」引き上げは所得税法改正案に含まれており、この合意との整合性が取れているとした。
 玉木代表が最も強調したのは、連休明けにも補正予算編成が必要になるという見立てである。
 「ガソリン・軽油で月3000億円強、電気・ガスで月2000億円弱、合わせて月5000億円が当初の想定だった。だが原油価格がさらに上昇すると、有沢氏の試算では月1兆円弱になりうる」
 現行の支援策の財源は限定的だ。資源エネルギー庁の燃料油価格激変緩和対策事業の基金は約2800億円規模で運営されており、2026年3月19日から緊急的激変緩和措置が再開されている。玉木代表は「基金と予備費を合わせても1ヶ月半で尽きる」と指摘し、当初予算主義を掲げる高市政権への論理的矛盾を突いた。
【出典】燃料油価格激変緩和対策事業(資源エネルギー庁)

 現場からの声も深刻だ。玉木代表は全国を回る中で、A重油や軽油が漁業・農業現場に届かない実態に触れた。「政府の『備蓄はある』という視点と、現場の『届かない・高い』という実感にはギャップがある」と述べ、昨年来の米価高騰との類似性を指摘した。

 

◼︎自衛隊はホルムズ海峡周辺でどこまで活動できるのか——現行法の枠組み
 玉木代表は、日本の外交的選択肢を論じるうえで、自衛隊の既存の法的枠組みから話を起こした。
ソマリア沖・アデン湾では、平成21年6月に成立した海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)に基づき、2009年から海上自衛隊が海賊対処行動を継続している。国土交通省海事局の資料によれば、同法は保護対象を日本関係船舶のみならず諸外国の船舶にも拡大しており、国際協調の枠組みとして機能している。
【出典】ソマリア沖・アデン湾における海賊対策(国土交通省海事局)

 これに加え、2019年12月27日の国家安全保障会議・閣議決定「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について」に基づき、海上自衛隊は防衛省設置法第4条第1項第18号(所掌事務の遂行に必要な調査・研究)を根拠とする情報収集活動を、オマーン湾・アラビア海北部・バブエルマンデブ海峡東側のアデン湾の三海域(沿岸国の排他的経済水域を含む公海)で実施している。令和6年11月の閣議決定により活動期間は令和8年11月19日まで延長された。
【出典】中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組(防衛省)
 

 ただし、ホルムズ海峡とペルシャ湾は活動範囲から明確に除外されている。参議院外交防衛委員会調査室の立法と調査2020年9月号は、河野太郎防衛大臣(当時)の国会答弁として、これら二海域が主にイラン・オマーンの領海内であること、領海内の情報収集活動は沿岸国から無害通航と主張され得ないことなどを挙げ、除外の判断を総合的に行った旨を記載している。
【出典】中東地域への自衛隊派遣とイージス・アショアの配備断念(参議院外交防衛委員会調査室『立法と調査』2020年9月 No.427)

 不測の事態が発生した場合は、自衛隊法第82条に基づく海上警備行動を発令して対応する枠組みである。玉木代表はこの構造を踏まえ、「戦闘地域であるホルムズ海峡本体への派遣はできないが、バブエルマンデブ海峡やエスコートの役割など、日本が貢献できる領域はある」と述べ、既存法の枠内で取れる選択肢を整理するよう提起した。
 さらに玉木代表は、4月9日の参議院外交防衛委員会で山田宏議員(日本維新の会)が小泉進次郎防衛大臣に対して行った質問に触れ、サウジアラビアのヤンブ港からバブエルマンデブ海峡を経由するシーレーンにおいて、日本がイニシアチブを取った多国籍の護衛枠組みを構築する可能性を示唆した。


◼︎日本はホルムズ危機でどのような外交的役割を果たせるのか
 玉木代表は、米イラン間の直近の停戦仲介をパキスタン(および一部報道では中国)が担ったことに触れ、「本来であれば日本がやるべきだった」と率直に語った。
 「日本が安定的なシーレーン、石油関連商品の安定供給の国際的な枠組み作りに、今からでも役割を果たせる」
 この発言の背景には、米国・イスラエル・イラン・パキスタン・中国という主要関係国の中で、日本が比較的中立的な立場から仲介できる稀有なポジションにあるという認識がある。


◼︎イランの意思決定はどこで行われているのか——「国家安全保障最高評議会」の実像
 玉木代表は今週、駐日イラン大使と予定30分を大きく超える1時間10分にわたる会談を行った。その中で得た知見として最も強調したのが、「国家安全保障最高評議会(SNSC: Supreme National Security Council)」の存在である。
 SNSCはイラン憲法第176条に基づく組織であり、アジア経済研究所(IDE-JETRO)の松下知史研究員の分析によれば、「国益の保護、ならびにイスラーム革命と領土の一体性および国家主権の護持」を目的に設置されている。核開発をはじめとする安全保障上重要な外交・内政政策の決定権限を有し、その決定の実施には最高指導者の承認を要する。
【出典】「抵抗の枢軸」の岐路――イランの安全保障はどこに向かうのか《中東カタルシス》松下知史(アジア経済研究所)

 構成メンバーは、大統領(議長)、国会議長、司法長官、統合参謀本部長、ハータモル・アンビヤー中央基地司令官、革命防衛隊司令官、国軍総司令官、情報大臣、そして最高指導者の名代2人で構成される。外務大臣も閣僚として参加する。
 玉木代表はこの組織構造の実務的意味を次のように解説した。
 「例えば船舶の航行に関してイラン側に通してほしいと要請した場合、外務省がそれを受け取ると、SNSCに諮られる。そこで承認が出てはじめて革命防衛隊に指示が行く。だから外務省同士だけで交渉しても、革命防衛隊に話が伝わらない。アラグチ外相が停戦を発表した際、『最高評議会を代表して発表する』と明記したのは、その発表がオーソライズされた意思決定であることを示すためだった」
 玉木代表は外務省出身者でもある。中東1課(中東第一課)と2課(イランを含む)の分担があることを踏まえつつ、「3権の長と軍の司令官が一堂に会する組織は日本にも欧米にもない。だからこそ分かりにくいが、この組織の役割は非常に大きい」と指摘した。

 

◼︎米イラン交渉は何が争点なのか
 玉木代表によれば、米イラン間では米側15項目、イラン側10項目の提案が交わされており、イラン側の10項目にはペルシャ語で国内向けに発信されたもの、英語で対米向けに提示されたもの、パキスタンを介した仲介版の計3バージョンが存在するという。
 主要な争点は二つある。第一は、停戦合意の中にレバノンでのイスラエルの攻撃停止が含まれるか否か。パキスタン・イラン側は含まれると主張する一方、米側はイスラエルのことは含まれないとしている。第二は、英語で「enrichment(ウラン濃縮)」と呼ばれる濃縮の権利承認である。イラン側は承認が含まれるとするが、米側は含まれないとの立場だ。
 玉木代表は、「ここが入っていたら何も変わらない、何のための戦争だったのかということになる」と米側の立場を説明した上で、「明日からパキスタン・イスラマバードで始まる交渉は、両者が言っていることをまずすり合わせるところから始まる」と見通しを述べた。
 4月中旬時点でも原油価格の高値は続いている。米エネルギー情報局(EIA)のShort-Term Energy Outlookによれば、ブレント原油は3月9日に1バレル94ドルで取引を終え、年初から約50%上昇し、2023年9月以来の高値をつけた。LNG市場への影響も深刻で、JOGMECの天然ガス・LNG関連情報では、アジアのLNGスポット価格指標JKM(Japan Korea Marker)が3月2日のカタールエナジー不可抗力宣言を受け、2月27日時点の11.06ドルから3月20日には22ドル後半まで急騰したと記録されている。
【出典】Short-Term Energy Outlook(米エネルギー情報局 EIA)
【出典】天然ガス・LNG関連情報(JOGMEC)


◼︎◼︎米国内で何が起きているのか——「二つの分断」
 玉木代表は、トランプ政権の対イラン強硬策の背景に、米国内での二つの分断が進行していると指摘した。
 第一はMAGA(Make America Great Again)内部の分断である。CNNやABC Newsの報道によれば、タッカー・カールソン、キャンディス・オーウェンズ、メーガン・ケリー、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員ら、長年のトランプ支持者が対イラン軍事行動を相次いで批判している。カールソンは「アメリカがイスラエルの攻撃に加担している」と述べ、オーウェンズはアメリカ合衆国憲法修正第25条に基づくトランプ罷免を呼びかけた。
【出典】Analysis: What Tucker Carlson’s big break with Trump means(CNN Politics, 2026年4月7日)


 第二は米・イスラエル連合内部の分断である。玉木代表は、「イスラエルが停戦合意を守らないことにトランプ大統領は苛立ちを露わにしている」と指摘し、4月前半のレバノンへの大規模攻撃を受けて、米・イスラエルの蜜月関係にも亀裂が走っていることを示唆した。
「MAGA内戦と米・イスラエル連合の内戦、この二つの対立が表面化する中で、明日から交渉が始まる」

 

◼︎日本はどう振る舞うべきか——リアリズムと理想主義のバランス
 玉木代表は、政治における理想主義と現実主義のバランスに話を広げた。
 「昨日、国民民主党の古川元久代表代行が読んでいた本がE.H.カーの『危機の二十年』だった。1920年代の国際協調主義から1930年代の転落までを10年単位で描いた名著だ。冷戦崩壊から30年、自由主義経済・民主主義・グローバリズムへの反動が世界で一斉に来ている」
 玉木代表は、この反動の結果として「ルール・オブ・ジャングル(弱肉強食)」の時代に世界が片足を突っ込んでいると評した。重商主義的に富を自国に集める動きが17世紀以降の帝国主義と重なる現代版として現れているとの認識である。
 日本の取るべき道については、次のように語った。
 「日本はミドルパワーの国だから、アメリカとも中国ともロシアともうまく振る舞うしかない。そこはリアリズムだ。ただ、力による現状変更を許さないという長い歴史の中で積み重ねてきた国際法の基本ルールは残しておかないといけない。完全にルール・オブ・ジャングルに振り切るのは駄目だ」

 

◼︎記者の目
 玉木代表の今回の発言で最も実務的な意味を持つのは、駐日イラン大使との会談を通じて得たSNSC(国家安全保障最高評議会)に関する知見だ。日本政府の対イラン外交が主に外務省ラインで運営されている中、革命防衛隊や最高指導者を含む意思決定構造を理解せずに実効性のある交渉は難しい。この構造を踏まえた分析は傾聴に値する。
 一方、月1兆円規模の燃料対策費という試算は、政府の公式試算ではないが、いずれにしてもホルムズ海峡の封鎖が長引けば長引くほど、政府の負担は膨らむ。当面は、補正予算編成の議論が具体化していくことになるだろうが、巨額の補助金をいつまでも続けることに対する議論も当然出てくるだろう。
今回のイラン危機は期せずして日本のエネルギー安全保障の脆弱性を白日の下にさらした。高市政権が取り組もうとしている憲法改正の議論と並行して、如何に日本が中東に依存せずに、原油、LNGの安定供給を確保していくのかも大きな争点となるだろう。

トップ写真)国民民主党玉木雄一郎代表
出典)Japan In-depthチャンネル「高市政権との攻防 勝算は!?」2026年4月10日(金)11:00LIVE配信
動画URL: https://youtube.com/live/8UqnHVbZfZ4

◼︎FAQ
Q1. ホルムズ海峡とは?
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡で、最狭部は約33km。世界の海上輸送される原油の約2割が通過するとされる戦略的要衝。日本の原油輸入の約9割が中東地域に依存しており、その多くがホルムズ海峡を経由する。
Q2. バブエルマンデブ海峡とは?
紅海とアデン湾を結ぶ海峡で、スエズ運河ルートの南端。イエメンとジブチ・エリトリアの間に位置する。海上自衛隊は同海峡東側のアデン湾で海賊対処活動と情報収集活動を行っている。
Q3. 海賊対処法と海上警備行動の違いは?
海賊対処法(2009年成立)は海賊行為に特化した恒久法で、日本関係船舶のみならず諸外国船舶の保護も可能。海上警備行動は自衛隊法第82条に基づく一般的な行動類型で、不測の事態が発生した際に防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得て発令する。
Q4. イラン国家安全保障最高評議会(SNSC)とは?
イラン憲法第176条に基づき、国家安全保障上重要な外交・内政政策を決定する最高機関。大統領(議長)、国会議長、司法長官、統合参謀本部長、革命防衛隊司令官、国軍総司令官、情報大臣、外務大臣などが参加し、決定の実施には最高指導者の承認を要する。
Q5. E.H.カー『危機の二十年』とは?
英国の歴史家・国際政治学者エドワード・ハレット・カー(1892-1982)が1939年に刊行した国際政治論。第一次世界大戦後の国際協調主義(1920年代)から第二次世界大戦への転落(1930年代)までを理想主義と現実主義の対立として分析した古典的名著で、岩波書店などから邦訳が出ている。
Q6. ミドルパワーとは?
超大国や大国ではないが、一定程度の国際的影響力を持つ中堅国家を指す国際政治学の用語。経済産業研究所(RIETI)の添谷芳秀・慶應義塾大学教授の論考によれば、戦後日本は憲法第9条と日米安全保障条約を基盤に、大国との全面的対立を避けつつ紛争防止や多国間協力に力点を置く「ミドルパワー外交」を実質的に実践してきたとされる。玉木代表は、日本が米国・中国・ロシアといった大国のはざまで取るべき現実的な振る舞いを論じる文脈でこの概念を用いた。
【出典】大国ではないという選択(経済産業研究所 RIETI、添谷芳秀)

参考資料

  • 防衛省「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組」
  • 国土交通省海事局「ソマリア沖・アデン湾における海賊対策」
  • 参議院外交防衛委員会調査室「中東地域への自衛隊派遣とイージス・アショアの配備断念」(立法と調査2020年9月 No.427)
  • アジア経済研究所(IDE-JETRO)松下知史「『抵抗の枢軸』の岐路――イランの安全保障はどこに向かうのか」《中東カタルシス》
  • 資源エネルギー庁「燃料油価格激変緩和対策事業」
  • 米エネルギー情報局(EIA)Short-Term Energy Outlook
  • JOGMEC 天然ガス・LNG関連情報
  • 経済産業研究所(RIETI)添谷芳秀「大国ではないという選択」
  • CNN「Analysis: What Tucker Carlson’s big break with Trump means」(2026年4月7日)




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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