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.政治  投稿日:2015/1/17

[相川俊英]【36年ぶりに村長選挙が行われる村】~新人は69歳の元記者、11歳年下の現職に挑む~


相川俊英(ジャーナリスト)

「相川俊英の地方取材行脚録」

執筆記事プロフィール

 

地方活性化が日本社会の主要課題のひとつとなって久しい。地方創生を掲げる安倍政権も様々な地方重視策を打ち出し、手厚い予算配分を明言している。しかし、相も変らぬバラマキ策がほとんどで効果は期待薄だ。カネの力で地方の閉塞を打破できるはずもなく、地方自らが主体となって動き出さなければ再生への道は切り開けない。だからこそ、首長や地方議員を選ぶ選挙が重要となる。4月の統一地方選挙を待たずに各地で首長選や議員選が始まっている。そのひとつ、1月20日に告示されるある村の村長選が興味深い。人口約8500の新潟県弥彦村である。なんと36年ぶりの村長選になるという。弥彦村では1979年の村長選を最後に、8回連続して村長選が無投票となっている。立候補者が1人しか現れず、選挙なしで村長が決まっていた。新人同士の一騎打ちだった1979年の村長選は村を二分する大激戦となった。

両候補が掲げた政策に大きな違いはなく、人柄や人間関係、しがらみ、地縁などを競うどぶ板選となった。このため選挙後も村内にしこりが残り、住民の間にトラウマが生まれてしまった。村長選挙を嫌がるム―ドが村内に広がってしまったのである。

1979年の激戦を制した村長は2期目を無投票でパスし、その任期切れ直前に急死。後継に担ぎ出された元役場幹部が無投票で新村長に。以来、一度も選挙せずに4期務め上げ、助役にバトンタッチ。この助役も1度も選挙戦をせずに3期務め、今年1月に無投票で4期目に入るものとみられていた。

ところが、現職以外に名乗りをあげる人が現れ、36年ぶりの村長選というわけである。なにせ56歳以上の住民しか村長選を体験していない村である。静まりかえっていた村内がにわかに活気づいた。

弥彦村長選の注目点はそれだけではなかった。名乗りを挙げた人物の出馬に至るまでの経緯も意味深い。今の日本社会の姿を投影し、かつ、地方再生へのヒントのようなものが見え隠れしているからだ。

新人候補は小林豊彦さん、69歳。弥彦村出身の小林さんは、都内の大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。新聞記者として活躍し、日経リサーチ社社長などを務め、2005年に退職した。ひとり暮らしの母親の介護のために実家に戻ったのである。

生まれ故郷にUターンした小林さんは村政に危機感を抱くようになった。展望なきまま行政運営していると思ったのだ。政策論なき無投票選挙をいつまでも続けるべきではないと考え、候補者擁立を模索した。若い世代に決起を促したがうまくいかず、自らの出馬を決意したという。

こうして69歳の新人候補が4期目を狙う現職の大谷良孝さんに挑むことになった。新人候補が現職よりも11歳も年配で、通常の首長選とは真逆の構図だ。投票は25日。36年ぶりの村長選で住民はどんな民意を示すのか。

 

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