【アフリカで評価高い日本の平和主義】~日本信頼の根拠を堅持せよ~
俵かおり(在エチオピアジャーナリスト)
日本人ジャーナリスト後藤健二さんがイスラム国により無惨な形で殺害されたニュースは、ここエチオピアでも大きなショックをもって受け止められた。アメリカと違って他国に介入せず、平和主義を掲げ実行してきた日本人が標的となったことに、多くの人が驚きを隠せない様子だった。
ここアフリカという大陸は、多くの国がいやというほど争いを経験してきている。今現在でも、南スーダンをはじめ紛争が絶えないのがこの大陸だ。争いの形は異民族、異部族、異教徒同士の紛争であったり、ヨーロッパ帝国主義列強との戦いであったりした。この大陸での絶え間ない争いの歴史は、アフリカが貧困から抜け出せなかった、(そしていまだに多くの国が抜け出せていない)ことの最大の理由の一つでもある。
多くの国が多くの争いを経験してきて、戦争や紛争がいかに国を疲弊させ、人々に苦しみをもたらすかをよく知っている。だからこそ、エチオピア人や他のアフリカの国の人たちはもちろん、レバノンなどの中東の人々まで、彼らは驚くほど日本の平和主義を高く評価し、日本を信頼している。
彼らにとり日本は「第二次世界大戦でアメリカに負け、焦土と化したにもかかわらず、驚異的な速さで経済発展を遂げた国」であり、「大国となったのにもかかわらず一度も他の国に戦争を仕掛けていない平和主義の国」である。
国連に勤めるエチオピア人男性は言う。「日本の平和主義は驚異的だ。アメリカは他の国に戦争を仕掛けてばかりいる。戦争しては、その国を粉々に破壊している。自分たちのことしか考えていない。」
エチオピアで赤十字に勤めるレバノン人女性は言う。「日本は、大国なのにずっと長い間どことも戦争をしていない。だからこそ、私たちの国では日本に対する信頼がとても強い。」
日本は70年間、戦争をしないことによって、世界の多くの人々の信頼を「獲得」してきたのだ。日本への信頼は、長い時間と、戦争をしていないという事実に裏打ちされてゆっくりと醸成されてきたのだ。多くの日本人はこのことを知らないかもしれない。なぜなら、大きな橋や自動車を作る技術と違って平和主義は目に見えないからだ。
評価されていることも見えづらい。そしてアフリカや中東の人々の声というのは、日本には届きにくい。日本の集団的自衛権行使に関する議論で欠けているように見えるのは、日本の平和主義の、一見夢見ごとに見えるが、実際に効果をあげてきたという現実だ。
今、日本でフォーカスされているのは中国脅威論だ。日本の国力が相対的に低下するなか、強硬論は国民に受け入れられやすい。(国力が低下している時、どこの国でも同じ傾向をたどる)。けれども、もし日本が中国脅威論のみフォーカスし、平和主義が生んできた効果を過小評価し、軍事化の道を進むとすると、日本はこれまで長い時間をかけて築き上げてきた、かけがえのない信頼を失うだろう。
日本のような大国が70年もの間、戦争をしてこなかったという歴史は、あまりにも重たい。日本国内でもこの平和主義は着実に根を下ろし、日本人のアイデンティティーの一つになった。そしてこの平和主義は日本の外でも、多くの人々の間で日本への信頼として根を下ろしているのだ。このことの重さを今もう一度噛み締め、再認識、再評価するべきだ。長い間かけて張った根を簡単に刈り取るべきではない。
日本人がテロの標的になるのは、日本がアメリカ主導の「テロとの戦い」に、以前よりもより一層関与しているためだ。自衛隊のPKOの協力をはじめとする国際平和協力活動としての海外派遣が増えていることも関係しているだろう。こうした日本の外交政策は、海外の一部の人には、これまでの平和主義を捨て、アメリカのように戦争をできるようにしようとしていると曲解されて伝わる。
テロに標的にされないために、という理由よりも、日本が世界に貢献する現実的で効果的な方法として、日本はこれまでのように平和主義を掲げながら平和的な方法で中東やアフリカ、アジアなどの国々の発展に貢献するという道を貫くべきだ。そして、その道を堅持していくという決意を国際的に丁寧に、そして継続して発信していくことが必要だ。