無料会員募集中
.国際  投稿日:2024/11/13

米大統領選、「例外主義」の終わりの始まり


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#46

2024年11月11-17日

【まとめ】

・11月5日、米大統領選でトランプ候補が勝利した。

・勝因は「トランプ支持」より「民主党への幻滅」だった。

・米国の「例外主義」終焉の始まりとなる可能性がある。

 

 

11月5日の大統領選挙はトランプ候補の「圧勝」「完勝」に終わった、と内外メディアは報じている。この結果について、先週筆者は不覚にも、「今週中には恐らく確定しないと思う」などと書いてしまった。実際には開票開始から24時間ほどで「当確」が出ているのに。やっぱり今回も世論調査会社の予測は「当てにならな」かったのか・・・。

 

しかし、自らの予測ミスを「人様のせい」にするのは潔くない。「外れ」は「外れ」である。それでも筆者は10月末の関西某テレビ報道番組で問われ、苦し紛れに「政治学者としては『トランプ勝利』かもしれないが、歴史学者としては『ハリスが勝つ』ことが望ましい」などと予測していた。

 

ギリギリ、「当たらずとも遠からず」といったところか。

既に米国では今回の結果について多くの識者・有力メディアが様々な分析を試みている。トランプ候補の「地滑り」的勝利は、「経済・移民問題」を前面に、有権者各層、特に「男性、黒人、ヒスパニック系」の票を掘り起こした結果、大統領選挙人の数だけでなく、全国総得票数でもハリス候補を上回った結果、というのが通説らしい。

 

しかし、本当にそうなのか?なぜトランプの「完勝」と言えるのか?確かに7つの激戦州は全勝した。だが、全体の得票数では「トランプ候補が50.5%、74,650,754票獲得したのに対し、ハリス候補は47.9%、70,916,946票」で、その差は2.6%、370万票ほどで、全人口の1%未満の差だ。これを「地滑り」と呼ぶのは如何なものか。

 

また、先週筆者は、変な英語表現をお許し願い、「今回の大統領選はcautiously pessimistic (慎重かつ悲観的)」だともコメントした。確かに、今回は民主党系米国人にとっては大ショックのようで、当日の気分は文字通り「お通夜の晩」だったのだろう。

 

でも、不愉快な結果を単に「憂う」だけでは、正しい教訓は得られない。

 

では教訓は何だったか。確かに、トランプはほぼ全ての人種・職種等の有権者グループで票を伸ばした。裏を返せば、それはトランプ氏の政策への支持というより、民主党への幻滅感が大きかった、ということだろう。今回は「トランプが勝利した」のではなく、むしろ「バイデンが敗北」した大統領選挙だった、と筆者は総括している。

 

また、先週は、今回ほど「consequential」な大統領選挙はない、とも書いた。今回の結果が持つ現代史的意味は決して小さくないと思うからだ。今回の選挙は、米国史上、独立戦争、南北戦争、公民権運動に次ぐ4度目の南北の大規模な対立であり、米国が「例外主義」の国家であり続けるか否かが問われる政治イベントでもある。

 

その意味で、今回の選挙結果は、米国の「例外主義」の「終わりの始まり」なのかもしれない。トランプ再選と共和党による上下両院及び最高裁判所の支配の確立により、今後米外交の国際主義が変質していく恐れがある。そうなれば、第二次大戦後、米国が主導してきた「啓蒙主義的・自由主義的グローバリズム」の時代が終わる可能性すらあるのでは?・・・こうした仮説を今週の産経新聞WorldWatchに書かせてもらった。ご関心のある方は是非ともご一読願いたい。

 

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

11月12日 火曜日 イスラエル大統領訪米、米大統領と会談

  インドネシア大統領訪米

  NATO事務総長訪仏、仏大統領と会談

米フロリダ州知事、イタリア訪問、伊首相と会談

欧州委員会委員長、欧州理事会トップと会談

11月13日 水曜日 IAEA事務局長、イラン訪問

 ソマリランドで大統領選挙

11月14日 木曜日 スリランカで議会選挙

11月15日 金曜日 APEC首脳会議(2日間、 於ペルー)

11月16日 土曜日 ガボンで憲法改正国民投票

11月17日 日曜日 セネガルで議会解散総選挙

11月18日 月曜日  G-20首脳会合(2日間、於ブラジル)

 

最後はいつものガザ・中東情勢だが、米大統領選トランプ勝利を見極めた上での確信犯の行動なのか、イスラエルのネタニヤフ政権は西岸地域の入植地に対する「主権」を宣言した。狙いすました「癖球」をワシントンに投げた訳だが、果たしてトランプ氏はどう反応するか?強い反応がなければ、ネタニヤフの「勝ち」となる。やはり、ここはネタニヤフの粘り勝ちなのだろうか。

 

なお、先週は11月5日のミシガン州での投票結果が気になると書いたが、結果は約8万票という微妙な差でトランプ候補が勝利した。アラブ系有権者は約5万票といわれていたが、もしそうであれば、仮にガザ戦争がなくても、ハリスは負けていたのかもしれない・・・。

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

写真)選挙夜のイベントに、メラニア・トランプ夫人とともに登場したドナルド・トランプ氏(2024年11月6日 アメリカ・フロリダ州)

出典) Photo by Chip Somodevilla/Getty Images

 

 




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."