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.政治  投稿日:2024/11/13

「103万円の壁」撤廃は実現可能か? 国民民主党玉木雄一郎代表が疑問に答える


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!」

【まとめ】
・103万円の壁問題について、玉木代表は年末の税制改正に向け、実現に全力を尽くす意向を示した。

・ 大規模減税による財政への影響については、国民の生活を優先し、財政再建は後回しにするべきとの考えを示した。

・103万円の壁問題に加え、特定扶養控除の拡充も提案、若者の就労を促進し、世帯全体の負担軽減につなげたいとした。

 

先の衆議院選挙で躍進し、キャスティングボートを握った国民民主党。「手取りを増やす!」をキャッチフレーズに若者を中心に幅広く支持を広げた。その勢いは野党第一党の立憲民主党がかすむほどだ。

その立役者、表看板の玉木雄一郎代表。SNS戦略を駆使し、一躍人気者に躍り出た。

その玉木代表の降って湧いたスキャンダルにメディアは大はしゃぎだが、肝心の「103万円の壁」問題はどうなるのか。正直、懐具合が気になる諸氏も多かろう。本人に直接聞いた。

安倍: まず、今回の問題。党の結束に対する影響はどうか?

玉木: 大変、党所属議員にも迷惑をかけました。昨日、首相指名選挙があった時に、果たして玉木雄一郎と書いてもらっていいのかどうか、改めて両院総会にかけました。衆議院、参議院の仲間、特に新しく当選してきた新人議員の意見も踏まえた上で、最終的には全会一致で玉木雄一郎に入れようと決めていただいて、そして28票。衆議院では全員、参議院でも全員入れてくれたということですので、ありがたいという気持ちと、やはり自分がこうして問題を起こしてしまったことで党への信頼ということを傷つけたことは事実ですから。

国民民主党の政策に期待してくれた人もいると思いますので、今ちょうど政府与党とも協議交渉している、いわゆる「103万円の壁」の引き上げ、税負担の軽減、これをぜひこの優秀な仲間と一緒に勝ち取りたい、全力を傾けていきたいと思っています。

安倍: 今、協議のまさしく真っ最中だと思うんですが、影響はあると考えますか?

玉木: 今協議をしているのは浜口誠政調会長と古川元久政税調会長ですので、二人とも非常に優秀で、最前線でやってますから、彼らがしっかりと交渉してくれるので、それをバックアップしていきたいなと思っています。

安倍: 「103万円の壁」ですが、Xの投稿をみても、とにかく圧倒的にこれを実現してくれ、という声がずらーっと並んでますよね。これを信じて応援したんだ、という声が。

玉木: 驚くほど多いというのが実感です。実は我々、年収の壁といえば、106万円とか130万円とか社会保険料負担が増える壁のことをずっと意識してきたし、そのことに対策を取ってきて今2年間の暫定措置が一応この社会保険料の壁については入ってるんですけど、この103万円の税の壁は正直言うと今までノーマークでした。というのは役所の説明は、「最低税率5%だから1万円増えたって500円とか、たしかに税負担が生じ始めますけど関係ないですよ」というものだったので、意識していなかったのですが、選挙でこれを訴えたら、いかに103万円で引っかかってる人がいるか。かつ、ちょうどこの季節、10月ぐらいで最低賃金上がってるので結構早くこの103万円に達してしまって11月、12月シフト入れないということで、この忙しい年末にかけて雇ってる側も困ってるので、これ何とかしてくれって声が極めて大きい。政治はここに目を向けてこなかったということで、これは是非やろうということで、この年末の税制改正で今実現に向けて力を込めて魂を込めてやってる最中ですね。

安倍: 減税の恩恵は高所得者層に偏っているじゃないか、という批判を耳にします。どう答えますか?

玉木: これは、普段高い税率の負担をされている方は例えば75万円控除額が増えたらそこにかける税率なんで、当然額としては高所得者が大きくなるんです。しかし、今払っている税金に比べて何パーセント引きになるのかを計算すると、年収1000万円の方は16パーセント引きに対して、年収200万円の方は95パーセント引きなんです。だから、実は負担額に対する減税率は所得の低い人ほど高いということが実態です。あとまさに今税金がかからないのに、103万円で(就労時間を)調整してる人が178万円まで働けるようになるので、むしろ税金を1円も払っていない所得の低い人は、税金かからない中で1.7倍に年間所得が増えるから、やはり所得の低い人にこそやるべき政策だと思います。

安倍: そこが誤解されていますね。さて、いわゆるインフレタックスは、課税最低限度や税率区分を物価上昇率に連動させる、いわゆる物価スライド方式の方がいいんじゃないか、といっているエコノミストがいますよね。つまり、国民民主党の言っているのはいい手ではないんじゃないかと。その意見に対してはどうですか。

玉木: アメリカのIRS(内国歳入庁)は、インフレに合わせて毎年基礎控除、アメリカでは標準控除というのですが、これをまさにインフレに合わせて引き上げてるんですよ。日本は、実は1970年代、80年代はインフレに合わせて基礎控除を細かく引き上げてきたんですが、最後に上げたのは今から29年前の1995年ですが、そこからずっとデフレなので、インフレ調整が逆に止まってたんです。

▲図:昔はやっていた所得税のインフレ調整 提供:玉木雄一郎事務所

これが再びインフレになったんで、まさにインフレ調整で上げていこう、というのが私たちの提案なので、そのエコノミスト氏が言ってることと趣旨は同じだと思います。

むしろ我々、財源があるかなしか、というんじゃなくて、憲法25条の保障する生存権の問題で、人間が生きていくために必要な最低限のコストを賄う所得からは税金を取らないと。どちらかというと生きていけなくなる最低限のコストが今、インフレで上がってる。生きるコストが上がってるので、それを賄う所得も上がっている。税金を今のままだと取りすぎてるので、少し控除額を広げてですね。インフレで物価が上がっている分、手元に残すお金を増やして生きていきやすくする、ということを提案してますから、これはぜひやるべきなんですね。

安倍: それが手取りを増やすっていうことの真意ですね。

玉木: かつ、これは憲法25条の生存権が要請する憲法上の要請だということを為政者は忘れてはいかんと思います。

安倍: 大型減税で財政再建ができたためしがない、という論調も有りますね。

玉木: 財政再建のために財政政策をやってるわけではなくて、我々は選挙中に政治の役割は国の懐を豊かにするんじゃなくて、国民の懐を豊かにすることですよということを訴えてるんですね。確かにさっき言ったように、今物価が上がってる中でじゃあ基礎控除上げていかないと苦しくなる人が増えているので、やっぱりきちんとそれはインフレに合わせて控除額を引き上げていって、手元に残るお金を増やすと、まさに手取りを増やすことをしないと出ていくものは物価上昇で増えてるんですから、手取りを増やさないと生活が苦しくなるじゃないですか。もちろん財務省的な、あるいは国の財政を考えることももちろん大事なんですけれども、今は何より手取りを増やす。そのように、私は仁徳天皇の「民のかまどはにぎわいにけり」っていうあれを思い出すんですけど、皇居の高殿から見たら、家々から夕飯時に煙が出ていないと、それぐらい困窮してるということがわかり、仁徳天皇はそこから3年間租税の徴収を停止したんですよね。それでまた3年ぶりに見てみると、煙が上がってまさに民のかまどはにぎわっていたということを確認してから、皇居の改修に入ったと言われてるので、プライマリーバランスの達成もいいと思いますよ。今のまま行くと来年達成しますけど、でも国の懐を豊かにするのは、もうちょっと先、民の懐を豊かにしてからでも遅くないんじゃないですか、ということを提案してるんです。

安倍: 所得税の非課税枠を上げるだけじゃなくて、まずは、例えば扶養控除の適用範囲を広げることをセットにしなければそもそも就労拡大の効果は限定的なんじゃないのという意見もあります。

玉木: これは我々、合わせて提案しています。先週、自民党の小野寺政調会長に、我が党の濱口政調会長から、そして私昨日、石破総理と公明党の斉藤代表と党首会談の時に103万円を178万円に基礎控除等を引き上げろということと合わせて、特定扶養控除、例えば学生さんで言うと103万円超えると自分の税負担も発生しますけど、それを超えると、親が受けていた63万円の控除とかを受けられなくて親の負担が増える。この基準が103万円なんで合わせて引き上げていって、就労抑制にならないようなそういう手立てはセットでやっていくことを提案してます。

安倍: なるほどそれみなさんに伝わってますかね。

玉木: マスコミに一応伝えてますけどね。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

安倍: それから特定扶養控除を178万円に引き上げればそれほど税収を減らさずに就労を後押しできるのではないのかということについて。2018年、税制改正で非課税枠を見直した時に準備期間というのを設けましたよね。今回、年末調整で対応するという考えもあるけど、時間的にすごくタイトじゃないかという話もあります。

玉木: 年末調整は間に合わないので調べました。この補正に今年分を入れようと思ったんですけど、ちょっと今年も間に合わないので、例えばさっき言った特定扶養控除分だけ、雇用主が証明した場合については一時的な所得の増加であって引き続き130万円の範囲内ですよというような証明を出すのも、実は130万円の壁の時に今やってる暫定措置なんですね。そういうことを税でもやれないかというのは提案してますけども、基本的には、この年末の税制改正を決めて来年からの適用になるのかなと思ってます。ただ今年決めれば、安心して来年そうなるんだったら、今年も税金払ったり、少し負担増えるけど働いてみようかな、ということになるので、この年末に明確なメッセージ103万円が上がるんだというメッセージを出すことが大事だと思います。できるだけやれるところはやっていきたいと思います。

今年の年末調整にはちょっと間に合わないけど、今年中にどうなるかを明らかにしたいです。そうしたらみんな「上がるんだ。じゃあ、来年はしっかり働こう」とか、「来年働いて稼げるんだったら今年ちょっと税負担があってももうちょっと働こうかな」とか思うので、やっぱりメッセージを出すこと、来年どうなるんだっていう将来の見通しを明らかにしておくだけで、ずいぶん気持ちは違うし、経済活動も変わってくると思います。

安倍: 7.6兆円の減税はでかすぎるから、1兆円ぐらいになんとかならないか、みたいなことをいうエコノミストやFPがいたりしますが、わざわざ減税の効果を下げてどうするんだという話ですよ。せっかく7.6兆円と言ってる減税額が下がってしまうような腰砕け的な決着はぜひ避けてもらいたいですね。

玉木: 分かりました。そういう妥協は哲学が必要で、あるいは論理が必要で、我々はやっぱり最低賃金が103万円が決まった1995年から29年間で1.73倍になってるので、じゃあ、その高さも1.73にしてですね。そうじゃないと、結局単価が上がっても上で抑えてたら働く時間調整して結局豊かになれないわけですよ。

安倍: 本末転倒ですね。

玉木: 本末転倒だから、単価上げるときにあったらその枠も上げていかないとその分働けないし豊かになれない。つまり人が豊かになることを阻害しているような制度は変えたほうがいいです。

安倍: あと、ファイナンシャルプランナーとかが言ってます。壁を気にせず働けば、将来年金の保障が得られるんだよ、と。就労を抑えることによって厚生年金に入らないのはすごく損なんだよってことも言ったほうがいいと思います。

玉木: おっしゃる通り、ここはもうちょっとテレビ見ててもあんまり喋ってる人も理解せずに喋ってる人が多くて、私は何で178万円にしたかって、かなり大きな引き上げなんですけど、そうすることによって178万円まで少なくとも税金はかからないんだから、そこまで働くと結果として106万円、130万円の壁を超えてるんで、確かに社会保険料負担は生じるんだけど、将来の年金は増えるし、かつこれ飛び越えるので、多少増えた保険料負担を補ってあまりある減税があるので、世帯全体としては結局負担は減るので、こういうことも合わせて説明していきたいなと思ってるんですね。

安倍: これは是非、経済オンチの人にも分かるように説明してください。

玉木: ぜひ、(減税は)実現したいと思います。

(了)

トップ写真:玉木雄一郎代表 ⒸJapan In-depth編集部




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