米大統領選、選挙結果は今週中には確定しない
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#45
2024年11月4-10日
【まとめ】
・米大統領選、選挙結果は今週中にはおそらく確定しない。
・各州バラバラの郵便投票締め切り日時から開票の遅れや投票妨害の可能性があるから。
・カギは激戦州の最後まで投票先を決められない浮動票層の投票行動次第。
今週の、というより「今月の」ハイライトは、何と言っても、米大統領選挙だろう。10月末の日本の総選挙は、ある程度予想可能だったかもしれないが、今回の大統領選ばかりは、4年に一度だけ生き生きとする米国内外の「米大統領選オタク」ですら「予測不能」と言っている。かく言う筆者も結論は同じだが、ある程度の注釈は必要だ。
第一に、冒頭で米大統領選は「今月の」ハイライトと書いた理由だが、それは選挙「結果」が今週中には恐らく確定しないと思うからだ。理由は激戦州での接戦という不確定要素に加え、各州バラバラの郵便投票締め切り日時から開票の遅れや投票妨害の可能性まで、およそ日本では考えられないような問題が山積しているからだ。
第二に、「今年は接戦で予測が難しい」と皆がいうが、実はこれって最近の傾向であって、何も今年だけが例外ではない。1976年から毎回大統領選挙をフォローしてきたが、最近メディアは投票日直前に必ず「今年は接戦too close to call」と報じている。これって、購読者を増やし、視聴率を上げるための戦術ではないのかね。
第三に、そもそも各種世論調査は「当てにならない」という現実がある。彼らも商売だから、必死で調査はするのだが、各種調査を「総合的に」と言って、単に全国レベルで数字を加重平均して、〇〇%対●●%などと報じても、殆ど意味はない。真のカギは激戦州の最後まで投票先を決められない浮動票層の投票行動次第だからだ。
▲写真 フィラデルフィア美術館にある象徴的な「ロッキーステップ」の麓で行われた選挙運動の最終集会で演説するハリス候補(2024年11月5日ペンシルベニア州フィラデルフィア)出典:Kent Nishimura/Getty Images
最後に、そうは言っても、筆者の見るところ、今年の選挙結果は「二つの可能性」しかない。「トランプが勝利する」か、または「トランプが負けを認めない」か、のいずれかであり、筆者はマジで懸念している。こう考えられる時点で、アメリカの民主制度は既に傷付いてしまったのでは・・・、というのが筆者の現時点での見立てなのだ。
という訳で、今週中に大統領選挙の結果が出る可能性は低い。されば、大統領選に関するコメントは来週以降に書くしかないだろう。現時点では、変な英語表現をお許し願い、「cautiously pessimistic 慎重かつ悲観的」というコメントだけ残しておく。いずれにせよ、今年ほど「consequential」な大統領選挙はないだろう、とつくづく思う。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
11月4日 月曜日 中国全人代常務委員会(8日まで)
11月5日 火曜日 米大統領選挙
パラオで総選挙
NATO事務総長、イタリア訪問、首相と会談
カザフスタン大統領、訪仏し仏大統領と会談
ソマリア大統領、訪独し独首相と会談
11月6日 水曜日 露外相、カザフスタン訪問(7日まで)
EU委員会委員長、仏首相と会談
11月8日 金曜日 ハンガリー首相、EU首脳との非公式会談を主催
インドネシアとロシアの海軍が共同訓練(5日間)
11月10日 日曜日 モーリシャスで議会選挙
11月11日 月曜日 国連気候変動会合(アゼルバイジャン)
最後はいつものガザ・中東情勢だが、10月25日にイスラエルは対イラン大規模直接報復攻撃に踏み切った。イラン側は勇ましいことは言っているが、「再報復」はしていない。それどころか、イラン側はガザでの停戦交渉の行方次第では対イスラエル攻撃の内容が変わり得ることすら示唆している、と報じられた。
これについては「対イスラエル牽制」との分析もあるが、イスラエルが今譲歩して停戦を受け入れるとはイランも思っていないだろう。されば、イランはイスラエルに対し決定的な大規模「再報復」攻撃をする気がないのだろう。10月のイスラエルによる攻撃が余程ショックだったのか、このままでは戦ってもイスラエルには敗れるだけである。
ガザなどパレスチナ方面で続く戦況に大きな変化はない。そうこうしている内に、米国では大統領選挙の投票日を迎える。やはり、ここはネタニヤフの粘り勝ちである。この中東情勢でバイデン・ハリス陣営がどの程度ダメージを受けるかは、11月5日のミシガン州での投票結果(特に、アラブ系有権者の動向)で判断できるだろう。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:選挙集会の最後に踊るトランプ候補(2024年11月4日ノースカロライナ州ローリー)出典: Chip Somodevilla/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。