「若い人がネットに飛びついて不十分な情報で判断しているという仮説に私は立たない」国民民主党玉木雄一郎代表
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・SNSが特に若者層の投票行動に影響を及ぼしている。
・国民民主党玉木代表は、「若い人がネットに飛びつき不十分な情報で判断しているという仮説に立たない」と述べた。
・テレビは放送法の政治的公平性に関する指摘を真摯に受け止め今後の報道について考える時期に来ている。
先週末の岐阜県知事選で斎藤元彦氏が知事に返り咲いたが、勝因としてSNSによる後押しが挙げられている。選挙期間中、新聞、テレビといったいわゆる「オールドメディア」に対する批判がSNS上で拡散された。今年の東京都知事選における「石丸現象」しかり、そして先の衆院選における国民民主党の躍進しかり、SNSが特に若者層の投票行動に影響を及ぼしているのは間違いない。
こうしたなか、政治家はSNSをどう評価しているのか。国民民主党玉木代表の定例会見でJapan In-depth含め、複数のメディアが質問した。
玉木代表は、SNS上のデマや誹謗中傷について、Xを念頭に、「コミュニティノートとかがすぐ付くようになっているのはいい傾向」だと述べた。
また、SNS上でオールドメディアに対する厳しい批判が巻き起こっている現状については、「私はテレビがダメでSNSがいいという考えでもなく、多様なメディアを通じて有権者や国民が物事を多面的に判断することができるようになってきている」と分析した。
一方、SNSでの情報収集について、「受け取る側もいろんな形で情報を収集して吟味するようになっている」としたうえで、「若い人がネットに飛びついて不十分な情報で判断しているという仮説にも私は立たない」とも述べた。
最後にメディアと情報の受け手に対し、「技術の進展に伴って発信側も変わらなければいけないし、受信側もある種のリテラシーを高めていく、双方の努力が必要なのではないか」との考えを示した。
ところで、オールドメディア側からは、公職選挙法や放送法の縛りから、テレビは選挙報道に限界がある、との意見が出ている。NHKの日曜討論などでも、政治家の発言の秒数が各党平等に60秒などと割り当てられているのをよく見る。テレビはそうすることで放送法を順守していると考えているかもしれないが、BPO放送倫理・番組向上機構は、「2016年の選挙をめぐる テレビ放送についての意見」で「選挙報道」について、
「選挙に関する報道と評論に編集の自由が保障されている以上は、求められる「公平性」は「量的公平性(形式的公平性)」ではありえず、必然的に「質的公平性(実質的公平性)」となる。すなわち、選挙に関する報道と評論については、政策の内容、問題点、候補者の資質への疑問など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、どの政党に対してであれ、どの候補者についてであれ、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという姿勢こそが求められる
としている。
さらに、
国民の判断材料となる重要な事実を知りながら、ある候補者や政党に関しては不利になりそうな事実を報道しない、あるいは 政策上の問題点に触れない、逆にある候補者や政党に関してのみ過剰に伝えるなどと いう姿勢は、公平であるとは言い難い。これが「質的公平性(実質的公平性)」の意味であり、放送の結果、政党や候補者の印象が同程度になるとか、番組中での質問がどの政党や候補者に対しても同じであるというようなことは求められていない
とも述べている。
SNSに席巻されている今、テレビはこうしたBPOの指摘を今一度咀嚼し、今後の報道の在り方を考える時に来ている。
玉木代表の記者会見の概要は以下の通り。
記者: 県議会から不信任を提出された兵庫県の斉藤知事、先日知事選で再選したが、この結果についてはSNSがかなり重大な影響を及ぼすと指摘されていることに対してどうお考えか。
玉木: 一つの民意が示された結果だと思いますので、これは兵庫県民の皆さんの民意ですから、また投票率もかなり上がったというふうに聞いておりますので、この結果は重いと思います。SNSの影響が言われます。我々国民民主党の躍進にも、SNS、特に動画が影響したということを言われますけれども、これは一つの手段であって、やはり主張が一番大事で、それがSNSというメディアで伝わりやすくなったのかなと思いますので、あくまでこれは県民の皆さんの判断と民意の結果ではないかなと思っております。
ただ、この間のいろんな選挙を見ていて、我々もそうかもしれませんが、既存の政党とかあるいは既存の概念ということに対して満足しない、満足できない民意が存在しているなということは強く感じますので、そういったことをどうしっかり受け止めることができるのか、これからの政治には問われると思いますし、我々も何度も申し上げていますが、結党から4年、我々とて気を緩めると常に古くなって、今この瞬間も古くなってますから、常に自らをアップデートしていく。政策的にもやり方にしても手法にしても、常に自分たちが古くなっているんだという自覚を持って対応していかないと、政党や政治家はすぐ陳腐化するということの警鐘だと受け止めて、我々も変わり続けたいと思います。
記者: 来年参議院選挙、都議会議員選挙が行われるが、ネット戦略に関してどういうふうに戦略を練っていきたいと考えているか。
玉木: 改めて今回の衆議院選挙の振り返りをしっかりした上で、我々にとって完璧にできたとは思っていませんし、戦略的に行ったことと、結果として多くの名前も知らないたくさんの人に動画や様々な静止画の投稿も含めて助けていただいたおかげで結果が出ているのかなと思いますので、今回の兵庫県知事選挙の結果も含めてよく分析をして、来年の参議院選挙に生かしていきたいと思っています。
記者: SNS上では選挙各種選挙期間中に色々なデマや虚偽情報が出回るわけですけれども、これらの対策を今後どのようにしていくべきなのか、どのようにお考えでしょうか。
玉木: 私もXを使ってますけど、比較的コミュニティノートとかがすぐ付くようになっているのはいい傾向なのかなと思います。私も正直、必ずしも真実じゃないことを拡散されたりすることもよくありますし、今もそういうことにさらされていますが、ただ常日頃から発信をしていることによって、実はそんなこと言ってないよ、という過去の発言をユーザーの方が挙げてくれたりですね。
例えば典型的なのは尊厳死の発言について、私が日本記者クラブで少し短い時間の中でちょっと不十分な説明だったり、それで誤解も含めて広がった時にですね、この場で浜口さんと一緒に最初の政策を発表した時に、これは医療費の削減のためではなくて自己決定をサポートするための制度ですよということを発言していたので、その時の少し長めにしゃべっていたものを貼り付けて、支援者のみならずユーザーの方がですね。そういったファクトを補強してくれるという効果もありましたので、常日頃に地道に発信を続けておくということがネットドブ板として呼んでいますけれども、選挙になったからといって急にSNSを始めてもうまくいかないし、いざという時のフェイクニュースに弱くなるので、常日頃からの情報発信、地上線も空中線も同じだと思うんですけれども「ネットドブ板」大事だと思います。
安倍: NHKの報道で国民民主の政党支持率が5.1ポイントアップして7.4%になりました。代表自ら動画の後押しもあったということで、国民民主党は多くの国民に支持されているのかなと思いますが、同時に兵庫県のケースを見ると、デマであるとか、誹謗中傷が跋扈するというようなこともある。そういう中で、メディアの役割というものもますます重要になってくるのかなと思うんですが、そこについてはどんなお考えですか。
玉木: 我々、39歳以下、これ日経新聞さんだと思いますが、支持率が1位になったということなんですが、おおむね我が党も若年層の支持が固いというのは共通の傾向で出てきているなと。私はテレビがダメでSNSがいいという考えでもなくて、多様なメディアを通じて有権者や国民が物事を多面的に判断することができるようになってきているというふうにプラスに捉えています。
ただ、地上波の限界として、どうしても短い時間で放送機関の中で伝えなければいけない。我々もよくテレビで発言するんですけども、NHKの日曜討論もそうですが、1分以内で(ランプが)点滅し始めるし、あと放送法があるので各党全部並べて同じく聞かなきゃいけないというような、ある種の限界の中で既存のテレビも苦労されているのかな、という気がします。
ただ一方で、ネットメディアにもよく出ることはあるんですけど、2時間たっぷりですね、政策だけ話すことができる。これはもう地上波では無理ですよね。
ですから、いろんな形で情報を発信する、このメディアが多様化してきているので、そういった多様化したメディアに対応した情報発信をこちら側も気をつけなければいけないし、受け取る側もいろんな形で情報を収集して吟味するようになっているので、若い人がネットに飛びついて不十分な情報で判断しているという仮説にも私は立たないんですよ。彼らはよく見てますから、真偽を。
だからそこはですね、フェイクニュースなどに対してどう対応していくのか。これは特に外国勢力の影響が選挙などでも取り立たされるようになってきてますから、そこは何らかの対策が必要だと私も思いますけれども、基本的には、自由な言論空間の中で、やっぱりフェイクニュースとか間違ったものはいずれ淘汰されていくと、言論の自由市場での淘汰が正しく行えるような環境をどう整えていくのか、憲法にもかかる議論なんですけど、そういったこともこれからしっかり考えていきたいなと。
まさにそれは憲法審査会などで議論すべき、あるいはしてきた話なので、新しい言論空間の在り方をどう作っていくのか、民主主義の基盤になりますからね。技術の進展に伴って発信側も変わらなければいけないし、受信側もある種のリテラシーを高めていく、双方の努力が必要なのではないか、と思います。
トップ写真:国民民主党玉木雄一郎代表(2024年11月19日東京・千代田区)ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。